判例セレクション~美術著作物~
純粋美術と応用美術の区別
▶平成16年11月25日大阪地方裁判所[平成15(ワ)10346等]▶平成17年7月28日大阪高等裁判所[平成16(ネ)3893]
ア 著作権法の規定
著作権法2条1項1号は,著作物を,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し,同法10条は,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」(1項4号)を著作物の例示として挙げている。一方,同法2条2項は,「この法律にいう「美術の著作物」には,美術工芸品を含むものとする。」と定めている。
イ 純粋美術と応用美術の区別
(ア) 美的創作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,制作者が当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作し,かつ,一般的平均人が上記目的で制作されたものと受け取るもの(純粋美術)と,思想又は感情を創作的に表現したものであるけれども,制作者が当該作品を上記目的以外の目的で制作し,又は,一般的平均人が上記目的以外の目的で制作されたものと受け取るものに分類することができる。
いわゆる応用美術とは,後者のうちで,制作者が当該作品を実用に供される物品に応用されることを目的(以下「実用目的」という。)として制作し,又は,一般的平均人が当該作品を実用目的で制作されたものと受け取るものをいう。
(イ) 前記アのように,著作権法は,著作物の例示中に「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」を挙げた上で,「美術の著作物」には「美術工芸品」を含む旨を規定しているから,「美術の著作物」は,純粋美術に限定されないことは明らかである。しかし,著作権法2条2項により「美術の著作物」に該当することが明らかである一品制作の美術工芸品を除く,その他の応用美術が「美術の著作物」に該当するかどうかは,同法の条文上,必ずしも明らかではない。
(ウ) ところで,応用美術は,①純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば,絵画を屏風に仕立て,彫刻を実用品の模様に利用するなど),②純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら,実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作の場合,③純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに,本来,応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は,産業の発達に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(意匠法1条),これに対し,著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(著作権法1条),現行著作権法の制定過程においても,意匠法によって保護される応用美術について,著作権法による保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと,一品制作の美術工芸品を越えて,応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると,両法の保護の程度の差異(意匠法による保護は,公的公示手段である設定登録が必要である(方式主義)上,保護期間(存続期間)が設定登録の日から15年であるのに対し,著作権による保護は,設定登録をする必要はなく(無方式主義),保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後50年を経過するまでの間,法人名義の著作物は公表後50年を経過するまでの間等とされている。)から,意匠法の存在意義が失われることにもなりかねないことなどを合わせ考慮すると,応用美術一般に著作権法による保護が及ぶものとまで解することはできないが,応用美術であっても,実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は,「美術の著作物」として,著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である。
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