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自分が存在しなかったら、存在しえなかった仕事をしたい。

どんな仕事をしていきたいか、と聞かれたら、タイトルのような答えを返す。博報堂を辞めたのも、「ここにずっといたら、他の誰かがやってもさほど変わらない仕事」をし続けることになるだろうと、何となく感じ取っていたからだ。

経験上、「自分がいなかったら、存在しなかった仕事」に、大小の優劣はない。例えば、僕にとって「最も大きかった仕事」は「文鳥文庫」という、とても小さなプロダクトをつくったことだった。

文鳥文庫

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文鳥文庫は16ページ以内におさまる文学だけを集めた出版物だ。薄いカードのようになっていて、本文は蛇腹型になっている。走れメロスや芥川龍之介、そして村上春樹の「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」といった「短いけれど、とても深くて奥行きのある作品」収録している。村上春樹さんには、手紙を出して出版の許可をもらった。企画もデザインも、カラスデザイナーの柴田賢蔵が担当している。

この文鳥文庫は、きっと「僕がいなかったら生まれなかったであろう」という自負がある。それは何事にも変えがたい喜びであり、生まれてきたことの意味を実感させてくれる。

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僕にとって、アグリゲートの左今さんがつくった、旬八青果店もそんな仕事のひとつだ。今時、都内に八百屋のブランドをゼロから作ろう、などと言う人はまああまりいない。左今さんと意気投合してつくって、最初は僕も店頭にたったりしていた。

「それ、いったい何の意味があんの?」と思う人も実際にいるし、「似たようなものはいっぱいあるよね」と言う人もいる。まあわからない人がいてもいいのだ。「これは僕にしか咲かせない色をもった徒花だ」と、強く思う。そう思えることが何よりも大事なことだから。

ちなみに、こんな複雑性もなければ最新テクノロジーを使ったわけでもない、小さなプロダクトをつくるのに、思い立ってから3年くらいかかった。それくらい、「新しいものを世にうみだすというのは難しいことなのだ」と身を持って知った。

世の中の流れから脱輪して、新しい道に挑戦すると99%くらい失敗する。それは本当に簡単なことじゃない。でも「新しい道」を作ることは本当に尊く、それだけで意味のある仕事だ。

願わくば、そういう仕事が世の中に溢れてほしいと思う。ただのルーティーンの仕事や、右から左に何かを流すような仕事ではなく「あなたがいなければ生まれなかった仕事」で溢れたらいいなと思う。そんな「徒花こそが世界を鮮やかで楽しくする」、それは僕にとって揺るぎない哲学のひとつだ。

自分は、残りの人生の中で、それをどれくらい作れるだろうか。不安半分、希望半分、それらが交互に訪れるような毎日を過ごしている。たくさんできるような気もするし、何もできないかもしれない。一つ確かなことは、一つ一つ、地道にやってみるしかないということだ。そこに近道はなく、地道があるだけなのだ。

「それ、いったい何の意味があんの?」と思われるような「徒花」に溢れた、鮮やかで愉快な世界を想像しつつ、僕もひとつずつがんばっていきます。

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