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条文解説【著作権法第10条】

著作権法第10条(著作物の例示):
 
「この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
(ⅰ) 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
(ⅱ) 音楽の著作物
(ⅲ) 舞踊又は無言劇の著作物
(ⅳ) 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(ⅴ) 建築の著作物
(ⅵ) 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
(ⅶ) 映画の著作物
(ⅷ) 写真の著作物
(ⅸ) プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第1号に掲げる著作物に該当しない。
3 第1項第9号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
(ⅰ) プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
(ⅱ) 規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。
(ⅲ) 解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。」
 
本条は、著作権法上の「著作物」(2条1項1号)をその表現形式(表現手段)により所定のカテゴリーに類別して例示しつつ、できる限りその具体的な範囲を明確にしようとする規定です。
第1項では、「言語の著作物」(1号)から「プログラムの著作物」(9号)まで、全部で9つのカテゴリーに属する「著作物」が挙げられています。もっとも、これらはあくまで著作物の具体的な類型を「例示」したものに過ぎず、本項の例示規定に挙げられていない新たな類型のものであっても、著作物の定義(2条1項1号)に該当するものであれば著作権法上の「著作物」として保護されますので注意してください。また、ある著作物が同時に複数の類型に属する場合もあります。例えば、「歌詞」と「楽曲」で構成されるポップスや歌謡曲は、「歌詞」=「言語の著作物」(1号)であると同時に、「楽曲」=「音楽の著作物」(2号)でもあります。
 
▼    言語の著作物(1号)
 
「言語の著作物」とは、思想又は感情が言語によって表現される著作物をいいます。典型例としては、例示されている「小説」「脚本」「論文」「講演」のほか、童話や詩、短歌、俳句、講義、講談や落語の台本などが挙げられます。
 
本条第2項は、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は言語の著作物に該当しない旨を定めています。本規定は、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないことから「著作物」に該当せず、よって、法の保護対象にならない旨を確認的に規定したものであると解されています。「著作物」であるためには「思想又は感情を表現した」ことが必要ですので、単なる事実をそのまま記述したようなものは、「思想又は感情を表現したもの」すなわち「著作物」に当たりません。言語表現による記述の内容が、専ら「事実」(例えば、「誰が、いつ、どこで、どのようなことを行った」、「ある物・人が存在する」、「ある物・人の状況・態様がどのようなものである」など)を書き手の格別の評価や意見を入れることなく、そのまま記述する場合には、その書き手の「思想又は感情」を表現したことにならない、つまり、そのようなものは「著作物」に該当しないと解されます。もっとも、ある事実を素材とした場合であっても、その事実を基礎としつつも、そこに筆者の当該事実に対する何らかの評価や批評・意見等が表現されていれば、著作物性を有することになります。なお、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」とは、人事異動や死亡記事など、単なる日々の社会事象をそのまま報道した記事を意味します。書き手の個性が現われる通常の報道記事や社説は、「言語の著作物」として要保護性があります。
 
▼ 音楽の著作物(2号)
 
「音楽の著作物」とは、思想又は感情が音や旋律によって表現される著作物をいいます。歌謡曲やオペラ、クラシック、ジャズ、民謡などの楽曲がその典型例です。
上述したように、歌謡曲やオペラなどは楽曲に歌詞を伴いますので、これらは、「音楽の著作物」と「言語の著作物」とが結合した著作物(いわゆる「結合著作物」)として見ることができます。
 
▼    舞踊無言劇の著作物(3号)
 
「舞踊無言劇の著作物」とは、思想又は感情が振付け(身振りや動作)によって表現される著作物をいいます。日本舞踊やダンス、バレイ、能楽などの振付け、パントマイムが典型例です。
著作物性が問題とされるのは「振付け」「所作」そのものです。その振付けや所作をもとに演じられる舞踊や踊りは、「実演」に該当し(踊っている者は「実演家」に該当します。)、著作隣接権の対象となります。
 
▼    美術の著作物(4号)
 
「美術の著作物」とは、思想又は感情が、線・形状・色彩・明暗等によって平面的又は立体的に、美的に表現される著作物をいいます。例示されている「絵画」「版画」「彫刻」のほか、マンガやイラスト、書、生け花、舞台装置などがその典型例です。
一品製作にかかる「美術工芸品」(例えば、壺、織物、刀剣など)もこの「美術の著作物」に含まれることが明記されています(2条2項)。
 
▼    建築の著作物(5号)
 
「建築の著作物」とは、思想又は感情が土地の上の工作物によって美的に表現される著作物をいいます。通常のありふれた一般住宅やビルではない、美的に表現された(芸術性を備えた)建築物(宮殿や万博のパビリオン、橋、塔、庭園など)がこれに当たります。
 
建築(行為)は、絵画や版画、彫刻などを制作する場合と同様に、造形活動の一種ではありますが、絵画や版画、彫刻などが専ら美的鑑賞を目的に制作される物品であるのに対し、建築により地上に構築される建築構造物(建築物)は、物品ではない上、通常は、美的鑑賞の目的というより、住居等としての実用的な使用を目的として造られるものです。一方、そのような建築物であっても、実用性を離れ、純粋美術と同視できるような「建築芸術」「造形芸術」と呼べるようなものも存在します。そこで、法は、「建築の著作物」を「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」とは別に、独立の類型として規定することにしました。
なお、建築物の設計図は、「建築の著作物」ではなく、次号の「図形の著作物」に該当します。
 
▼    地図図形の著作物(6号)
 
一般に、「地図」(一般住宅地図、道路地図、観光案内地図、地形図など)は、実際に存在する街路や家屋、地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって、それを利用する者に対して、実際上の位置関係等に関する正確な情報を提供しつつ、地図利用者の実用に供するという本質的な要素(制約)があります。そのため、文学や音楽、造形美術などの分野と比べて、作成者の個性的表現の余地が少なく、相対的に、その創作性を認めうる余地が少ないのが一般的であると捉えられています。それでも、地図に記載すべき情報の取捨選択やその表示方法等に関する地図作成者の学識や経験等から、当該作成者の個性がその作成に係る地図に表れている場合があり、その場合には、著作権法によって保護される創作性を認めることができます。そこで、法は、「地図」を「著作物」の類型の1つとして明記しています。
 
一方、「図形の著作物」とは、「学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」のことで、思想又は感情が図の形状や模様、模型によって表現される学術的な著作物をいいます。具体例としては、一般的には、建築設計図、船舶等の設計図(機械工学上の設計図)、地球儀、人体模型などを挙げることができます。
「図形の著作物」では、美術性や芸術性を備えている必要はありませんが、作成者の学識、知見、技術、経験等よりくる「学術上の思想又は感情」が個性的に(創作的に)表現されていることが求められます。
建築設計図は、建築家がその知識と技術、経験等を駆使して作成するもので、一般に、学術的な性質を有する図面にあたり、そこに創作性が認められる限り、「図形の著作物」として保護されます。ただ、「建築設計図」と名のつくものであれば無条件に保護されるわけではなく、図面に具体的に表現されているものが、作図上の工夫等の点でありふれたものあれば創作性は認められません。
なお、「図形の著作物」には、「建築の著作物」(5号)に求められる美術性や芸術性は必要ありませんので、設計する建物(設計図に表現された建物)自体は一般住宅などのありふれたものであっても構いません。
 
▼    映画の著作物(7号)
 
「映画の著作物」とは、思想又は感情が映像の連続によって表現される著作物で、フィルムや磁気テープ、ROM等の「物に固定」されているものをいいます。したがって、生放送のテレビドラマ(あまりないでしょうが…)は、フィルムやテープに固定されていないため、「映画の著作物」には該当しません。
著作権法上、劇場用映画やアニメーション映画のほか、テレビのアニメ番組、ゲームソフトやゲームアプリの(動く)映像部分も「映画の著作物」に当たります。
 
▼    写真の著作物(8号)
 
「写真の著作物」とは、思想又は感情が一定の映像によって表現される著作物をいいます。「写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物」も写真の著作物に含まれます(2条4項)。風景写真や肖像写真、商品カタログ用の写真、家族のスナップ写真、グラビアなどが例です。
 
写真は、カメラという機械に依存するところが大きく、撮影者の創作性が発揮される部分が小さいと言われています。しかし、写真がカメラの機械的作用に依存するところが大きいとしても、被写体の選定や構図・背景の設定、光量・照明の調節、カメラアングルの選択、シャッターチャンスの捉え方、これらの組み合わせ、その他の撮影方法等においてさまざまな工夫を施しながら撮影することが可能であり、写真には、撮影者の個性が現われます。したがって、写真に撮影者の個性が現われて、写真が創作的に表現されていると認められれば、「著作物」として保護されることになります。撮影者がプロのカメラマンや職業写真家である必要はありません。素人の写したスナップ写真の類のものであっても、そこに撮影者の個性が現われていれば、同等に保護されます。
 
▼    プログラムの著作物(9号)
 
「プログラム」とは、電子計算機(コンピュータ)を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいいます(2条1項10号の2)。「プログラム」には、いわゆる「ソース・コード」と「オブジェクト・コード」の双方を含むと解されます。プログラムの著作物の例としては、会計ソフトなど各種のパソコン用のアプリケーションソフトなどが挙げられます。
 
第3項に規定するように、プログラムの著作物に対する保護は、これを作成するために用いる「プログラム言語」や「規約」、「解法」には及びません。一方、システム設計書やユーザーマニュアルなどは、その著作物性が認められる限り、プログラムの著作物とは別個の独立した言語の著作物や図形の著作物等として保護されます。
なお、国際的には、「コンピュータプログラム」は、ベルヌ条約に定める「文学的(言語的)著作物」(literary works)として保護されるという認識があります(TRIPS協定10条1項、WIPO著作権条約4条参照)。

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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