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条文解説【著作権法第15条(職務上作成する著作物の著作者)】

著作権法第15条(職務上作成する著作物の著作者):
 
「1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」
 
本条は、従業員等が職務上作成する著作物について、社会通念及び著作物を利用する際の便宜等を考慮して、所定の要件を満たす場合には、その使用者に著作者としての地位を認めるとともに、当該使用者が会社等の法人である場合にも、当該法人が著作者になりうることを明らかにした規定です。
例えば、新聞記者によって書かれた新聞記事や、公務員によって作成された各種の報告書などの著作物については、その記者や公務員が著作者となるのではなくて、彼らと雇用関係等にある新聞会社や国又は地方公共団体が(原始的に)著作者となります。少々特殊な規定ですが、とりわけ、自社の従業員に日常的に著作物を作成させる企業にとっては実務上非常に重要な規定になりますので、留意してください。
 
「著作者」(2条1項2号)となりうる者は、実際に創作活動を行った「自然人」(生身の人間のことです)であることが原則です。ところが、本条に定める以下の5つの要件(①~⑤)を満たす著作物(ただし、「プログラムの著作物」については④の要件は不要です。2項参照)については、例外的に、会社などの「法人その他使用者」が著作者として扱われることになります。これを、「職務著作(物)」とか「法人著作(物)」と呼んでいます。
 
▶ 職務著作物(法人著作物)の要件
 
法人等が著作者となるためには、次の5つの要件―①「発意要件」②「業務要件」③「職務要件」④「公表要件」⑤「契約要件」―すべてを満たす必要があります。ただし、上述したように、「プログラムの著作物」については、④の要件(公表要件)は不要で、それ以外の4つの要件が整えば、職務著作に該当します。その趣旨は、プログラムの著作物の場合、特定の組織内で作成されたものがその組織内だけで利用されて、一般に流通しない(そもそも公開も予定されていない)場合が多いため、公表を前提とすることは妥当でないと考えられるからです。
 
① 発意要件:法人その他使用者(「法人等」)の「発意に基づき」作成される著作物であること。
 
「法人」には、「法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」(例えば、自治会やPTAなど)が含まれます(2条6項)。
法人等の「発意に基づき」とは、著作物を作成するという意思が、直接又は間接に、法人等の判断によることを意味していると解されます。したがって、ある著作物の作成を企画したことが、直接的にも、間接的にも、法人等の意図ないし判断によるものとは言えない場合には、そのような状況下で作成された著作物が職務著作物(法人著作物)に該当することはありません。
 
② 業務要件:法人等の「業務に従事する者」により作成される著作物であること。
 
この要件については、次の最高裁の判例(平成15年4月11日最高裁判所第二小法廷[平成13(受)216])が参考になります:
 
『著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である。』
 
法人等と著作物を作成した者との間に雇用関係(雇用契約)があれば、その者が「法人等の業務に従事する者」に該当することは明らかでしょうが、両者間に明確な雇用関係がなくても、つまり、委任契約や請負契約に基づく場合であっても、雇用関係における指揮監督関係に匹敵する程度の実質的な指揮監督関係が認められるならば、「法人等の業務に従事する者」に該当しうる場合があると思われます。例えば、フリーのライターが出版社の指揮監督下で他の従業員と同様な立場で雑誌記事の作成業務に関与した場合の当該フリーライターは、一般的に「法人等の業務に従事する者」といえるでしょう。
 
労働者派遣事業法に基づく派遣労働者が作成した著作物については、どのように考えられるか。派遣労働者は、派遣元とも雇用関係を維持しつつ、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために働きます。したがって、「実質的な指揮監督関係」を重視する考え方に立てば、派遣元との形式的な雇用関係でとらえることは妥当でなく、よって、派遣労働者は、派遣先の業務に従事する者に該当することになるでしょう。
 
なお、「法人等の業務に従事する者」には,当該法人の代表取締役も含まれると解されます。
 
③ 職務要件:業務に従事する者が「職務上作成する」著作物であること。
 
会社の従業員であっても余暇を利用して職務に関係のない著作物を独自に作成した場合や勤務時間内であっても職務とは全く関係のない著作物を私的に作成した場合には、そのような著作物について会社が著作者になることはありません。
一方、職務上作成するものであれば、必ずしも勤務時間内に職場で作成する必要はありません。勤務時間外に自宅に持ち帰って作成したものであっても、それが職務に基づいて作成されたものである限り、当該著作物は「職務上作成する」著作物といえます。
 
④ 公表要件:法人等が「自己の名義の下に公表する」著作物であること。
 
この要件に関してはいくつかの考え方がありますが、一般的には、創作時に当該法人名義で公表することが予定されている場合又は公表を予定していないが、公表するとすれば当然に当該法人名義で公表されるべきものである場合にはこの要件を満たす、と考え、この公表要件を広く捉えています。この考え方に立つと、そもそも公表を予定していない著作物、特に企業防衛上機密扱いとすることが妥当なものについても職務著作が認められる余地があり、そうなると、本規定は企業防衛としての機能をも果たしうるものになります。
 
従業員が職務上作成した著作物であっても、その作成者(従業員)本人の名義で公表するもの又はすでに公表したものについては、職務著作とはなりません。
 
⑤ 契約要件:作成時における契約、勤務規則その他に「別段の定めがない」こと。
 
本条は、実際上の取扱いや便宜などを考慮して、例外的に、法人等が著作者の地位に立てる場面を定めたものに過ぎません。そのため、従業員が創作した著作物に係る著作権の帰属や移転に関しては、当事者(関係者間)の意思が尊重(優先)されます。したがって、法人等とその従業員との間で、著作物を作成する際の契約等で「被用者(従業員)を著作者とする」とか、「著作権は被用者に帰属する」といった「別段の定め」があれば、以上の①~④(プログラムの著作物については①~③)の要件をすべて満たす著作物であっても、当該著作物について法人等が著作者となることはありません。

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