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キーワード『侵害コンテンツのダウンロード違法化』

『侵害コンテンツのダウンロード違法化』
 
はじめに
 
著作物は、「私的使用を目的とするとき」は、原則として、その使用する者が自由に複製することができます(30条1項柱書)が、これには、いくつか「例外」があります。そのなかで、近年になって追加された条項が「侵害コンテンツのダウンロード違法化」に関する30条1項3号(平成21年法改正で追加)と4号(令和2年法改正で追加)です。
 
条文が少々分かりづらい(読みづらい)のですが、まずは、原文をそのまま引用します。
以下に掲げる場合(3号4号)には、私的使用を目的とする場合であっても自由複製は認められません。
(3号)
『著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合』
(4号)
『著作権(第28条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)』
 
3号について
 
私的使用を目的として自らする複製であっても、著作権を侵害する自動公衆送信(2条1項9号の4参照)を受信して行うデジタル方式の特定侵害録音録画を、それである(特定侵害録音録画である)ことを知りながら行う場合には、複製権を侵害することになります。平成21年の法改正で追加された条項です。
 
背景と意義
 
インターネットの普及拡大や情報処理の大容量化等を背景に、携帯電話向けの違法音楽配信サイトやファイル交換ソフト等によって違法に配信される音楽や映像作品を複製(ダウンロード)する行為が正規の配信市場を上回る膨大な規模となっているとの指摘が従来からありました。違法なインターネット配信からの音楽・映像のダウンロードの規模がますます膨大になってきていることや、違法配信そのものに対する対抗手段としての技術上の制約等から、音楽や映像等に係わる権利者団体(民間団体)だけで違法配信に対処することには限界があります。そこで、平成21年の法改正で、以上のような実態に着目しつつ、違法なインターネット配信から音楽・映像を複製(デジタル録音録画)する行為については、私的使用目的にかかる自由複製の適用対象から外して、その行為を違法配信からの複製だと認識しながら行うものに関しては、原則通り、権利者からの複製(デジタル録音録画)の許諾を要することとしました。
 
この改正により、違法配信からの複製と知りながらデジタル録音録画を行った場合には、複製権の侵害行為となりますので、当該行為に対しては一定の要件の下で民事的な請求(差止請求や損害賠償請求等)が権利者からなされる事態も想定されます。
一方、刑事上の制裁に関しては、そのような行為を行ったとしても、著作権侵害罪として罰則(刑罰)を科されることはありません(119条1項参照)。もっとも、この点については、平成24年の法改正により、「違法ダウンロードの刑事罰化」が明定されました。すなわち、特に悪質な行為(注)については、刑事罰(2 年以下の懲役又は200 万円以下の罰金(懲役と罰金の併科も可)(親告罪))の対象になりました(119 条3項1号)
(注) 私的使用の目的をもって、「録音録画有償著作物等」の著作権を侵害する自動公衆送信又は著作隣接権を侵害する送信可能化に係る自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(「有償著作物等特定侵害録音録画」)を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者に刑事罰が科せられることになります。
 
4号について
 
違法にアップロードされた著作物のダウンロード規制(私的使用目的であっても違法とする)について、その対象を音楽・映像から著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大するため、令和2年の法改正で新たに追加された規定です(「令和3年1月1日」から施行)。
もっとも、「海賊版対策としての実効性確保」と「国民の正当な情報収集等の萎縮防止」のバランスを図る観点から、規制対象を違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合のみとするとともに、次の①~④を規制対象から除外しています:
① スクリーンショットを行う際の写り込み
② 漫画の1コマ~数コマなど「軽微なもの」
(注) 「軽微なもの」であるか否かについては、典型的には、数十ページで構成される漫画の1コマ~数コマなど、その著作物全体の分量から見てダウンロードされる分量がごく小さい場合には、一般的に、「軽微なもの」と認められと考えられます。その一方で、例えば、漫画の1話の半分程度や、絵画・写真のように1枚で作品全体となるもののダウンロードは、通例「軽微なもの」とは言えないと考えられます。もっとも、このような分量の取扱いはあくまで典型例で、最終的には、個別の事案ごとに、著作物の種類や性質、当該著作物全体の中での複製する部分の位置付けなども考慮して、裁判所で判断されることとなります。
③ 二次創作・パロディ
④「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」(注)のダウンロード
(注)「著作者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」については、国民の正当な情報収集等への萎縮を防止する観点から、様々な要素に照らして違法化対象からの除外を柔軟に判断できる安全弁として設けられています。具体的にこれに該当するか否かは、個別の事案ごとに、(ア)著作物の種類・経済的価値などを踏まえた保護の必要性の程度,(イ)ダウンロードの目的・必要性などを含めた態様、という2つの要素によって、最終的には裁判所によって判断されることになります。
典型例としては、一応、次のケースが「特別な事情がある場合」のダウンロードに該当するものと考えられます:
〇 詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(著作物)が被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載(違法アップロード)されている場合に、それを自分や家族を守る目的でダウンロードすること。
〇 無料で提供されている論文(著作物)の相当部分が他の研究者のウェブサイトに批判ととともに無断転載(違法アップロード)されている場合に、それを全体として保存すること。
〇 有名タレントのSNSにおすすめイベントを紹介するためにそのポスター(著作物)が無断掲載(違法アップロード)されている場合に、そのSNS投稿を保存すること。
 
なお、刑事罰については、特に悪質な行為に限定する観点から、正規版が有償で提供されている著作物を反復・継続してダウンロードする場合に限定しています(119条3項2号参照)。
 
解釈規定(30条2項)について
 
30条2項に、『前項第3号及び第4号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。』との解釈規定が新たに設けられました。これは、たとえ「重大な過失」があったとしても、違法にアップロードされたものだと「知らないで」ダウンロードを行った場合も違法にならない、ということを明示しています。具体的にどのような場合がこれに該当するか。 「重大な過失」とは、通例、著しい不注意を意味するものであり、例えば、誰も知っているような有名な海賊版サイトであるにも関わらず、著しい不注意によってそのようなサイトだと気付かずにダウンロードした場合などが想定されています。
AK

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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