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「滞在者」から見たフランス年金改革デモの一断面

昨今、日本で報じられつつあるフランス年金改革デモについて、パリ以外の都市に住みつつ多少影響を受けている観点からメモしておこうと思います。

「革命」的な状況

フランス年金改革については、財政難などの理由から年金受給年齢を62歳から64歳に引き上げるというのが大きな内容で、もともと反対運動が起きていましたが、

という記事の通り、議会で多数決で通すことができないと分かった(総選挙の際に少数与党になってしまっていたため)時点で憲法49条3項を適用し、強行採択となりました。

この強行採択以降、元々大規模なゼネストが定期的に起きていたのに加え、manifestation sauvageと言われる突発的な、であるがゆえに破壊的にもなりかねない集まりが増えたように思います。

パリでのゴミ収集のサボタージュ、各観光地の閉鎖諸々の報道をご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、騒ぎが大きくなったためにイギリスのチャールズ3世のフランス訪問が延期になり、そのことを報じるイギリス報道機関に「フランス革命」と書かれるような状況ではあります。

何より、目立つような大騒ぎをしない、ごく普通の市民が多く集まりデモに参加しているのは確かで、フランス市民は大きな問題としてこの件を捉えています。

実際の生活

私が住んでいるリヨンは、フランス第2or第3の都市といえる規模もあり、微妙に治安の悪いところもあり、この状況下ではやはり、正規のデモにせよ自然発生的な騒動にせよ複数起きております。

幸いというか、当地の交通機関のストは比較的軽めで、子どもたちの学校も開いています。一番影響を受けているのは配偶者で、職場が時折予告なしにストで閉鎖されるので、閉まっているとBloqué !と言って帰宅し、自宅で仕事をするしかありません。

ただ、それこそ突然、道路がデモ隊に占拠されたり、警官隊と衝突したりしますので、公共交通機関が突如ストップしたのに気づいて子どもとの帰宅ルートを変えたり、娘の乗っていたバスが止まってしまい、親切な方の助けを借りて帰ってきたり、ということはポロポロ起きます。

また、騒ぎがあった翌日あたりは、沈静化はしており治安の不安もありませんが、破壊されたものが留置され、落書きを消す業者さんがフルスロットルで活躍しています。

割られたバス停の広告幕
割れた区役所の窓ガラスと落書き
数日間占拠されていた美術館。その直前に夫婦で行ったところだった…
緊急落書き消し業者さん

深刻な分断のひとつの具象化

ここからは、2年間という期間を区切っての居住者で、かつ、元来の人付き合いの少なさもあってほぼフランス市民とのコミュニケーションがない中で、しかし「生活」している身からの、この件に関する印象を述べます。

まず、64歳定年はおそらく、他国と比べると早くはありません。ちょっと調べてみた比較図を見ても、現在のフランスはヨーロッパで最も定年の早い国の一つです。

反面、定年が早いのを前提に回ってきた社会です。もちろん、リタイア後の本人たちの元気な老後を楽しめるように、という事由も大きいかと思いますし、私が観測できる範囲での影響を鑑みるに、共働きの家庭のかなりの割合で、祖父母の手を借りているようです。
そもそもフランスは、小学校までは週4日で水曜日休みがありますし、無論学童などの保育サービスでの補完はありますが、一定数の祖父母によるお迎えが見られます。また、フランスの大人の夏期休暇も十分長いですが、子どもに関しては、早い児童生徒は6月末から、9月の新学期まで全部お休みです。その期間、田舎の祖父母宅に子どもたちを行かせる人もおり、平均出産年齢が30歳程度であることを鑑みると、この2年の延長は、「元気な祖父母」の助力を得る妨げになりかねません。

加えて、これはストをしている際にも妥当しますが、身体を使う仕事、外に出なければできない仕事と、自宅でもできる仕事の人とで温度差が生じかねず、これが現状の政府に対する不満と重なりやすいのがより問題を解決しがたくしているように思います。
こちらにいて、思った以上に社会的な格差や社会資本の差を「超えられない」社会である、と感じています。私は、日本において十分な教育を受けた上で安定した仕事を持ち、戻るところがあり、子どもたちも多様性に配慮された教育環境にあるからこそ、このときこの場所を楽しめて学ぶところが多いということに改めて自覚的になりました。
そしてこの国の「どちら」にも属さないからこそ、この分断は埋めがたいものであり、しかし避け得ないものであると感じます。

これからどうなる…?

ひとまず、4月に入っても定期的にデモ&ストが予想されております。来週から2週間の学校休みです。ただ我が家は今回は遠出の予定がないので、フランス国鉄のストの影響などは受けないと思いますが、この状況がどう収束しうるのかは見通せません。
生活としてはとにかく着実に無理なくしつつ、あと数ヶ月のこの滞在、フランスという国の在り方を肌身に感じるしかない、というのがひとまずの結論です。

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