条文解説【著作権法第12条(編集著作物)】
著作権法第12条(編集著作物):
「1 編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
2 前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。」
本条は、編集著作物の概念を明らかにするとともに、編集著作物に対する保護は、そこに収録されている個々の著作物の保護とは別個独立したものであることを定めた規定です。
▶編集著作物の意義
「編集著作物」とは、「データベース」(2条1項10号の3参照)を除いて、「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」をいいます(1項)。例えば、新聞や雑誌、百科事典、美術全集、詩集、論文集、判例集、名曲集、英単語集、職業別電話帳、人名録などがこれに当たります。このような編集著作物は、その全体で一つの著作物として扱われます。
編集著作物を構成する「素材」は、著作物に限りません。非著作物(単なるデータや事実など)であっても構いませんし、すでに保護期間が経過して自由利用が可能になっている著作物でも構いません。既存の著作物と非著作物との混合であっても構いません。著作権の目的とならない著作物(13条参照)であっても構いません。重要なのは、以上のような素材の「選択又は配列」であり、素材が具体的にどのように創意工夫を凝らして「選択」され又は「配列」されているかということです。
▶編集著作物の著作者の権利と各素材の著作者の権利との関係
上述したように、「編集著作物」は、その素材の選択又は配列によって創作性を有すると認められる場合に、全体で1つの著作物として保護されることになっています。したがって、編集著作物の著作者の権利(著作権及び著作者人格権)は、当該編集物を構成する著作物の著作者の権利(著作権及び著作者人格権)に影響を及ぼすことはありません。第2項は、このことを確認的に規定しています**。
**(参考:ベルヌ条約2条(5))
(5) Collections of literary or artistic works such as encyclopaedias and anthologies which, by reason of the selection and arrangement of their contents, constitute intellectual creations shall be protected as such, without prejudice to the copyright in each of the works forming part of such collections.
(5) 百科事典、アンソロジー[選集]のような、素材[内容]の選択及び配列によって知的創作物となる、文学的又は美術的著作物の編集物は、そのような編集物の部分を構成する各著作物の著作権を害することなく、それ自体で保護される。
本条第2項は、既存の著作物を編集して編集物を完成させた場合に、素材の選択方法や配列方法に創作性が見られるときには、そのような編集を行った者に編集物を構成する個々の著作物の著作者の権利とは独立して、当該編集著作物に対する保護を与える趣旨を注意的に規定したものと解されます。例えば、編集著作物に対する著作権の保護期間は、その部分を構成する著作物にかかる著作権の保護期間とは別個に計算されることになります。
個々の素材が著作物で構成される編集著作物を(全体で)利用しようと欲する者は、当該編集著作物の著作権者の許諾を得ただけでは足りず、その編集著作物を構成する個々の著作物の著作権者の許諾をも必要とします。一方、編集著作物の著作権が及ぶのは、あくまで編集著作物として利用された場合に限られ、当該編集物の部分を構成する著作物が個別に利用されるにすぎない場合には、当該編集著作物の著作権利はこれに及ばないと解されます。そにため、編集著作物に収録されている個々の著作物の利用(だけ)を欲する者は、その個々の著作物の著作権者からの利用許諾を得れば足り、当該編集著作物の著作権者からの利用許諾を得る必要はありません。少々ややこしいので、注意してください。
▶適法要件について
旧法下では、編集著作物がその全体で保護されるためには、他人の著作物を「適法ニ」編集していなければなりませんでした(旧著作権法14条参照)。これに対し、現行法では、このような適法要件は設けられていないため、「素材」として選択等された個々の著作物の著作権者に無断で作成された編集著作物であっても著作権法による保護を受けることができます。もっとも、当該編集著作物の利用に当たっては、その無断で収録された他人(個々の著作物の著作権者)の許諾なしに行うことはできません(無断利用をすれば、当該他人の著作権を侵害することになります)ので、結局、他人の著作物を自己の編集著作物の素材として収録する場合には、事前に当該他人の許諾を得ておくことが賢明であるといえます。
▶裁判例:平成12年11月30日東京高等裁判所[平成10(ネ)3676]
著作権法によって保護されるのが、「表現したもの」すなわち現実になされた具体的な表現のみであることからすれば、思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出す本(もと)になったアイデア(着想)も、それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。そして、この理は、対象が編集著作物であっても同様であると解すべきである。
すなわち、著作権法は、編集著作物について、「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」(12条1項)と規定しているものの、編集物もまた、「著作物」の一種にほかならず、そこでは、著作物性の根拠となる創作性の所在が素材の選択又は配列に求められているというだけで、前述した「著作物」の意義に鑑みれば、たとい素材の選択又は配列に関する「思想又は感情」あるいはその表現手法ないしアイデアに創作性があったとしても、それが「思想又は感情」あるいは表現手法ないしアイデア(以下、これらをまとめて「発想」ということがある。)の範囲にとどまる限りは、著作権法の保護を受けるものではなく、素材の選択又は配列が現実のものとして具体的に表現されて、はじめて、表現された限りにおいて、著作権法の保護の対象となるものと解すべきである。逆に、編集著作物にあっては、その素材の選択又は配列に関する発想において創作性を有しなくても、これに基づく現実の具体的な素材の選択又は配列に何らかの創作性が認められるなら、その限りにおいて著作権法の保護を受け得ることになるのである。
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