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条文解説【著作権法第2条(定義)第1項第11号】

著作権法第2条(定義)第1項第11号:
 
「1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(ⅹⅰ) 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。」
 
著作権法第2条は、著作権法において重要な概念となる用語や頻繁に使用される用語の意義をあらかじめ明確に定めることにより、解釈上の疑義を極力避けることを狙った規定です。
 
「二次的著作物」とは、著作物を「翻訳」し、「編曲」し、若しくは「変形」し、又は脚色し、映画化し、その他「翻案」することにより創作される著作物をいいます。要は、もとになる著作物(これを「原著作物」と呼んでいます)があって、これに一定の創作的な手(表現)が加えられて作られるもの(著作物)が”二次的”著作物となるわけです。そして、その創作的な手(表現)の加え方によって、二次的著作物は、「翻訳著作物」・「編曲著作物」・「変形著作物」及び「翻案著作物」の4つに大別されます。
 
二次的著作物に係る著作者の権利が有効に発生するためには当該二次的著作物が「適法に創作されたこと」(いわゆる適法要件)は要求されていません。したがって、二次的著作物の創作過程に違法性があっても(原著作者に無断で二次的著作物を創作しても)、当該二次的著作物に係る著作者の権利(著作権及び著作者人格権)は有効に成立し得ることになります**。
**(注) この点、裁判例(平成14年09月06日東京高等裁判所[平成12(ネ)1516])では、「現行著作権法が、二次的著作物に著作権が発生し同法上の保護を受ける要件として、当該二次的著作物の創作の適法性を要求していないことは、同法2条1項11号の文言及び旧著作権法からの改正経過(例えば、旧著作権法22条の適法要件の撤廃)に照らして明らかである(。)」と述べています。
[参考:旧著作権法22条(美術著作物の異種複製)]
現著作物ト異リタル技術ニ依リ適法ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ共有ス
 
「二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない」とするのが、最高裁の考え方(判例)です。「二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないから」という理屈です。
 
▶翻訳著作物
 
「翻訳著作物」とは、言語の著作物を他の言語で表現し直し、新たな創作性を加えることによって創作される著作物をいいます。例えば、「日本語の小説を英語に翻訳したもの」がこれに当たります。
翻訳には、原典に対する正確な理解と、他の言語に表現し直す際の当該言語の精通力等が要求されるため、翻訳者が、原典(原著作物)の内容・雰囲気を壊さないよう、自己の学識等を用いて適切な訳語を選び出し他の言語に移し変える行為は、精神的創作作業であるといえます。そのため、同一の原典(原著作物)について複数の者がそれぞれ独立して翻訳を行うときは、通例、それらの者の数だけ当該原著作物に関する二次的著作物が存在することになります。
 
▶編曲著作物
 
「編曲著作物」とは、音楽の著作物である楽曲をアレンジして、新たな創作性を加えることによって創作される著作物をいいます。例えば、「クラシック曲をジャズ調にアレンジしたもの」、「古典音楽を現代風にアレンジしたもの」などがこれに当たります。もっとも、例えば、原曲を単に1オクターブ上げ下げしただけの改作では、「編曲著作物」に当たらない(新たな創作性が加えられていない)と解されます。
 
▶変形著作物
 
「変形著作物」とは、主に、美術の著作物を他の表現形式に変更して、新たな創作性を加えることによって創作される著作物をいいます。例えば、「彫刻を絵画にしたもの」、「絵画を彫刻にしたもの」、「写真を絵画にしたもの」、「平面地図から作られた地形の模型」などがこれに当たります。
 
▶翻案著作物
 
「翻案著作物」とは、原著作物に依拠しつつ、そこに表現される主題やストーリー性などの基本的内容・本質的な特徴を受け継ぎながら、新たな創作性を加えて作られる著作物をいいます。「脚色」されたもの、「映画化」されたものも、「翻案著作物」です。例えば、「小説やマンガを脚色したもの」、「脚本を映画化したもの」、「小説をマンガにしたもの」、「マンガを小説にしたもの」、「外国の小説や映画を日本を舞台にしてリメイクしたもの」、「大人向けの小説を児童向けに書き改めたもの」、「学術論文等の長い文章を要約したもの(ダイジェスト版)」、「古典を現代語訳したもの」、「方言を標準語に変えたもの」、「速記文や暗号文を解読したもの」などは、一般的に、この「翻案著作物」に該当すると考えられます。
 
なお、既存の著作物に依拠した場合であっても、そこから単に創作のインスピレーションやヒント、アイディアを得て、当該既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得すること」ができないようなやり方で新たな創作的表現がなされたときには、その新たに創作された著作物は、もはや「二次的著作物」とは言えず、当該既存の著作物とは別個独立した独自の著作物と評価されることになります。
 
[参考]
★言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である。
<平成13年6月28日最高裁判所第一小法廷[平成11(受)922]>
(注) 上記の最高裁の判例では、「言語の著作物」についての「翻案」として判示していますが、既存の著作物への「依拠性」と本質的特徴の「直接感得性」という最高裁の示した要件は、「言語の著作物」以外の著作物にも妥当するものと解されており、さらに、「翻案」だけでなく、「翻訳」・「編曲」・「変形」にも当てはめて考えるようになってきています。非常に重要な判例です。
 
★連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。
<平成9年7月17日 最高裁判所第一小法廷[平成4(オ)1443]>
 
★本件連載漫画は,被上告人が各回ごとの具体的なストーリーを創作し,これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にし,上告人において,漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き,おおむねその原稿に依拠して漫画を作成するという手順を繰り返すことにより制作されたというのである。この事実関係によれば,本件連載漫画は被上告人作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができる(。)
<平成13年10月25日最高裁判所第一小法廷[平成12(受)798]>

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/


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