うんこ文学_広告_aのコピー

#うんこ文学ポスター 第1便『走れうんこ』送料込500円で発売中💩

『うんこ漢字ドリル』に便乗して、便座の上にりながら文学の世界に浸れる「うんこ文学ポスター」をつくりました。

トイレの壁に貼ると・・・

拡大

便座に座ったまま読めます。文字が大きいので、離れていても読みやすいです。

上の写真でお察しのように、著作権の切れた太宰治さんの『走れメロス』の単語を置き換えて、リライトしてます。

リライトの例です。

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

うんこは激怒した。必ず、あのトイレットペーパーを倒さなければならないと決意した。

メロスには竹馬の友がいた。セリヌンティウスである。今はこのシラクスの市で、石工をしている。

うんこには幼い頃からの友だちがいた。おしっこである。今はこのトイレの町で、せっけんづくりに汗を流すせっけん屋をしている。

■主な単語の置き換え

メロス→うんこ
セリヌンティウス→おしっこ
シクラスの市→トイレの町
邪智暴虐の王→トイレットペーパー
牧人→便器屋
石工→せっけん屋
ぶどう→トウモロコシ
一里→5キロ
ゼウス→トイレの神様
十字架→ペットボトルの中
強盗→オムツ
フィロストラトス→オナラ
etc...

悪の王を“トイレットペーパー”にしたり、セリヌンティウスを“ハエ”から“おしっこ”にしたりトライ&エラーを繰り返しました。上の写真のポスターは初期につくったものの単語のままです。

「うんこ文学ポスター」の魅力を伝える広告もつくりました。

制作するにあたり『走れメロス』を何度も読んでいると、

ということを感じました。
メロスをちゃんと読んだことない人は、けっこう多いと思いますが、
この機会に読んでみたらいかがでしょうか。

純文学がヨゴレた「うん文学」を味わってください。

500円でこのnoteを購入していただければ、(現在在庫切れで販売停止)

4つ折りにしてオリジナル封筒に入れてお届けします。ポスターに折り目はつきますが、ご勘便ください。丸めて郵送だと送料が1000円を超えてしまうので、今回はお値段優先しました。送料はこちらで負担します。

baseでも販売中です。

noteで購入してくださった方には、『走れうんこ』の電子書籍版もプレゼントします。ぜひ購入して、新しいトイレの体験を味わってください。

購入した方は、以下の手順にしたがって郵送ご依頼をおねがいします。
(以下、購入したら読めます)

tetsuji@copywriter.co.jp
に、件名を
走れうんこを希望する[ noteのユーザー名 ]

にして、本文に、

・郵便番号
・住所
・名前

を書いて送ってください。なるべく早くお届けします。

以下、『走れうんこ』の電子書籍版です。
スマホでも読めるのですが、なるべく紙のポスターをお待ちいただき、そちらで読んでください。

================================

 うんこは激怒した。必ず、あのトイレットペーパーを倒さなければならないと決意した。うんこには下水道の仕組みがわからない。うんこは、村の便器をキレイにする便器屋で働いていた。便器をみがき、便器と共に暮らしてきた。けれども悪に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明うんこは村を出発し、野を越え山を越え、50キロ離れたこのトイレの町にやってきた。
 うんこには父も、母もいない。妻もいない。16才の、内気な妹とふたり暮らしだ。この妹は、村で働いている真面目でクリーンな男を、近々、花婿として迎えることになっていた。結婚式も間近である。うんこは、それゆえ、花嫁のドレスやらお祝いのごちそうやらを買いに、はるばるトイレの町にやってきたのだ。まず、その品々を買い集め、それから大通りをぶらぶら歩いた。
 うんこには幼い頃からの友だちがいた。おしっこである。今はこのトイレの町で、せっけんづくりに汗を流すせっけん屋をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。長いあいだ会っていなかったので、会うのが楽しみである。
 歩いているうちにうんこは、町の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もうすでに太陽も落ちて、町が暗いのは当たりまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりではなく、町全体が、やけにさびしい。
 のんきなうんこも、だんだん不安になってきた。町で会った若者をつかまえて質問した。
「何かあったの? 2年前にトイレの町に来たときは、夜でもみんなが歌をうたって、にぎやかだったけど。」若者は、首を振って答えなかった。しばらく歩いてるとおっさんがいたので、今度はもっと、強めに質問した。おっさんは答えなかった。うんこは両手でおっさんの体をゆすぶって質問を重ねた。おっさんは、まわりを気にしながら低い声で、なんとか答えた。
「トイレットペーパー様は、みんなを殺します。」
「なんで殺すの?」
「悪いことをたくらんでいるらしいです。」
「たくさん殺したの?」
「はい、はじめはトイレットペーパー様の妹の夫を。それから、自分の子どもを。それから、妹を。それから、妹の子どもを。それから、妻を。」
「驚いた。トイレットペーパーは頭がおかしくなったの?」
「いいえ、おかしくなったのではありません。みんなを、信じることができないそうです。最近は、部下のことも疑って、ちょっと派手な暮らしをしているものには、人質を1人ずつ差し出すことを命じています。その命令を拒めば、ペットボトルの中に閉じ込められて、殺されます。今日もたくさん殺されました。」
 聞いて、うんこは激怒した。「あきれたトイレットペーパーだ。生かしておくわけにはいかない。」
 うんこは、単純な男であった。トイレの町で買ったものを背負ったまま、下水道へ入って行った。たちまち彼は、警備員につかまった。調べられて、うんこのポケットからハサミが出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。うんこは、トイレットペーパーの前に引き出された。
「このハサミで何をするつもりだったのか。言え!」トイレットペーパーは問いつめた。問いつめるその顔は白く、眉間のしわは、刻み込まれたように深かった。
「この町をトイレットペーパーの手から救うのだ。」と、うんこは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」トイレットペーパーは、バカにしたように笑った。「仕方のないやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからない。」
「言うな!」とうんこは、声を荒げた。「みんなの心を疑うのは、最も恥ずかしいことだ。トイレットペーパーは、町のみんなの真心さえも疑っている。」
「疑うのが、正しい心がまえなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。おまえらの心は、あてにならない。おまえらは、もともと欲望のかたまりだ。信じてはいけない。」トイレットペーパーは落ちついてつぶやき、ほっとためいきをついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんのための平和だ。自分の地位を守るためか。」今度はうんこがバカにしたように笑った。「罪のないものを殺して、何が平和だ。」
「だまれ、汚い身分のくせに。」トイレットペーパーは、さっと顔をあげて言った。「口では、どんな清らかなことでも言える。わしには、みんなの心の中が見えるんだ。おまえだって、ペットボトルの中に閉じ込められてから、泣いて謝っても許さないぞ。」
「ああ、トイレットペーパーは頭がいい。自惚れているがよい。俺は、ちゃんと死ぬ覚悟でいるのに。命だって惜しくもない。ただ、――」と言いかけて、うんこは足もとに視線を落とした瞬間ためらい、「ただ、俺に情けをかけてくれるなら、処刑までに3日間の時間をください。たった1人の妹に、夫を持たせてやりたいのです。3日のうちに、村で娘に結婚式を挙げさせて、必ず、ここへ帰ってきます。」
「バカな。」とトイレットペーパーは、かすれた声で低く笑った。「とんでもないウソを言うな。逃がした小鳥が帰ってくるというのか。」
「そうです。帰ってくるのです。」うんこは必死で言い張った。「俺は約束を守ります。俺に、3日間だけ時間をください。妹が、俺の帰りを待っているのだ。そんなに俺を信じられないならば、よろしい、この町におしっこというせっけん屋がいます。俺の大切な友だちだ。あれを、人質としてここに置いていこう。俺が逃げてしまって、3日目の日が暮れるまでに、ここに帰ってこなかったら、あの友だちを窒息させて殺してください。たのむ、そうしてください。」
 それを聞いてトイレットペーパーは、残虐な気持ちで、そっと笑った。生意気なことを言うな。どうせ帰ってこないにきまっている。このウソつきにだまされた振りをして、放してやるのもおもしろい。そうして身代わりの男を、3日目に殺してやるのもいい気味だ。町のやつらは、これだから排泄物は信じられないと思うだろう。わしは悲しい顔をして、その身代わりの男をペットボトルの中に閉じ込めるのだ。世の中の、正直者とかいうやつらにうんと見せつけてやるか。
「願いを、聞いた。その身代わりを呼ぶがよい。3日目の日が暮れるまでに帰ってこい。遅れたら、その身代わりを、きっと殺すぞ。ちょっと遅れてくればいい。おまえの罪は、永遠に許してやるぞ。」
「な、何をおっしゃる。」
「はは。命が大事だったら、遅れてこい。おまえの心は、わかっているぞ。」
 うんこは悔しがって地面を踏みつけた。何も言いたくなくなった。
 幼いころからの友だち、おしっこは、深夜、下水道に連れてこられた。トイレットペーパーの目の前で、うんことおしっこは、2年ぶりに会った。うんこは、友だちにすべてのことを話した。おしっこは無言でうなずき、うんこを抱きしめた。友と友のあいだは、それでよかった。おしっこは、とらえられた。うんこは、すぐに出発した。夏のはじめ、空は満天の星だった。
 うんこはその夜、一睡もせず50キロの道を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌日の午前、太陽はすでに高く昇って、村のみんなはもう仕事をはじめていた。うんこの16才の妹も、今日は兄の代わりに便器みがきをしていた。よろめいて歩いて帰ってきた兄の、疲れきった姿を見つけて驚いた。そして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでもない。」うんこは無理にでも笑おうと努めた。「トイレの町に用を残してきた。またすぐ町に行かないといけない。明日、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがいいだろ。」
 妹はほっぺを赤くした。
「うれしいか。綺麗なドレスも買ってきた。さあ、これから、村のみんなに知らせてこい。結婚式は、明日だと。」
 うんこは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰ってお祝いの席の準備をし、まもなく床に倒れて、深い眠りに落ちてしまった。
 眼が覚めたのは夜だった。うんこは起きてすぐ、花婿の家に行った。そうして、少し事情があるから「結婚式を明日にしてくれ。」と頼んだ。婿は驚き、「それは無理、こっちは何の準備もできていないし。トウモロコシがおいしい季節になるまで待ってくれ。」と答えた。うんこは「待つことはできない。どうか明日にしてくれ。」と頼みこんだ。婿も粘り強い男だった。なかなかわかってくれない。夜明けまで話しつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、わかってもらえた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、トイレの神様への誓いが終わったころ、黒い雲が空をおおい、ぽつりぽつりと雨が降り出し、やがて大雨になった。お祝いに来ていたみんなは、何か不吉なものを感じたが、それでも、気持ちを引きたてて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたって手をたたいた。うんこもとても喜んで、しばらくは、トイレットペーパーとのあの約束さえも忘れていた。お祝いは夜に入っていよいよ華やかになり、参加メンバーたちは、外の強い雨をまったく気にしなくなった。うんこは、このまま一生ここにいたい、と思った。ここにいるみんなと一生暮らしていきたいと願ったが、今は、自分の体が、自分のものではない。思い通りにはならない。うんこは、おしりに力を入れて、ついに出発を決意した。明日、日が没むまでには、まだ十分の時間がある。ちょっとひと眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっているだろう。少しでも長くこの家にとどまっていたかった。うんこほどの男にも、やはり未練な気持ちはある。今夜、喜びに酔っているらしい花嫁に近づき、
「おめでとう。俺は疲れてしまったから、ちょっと失礼して眠りたい。眼が覚めたら、すぐに町に出かける。大切な用があるのだ。俺がいなくても、もうおまえには優しい亭主がいるのだから、決してさみしいことはない。おまえの兄の、いちばん嫌いなものは、人を疑うことと、それから、嘘をつくことだ。おまえも、それは、知っているね。亭主とのあいだに、どんな秘密もつくってはならない。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
 花嫁は、夢を見ている気持ちでうなずいた。うんこは、それから花婿の肩をたたいて、
「準備してないのはお互いさまだ。俺の家の宝は、妹とトイレブラシだけだ。他には、何もない。全部あげよう。あともうひとつ、うんこの弟になったことを誇ってくれ。」
 花婿は顔を赤くして照れていた。うんこは笑ってみんなにおじぎして、会場から立ち去り、手洗い場の下の棚にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
 眼が覚めたのは次の日の、日の出のときである。うんこは飛び跳ねるように起きた。しくじった、寝すごしたか、いや、まだまだ大丈夫、今すぐ出発すれば、約束の時間までには十分間に合う。今日はぜひとも、あのトイレットペーパーに、排泄物の友情というものを見せてやろう。そうして笑ってペットボトルの中に入ってやる。うんこは、あわてることなく準備をはじめた。雨も、小降りになっている様子である。準備はできた。うんこは、おしりに力をいれてふんばり、雨の中、矢のように走り出した。
 俺は、今夜、殺される。殺されるために走るのだ。身代わりの友を救うために走るのだ。トイレットペーパーを打ち破るために走るのだ。走らなければならない。そして、俺は殺される。名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いうんこは、つらかった。何度か、立ち止まりそうになった。えい、えいと大声を出して自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、となりの村に着いたころには、雨も止み、日は高く昇って、いよいよ暑くなってきた。うんこは、おでこの汗を払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練はない。妹たちは、きっといい夫婦になるだろう。俺には、今、なんの気がかりもない。まっすぐ下水道に行けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要もない。ゆっくり歩こう、と持ち味ののんきさを取りもどし、好きな歌をうたいだした。ぶらぶら歩いて10キロ、20キロと進み、そろそろ中間地点に到達したというころ、降って湧いた災難、うんこの足は、ふと止まった。見よ、前の川を。昨日の大雨で山の水源地は氾濫し、勢いよく流れ、一気に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、こっぱみじんに橋の柱を跳ね飛ばしていた。彼はぼうぜんと、立ちすくんだ。あちこちとまわりを見て、また、大きな声を出してみたが、船は波にさらわれて影もなく、船員の姿も見えない。川の流れはいよいよ、ふくれあがり、海のようになっている。うんこは川の岸にうずくまり、泣きながらトイレの神様に手をあげて叫んだ。「ああ、しずめたまえ、荒れ狂う流れを! 時間は過ぎていきます。太陽が沈んでしまわないうちに、下水道に着くことができなかったら、友だちが、俺のために死ぬのです。」
 川は、うんこの叫びをあざ笑うように、ますます激しく躍り狂う。波は波を飲み、巻き込み、あおり立て、そうして時間は過ぎていく。うんこは覚悟した。泳ぎ切るしかない。ああ、トイレの神様も見てくれ! 川の流れにも負けない排泄物の力を、今こそ発揮してみせる。うんこは、ざぶんと川に飛び込み、うずまきのように荒れ狂う波を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力をこめて、押し寄せる波を、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、そのすさまじい姿に、トイレの神様もかわいそうだと思ったのか、ついに情けをかけてくれた。押し流されつつも、見事、岸の木の幹に、すがりつくことができたのである。ありがたい。うんこは馬のように大きくふるえて、すぐにまた先を急いだ。1秒たりとも、ムダにはできない。太陽はすでに西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら山をのぼり、のぼり切って、ほっとしたとき、突然、目の前にオムツたちが出てきた。
「待て。」
「何をするのだ。俺は太陽の沈まないうちに下水道へ行かなければならない。放せ。」
「放すわけにはいかない。持ちものはぜんぶ置いていけ。」
「俺には命の他には何もない。その、たったひとつの命も、これからトイレットペーパーにくれてやるのだ。」
「その、命が欲しいのだ。」
「さては、トイレットペーパーの命令で、ここで俺を待ち伏せしていたのだな。」
 オムツたちは、何も言わず一斉にトイレブラシを振りあげた。うんこはひょいと、体を折り曲げ、鳥のように襲いかかり、そのトイレブラシを奪いとって、
「気の毒だが正義のためだ!」と一撃、たちまち、3つを打ち破り、残りのオムツがひるんでいるすきに、さっさと走って山を下った。一気に山を駈け降りたが、さすがに疲労し、午後ちょうどの太陽がまともに、かっと光を照らしてきて、うんこは何度もめまいを感じ、これではいけない、と気を取り直しては、よろよろ2、3歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上がることができないのだ。天を見ながら、悔しくて泣きだした。ああ、あ、川を泳ぎ切り、オムツを3つも打ち破り、ここまでやってきたうんこよ。真の勇者、うんこよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情けない。愛する友は、おまえを信じたばかりに、殺されなければならない。おまえは、史上まれにみるクソ野郎、これではトイレットペーパーの思うつぼだぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身から元気がなくなり、もう、ぎょう虫よりも前に進むこともできない。道ばたの野原に、ころんと寝転がった。体が疲れたら、心も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に似合わない根性が、心の中で生まれた。俺はここまで、がんばったのだ。約束を破る心は、これっぽっちもなかった。トイレの神様も見ていたが、俺は精一杯に努めてきたのだ。動けなくなるまで走ってきたのだ。俺は約束を守らないクソ野郎ではない。ああ、できることなら俺の胸を切って、真っ赤な心臓を見たい。排泄物の友情だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども俺は、この大事なときに、精も根もつきたのだ。俺は、不幸な男だ。俺は、きっと笑われる。俺の家族も笑われる。俺は友をだました。途中で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じことだ。ああ、もう、どうでもいい。これが、俺の運命なのかもしれない。おしっこよ、許してくれ。君は、いつでも俺を信じた。俺も君を、だまさなかった。俺たちは、本当によい友だちだったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互いの胸に宿したことはなかった。今だって、君は俺を信じて待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、おしっこ。よくぞ俺を信じてくれた。それを思えば、たまらない。排泄物と排泄物のあいだの友情は、この世でいちばん誇るべき宝なのだから。おしっこ、俺は走ったのだ。君をだますつもりは、これっぽっちもなかった。信じてくれ! 俺は急いでここまで来たのだ。荒れ狂う川を突破した。オムツ集団からも、するりと抜けて一気に山を駈け降りたんだ。俺だから、できたんだよ。ああ、もう俺に期待しないでくれ。放っておいてくれ。どうでも、いいのだ。俺は負けたのだ。だらしない。笑ってくれ。トイレットペーパーは俺に「ちょっと遅れてこい。」と耳元でそっと言った。遅れたら、身代わりを殺して、俺を助けてくれると約束した。俺はトイレットペーパーを憎んだ。けれども、今になってみると、俺はトイレットペーパーの言うままになっている。俺は、遅れて行くだろう。トイレットペーパーは、俺を笑い、そして俺を自由にするだろう。そうなったら、俺は、死ぬよりつらい。俺は、永遠にウソつきだ。史上最も、不名誉のクソ野郎だ。おしっこ、俺も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは俺を信じてくれるにちがいない。いや、それも俺の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、クソ野郎として生き伸びてやろうか。村には俺の家がある。便器もある。妹夫婦は、まさか俺を村から追い出すようなことはしないだろう。正義だの、友情だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。他人を殺して自分が生きる。それがこの世界のルールではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。俺は、みにくいウソつきだ。勝手にするがよい。もうどうしようもない。――うんこは大の字になり、うとうと、寝てしまった。
 ふと耳に、水の流れる音が聞こえた。そっと頭を上げ、息をひそめて耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているようだ。よろよろ起き上がって、見てみると、岩の割れ目から、何か小さくささやくように水がわき出ているのである。その泉に吸い込まれるようにうんこは身をかがめた。水をひとくち飲んだ。ほおと長いため息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労回復と共に、わずかな希望が生まれた。義務を成し遂げる希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。夕日は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるように輝いている。日が沈むまで、まだ時間がある。俺を、待っている友がいるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている友がいるのだ。俺は、信じられている。俺の命などは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいいことは言っていられない。俺は、信頼にこたえなければならない。今はただそれだけだ。走れ! うんこ。
 俺は信頼されている。俺は信頼されている。さっきの、あの悪魔のささやきは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。体が疲れているときは、ふとあんな悪い夢を見るものだ。うんこ、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 俺は、正義の男として死ぬことができるぞ。ああ、太陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、トイレの神様よ。俺は生まれたときから正直な男であった。正直な男のままで死なせてください。
 道行く人を押しのけ、跳ねとばし、うんこは黒い風のように走った。原っぱで飲み会をしている人たちの中を駈け抜け、びっくりさせ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、10倍も速く走った。旅人とすれちがった瞬間、不吉な会話が聞こえた。「今ごろは、あの男も、ペットボトルの中に閉じ込められているよ。」ああ、その男、その男のために俺は、今こんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、うんこ。遅れてはならない。排泄物の力を、今こそ知らせてやるがよい。見た目なんかは、どうでもいい。うんこは、今、ほとんど全裸だった。呼吸もできず、2度、3度、口から血が出た。見える。はるか向こうに小さく、トイレの町のタワーが見える。タワーは、夕陽を受けてキラキラ光っている。
「ああ、うんこ様。」うめくような声が、風と共に聞こえた。
「誰だ?」うんこは走りながらたずねた。
「オナラでございます。あなたのお友だちおしっこ様の弟子でございます。」その若いせっけん屋も、うんこを追いかけながら叫んだ。「もう、駄目でございます。ムダでございます。走るのは、やめてください。もう、あの方を助けることはできません。」
「いや、まだ太陽は沈まない。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。へこみます。恨みます。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ太陽は沈まない。」うんこは胸の張り裂ける思いで、赤く大きな夕日を見つめていた。走るしかない。
「やめてください。走るのは、やめてください。今はご自分の命が大切です。あの方は、あなたを信じていました。下水道に来ても、平気でいました。トイレットペーパー様が、さんざんあの方をからかっても、うんこは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけ、へでもないという様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わないは問題でないのだ。人の命も問題ではないのだ。俺は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。ついて来い! オナラ。」
「ああ、あなたは気が狂ったのか。もうそれでいい。うん、この調子で走るがいい。ひょっとしたら、間に合うかもしれない。走ればいい。」
 まだ太陽は沈まない。最後の力をふりしぼって、うんこは走った。うんこの頭は、からっぽだ。何ひとつ考えていない。ただ、わけのわからない大きな力にひきずられて走った。太陽は、ゆらゆら地平線に近づき、まさに最後の光も、消えようとしたとき、うんこは疾風のように下水道に突入した。間に合った。
「待て。そいつを殺してはならない。うんこが帰ってきた。約束どおり、今、帰ってきた。」と大声で下水道にいるみんなに向かって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて、かすれた声がわずかに出ただけで、誰も彼の到着に気がつかない。すでにペットボトルは立てられ、おしっこは、閉じ込めれられようとしている。うんこはそれを目撃して最後の勇気を出し、先ほど川を泳いだようにみんなの間を掻きわけ、掻きわけ、
「俺だ、殺されるのは、俺だ。うんこだ。彼を人質にした俺は、ここにいる!」と、かすれた声で精一杯に叫びながら、ついにペットボトルに閉じ込められてゆく友の両足に、かじりついた。みんなは、どよめいた。あっぱれ。許せ、と騒いだ。おしっこは、解放されたのである。
「おしっこ。」うんこは目に涙を浮かべて言った。「俺を殴れ。力いっぱいほっぺを殴れ。俺は、途中で1度、悪い夢を見た。君がもし俺を殴ってくれなかったら、俺は君と抱きあう資格さえないのだ。殴れ。」
 おしっこは、すべてを察した様子でうなずき、下水道中に鳴り響くほど大きな音を鳴らしてうんこの右ほっぺを殴った。殴ってから優しくほほ笑み、
「うんこ、ぼくを殴れ。同じくらい大きな音が出るくらい、ぼくのほっぺを殴れ。ぼくはこの3日の間、たった1度だけ、君を疑った。生まれて、はじめて君を疑った。君がぼくを殴ってくれなければ、ぼくは君と抱きあえない。」
 うんこは腕にうねりをつけて、おしっこのほっぺを殴った。
「ありがとう、友よ。」2人同時に言い、抱きあい、それから嬉しくて声を出して泣いた。
 まわりにいるみんなの中からも、泣き声が聞こえた。トイレットペーパーは、みんなの背後から2人の様子を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに2人に近づき、顔を赤くして、こう言った。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。排泄物の友情とは、ただの妄想ではなかった。どうか、わしも仲間に入れてくれないか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の1人にしてほしい。」
 どっとみんなの間で、歓声が起きた。
「バンザイ、トイレットペーパー様バンザイ。」
 ひとりの少女が、ハンカチをうんこにあげた。うんこは、うろうろした。友は、気をきかせて教えてやった。
「うんこ、君は、全裸じゃないか。早くそのハンカチを着るがいい。この可愛い娘さんは、うんこの裸を、みんなに見られるのが、たまらなく悔しいのだ。」
 うんこの顔は、赤くなった。

(完)

================================

💩届いた時と読み終わった時「#うんこ文学ポスター」をつけて、ツイートよろしくおねがいします!

ここから先は

0字

¥ 500

個人的なサポートはいりません! 日本一のコピーライターサークルのメンバー募集中です! メンバーとしてサポートしてくださいませ🙇 https://note.com/copy/circle