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誤解という甲羅を引き剥がして、私たちは伝えつづけなければならない。

広告制作の仕事をしていて、この仕事は誤解を解くのが仕事だなと感じることがあります。「この企業はこんなイメージを持たれてるけど、それは誤解ですよ」と。そしてどれだけ説明しても、なかなか伝わらず、じぶんの力不足を感じることばかりです。

ミセス(Mrs. GREEN APPLE)の「コロンブス」という曲のMV(ミュージックビデオ)が炎上した件で、CMの制作者とMVの制作者の区別がつかないまま、CMをつくった企業や個人へ誹謗中傷する人をたくさん見かけるので、騒動に無関係な人として思うことを残しておきます。

CMとMVを時系列に書くと・・・

■コカ・コーラのCM
6月3日にテレビでCMが放映開始
「電通、WPPジャパン、TYO MONSTER」が制作
ミセスが出演し、ミセスの「コロンブス」を流す
※この段階で炎上はしてません。

■「コロンブス」のMV
6月12日にYouTubeで公開
「EMI Records、Project-MGA(ミセスの所属事務所)」が制作
公開日に複数のテレビ局やニュースサイトでも好意的に紹介されてましたが、Xを中心に映像に差別的な表現があるという声が出て炎上
※歌詞が差別的だという声は見てません。

CMとMVは、尺も違いますし、流すメディアがテレビとYouTubeで違いますし、映像を調べてちゃんと観れば、

CMは、尺が15秒(現在見られるリンク

スーツ、被りものなしで、背景赤


MVは、尺が4分程度(現在見られるリンク

ナポレオンっぽい帽子を被った服装で猿も出てくる

と違いがわかるかと思います。

この誤解をたとえるなら、

制作会社Aが、水曜日のカンパネラ出演で『エジソン』を使ったCMを制作しテレビで流してしばらく経ったあとに、

制作会社Bが『エジソン』のMVを制作し、動物を電気イスに座らせてるような映像をYouTubeで流し炎上。
※補足:エジソンは動物の感電死ショーを実施していた

これで制作会社Aが、制作会社BがつくったMVのことで責められるのは、自尊心を傷つけられると想像します。(水カンさん名前だしてごめんなさい)

このことを異業種の方が理解するのは難しいですが、自分がやってない仕事を自分がやったことにされて責められるのって、イヤじゃないですか?

誤解される記事

この記事も、誤解して読む人がたくさんいます。

Mrs. GREEN APPLEが出演し、本キャンペーンのために書き下ろした新曲『コロンブス』が流れるテレビCM「Coke STUDIO 魔法のはじまり」篇を放映する。

アドタイ

と書かれてるように、これはテレビCMの紹介記事です。だから、この記事に出ている制作スタッフの言葉は、MVじゃなく、テレビCMについて語った言葉です。この記事に出ているスタッフリストは、MVじゃなく、テレビCMのスタッフリストです。

誤解して誤解を拡散する人たち

ところが、こういう投稿がたくさんあります。

香山リカさんの本は20年前から何冊か読み、講演も聴きに行ったことがありますが、誤解してると思ったのでリプしました。

そしたら、こんなリプが。

この事案、なかなか理解するのが難しいんだろうなと思ったのが、このnoteを残しておこうと思った理由のひとつです。いつか上の投稿が削除か訂正されますように。

記事を掲載しているメディア「アドタイ」は、誤解をされないような注意書きを追記するか、記事を非公開にする対応したほうがよいと思います。それは記事制作に協力した会社や人を守る行動かと。

「誤解されてるなら訂正しろ」という誤解

会田誠さんは、CMとMVの制作スタッフを誤解しているのかはわかりませんが、こんな投稿を。

「誤解されてるなら訂正を発信しろよ」と思う人もいますが、それは広告代理店や制作会社、そこに所属する社員への誤解があるかもしれません。

想像してみてください。自分の所属する会社が何億円以上も取引のある会社があって、その会社に不利益をもたらすかもしれない情報を発信するのはいろんな観点から、無理じゃないですか?弁明のつもりの発信も、悪い解釈をされていろんな人に迷惑がかかる可能性があります。

「自分たちがつくるCMで使う曲なら、その曲のMVもチェックしなさい」というのは、言うのはカンタンですが現実的には難しい事情が考えられます。広告主がCMの予算は出せても、MVを監修する予算までは出せないという事情があるかもしれません。どんな仕事にも予算と人的リソースには限りがあります。ある社員の仕事を会社の全社員でチェックしたら当然ミスは減りますが、それって現実的じゃないですよね?また「MVを監修させてください」と言うのは、MV制作チームからすると、CM制作チームから口を出されるのは気持ちよくないかもしれません。想像してみてください。面識のない外部の会社の人から、いきなり仕事のやり方について口を出されたらイヤですよね?広告の仕事は規模が大きいほど、いろんな事情や背景、会社間の関係や人間関係が複雑に入り乱れています。

制作者誤解問題とMVの内容を知っていたか否かは別問題

ここまで、「CMとMVを誤解する人がいる問題」と「コカ・コーラ社が、MVの内容を知っていたか否かという問題」を切り離して考えています。

コカ・コーラ社は「ミュージックビデオの内容に関しては把握をしておりません」という声明を出しています。それを根拠なくウソだと叫ぶのはよくないです。「コカ・コーラのインスタのストーリー投稿で、MVの紹介がされていた」という情報があります。自社のアカウントの投稿のリンク先になってるコンテンツの内容を把握してないのはよくないと思いますが、それはMVを知っていたかどうかとは別問題です。「コロンブス」というタイトルから危険な匂いをかぎつけ確認できたのではないか?というのも、別問題です。

「MVを知っていた」という断定は誤解

コカ・コーラ社や、CMを制作していた人たちがMVを知っていたものと断定して投稿が大量に出ています。

もうひとつの嘘はコカ・コーラが出した「MVの内容は事前に把握をしておりません」という嘘。こんなことはありえない。

https://x.com/Hanapan8723/status/1801477610142371866

「同業者だけどコーラ社は嘘ついてる」「広告業界にいたけど電通が知ってないわけない」というような投稿も数多く見ました。経験が乏しいからそういう投稿をできるんだろうなと思います。いろんな媒体、業種、座組みで仕事したことがあれば、広告の仕事は、案件によって、関係者の数や関わり度合い、進め方は、ケースバイケースということをよく知ってるはずです。それを自分の経験だけを根拠に、まったく内情を知らない案件について憶測で語るのは罪です。そういうことを広告業界の人はいちばんやってはいけないと思っています。

「断定はしてなくあくまで個人の意見です」といういいわけは、無責任かと。先日も、アーティストが不倫していると断定しているように見える投稿で多くの人が誤解しましたが、やってることは同じだと思います。その投稿をまに受け、誹謗中傷をしてスターとその家族のココロをズタボロにし、投稿も放置してる人がたくさんいますが、人の痛みを想像できない方たちなんだと思います。

誤解というこの甲羅を引き剥がして

「誤解させたほうが悪い」「広告のプロなんだから誤解されず伝える努力をしろ」というような声はよく聞きます。それはその通りなのですが、タイムラインで見かけた情報をうのみにするのはよくないですし、誤解を指摘されたときに理解しようとする努力はするべきです。お医者さんに難病と診断されたら、別の病院に行ったり、自分で調べたりするはず。あなたの誤解で死を考える人もいるはずです。

コカ・コーラ社の声明ですが、

弊社では、事前にミュージックビデオの内容に関しては把握をしておりません。コカ・コーラ社はいかなる差別も容認しておりません。今回の事態を遺憾に受け止めております。これは、我々が大切にしている価値とは異なるものです

https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202406140000010.html

これはもっといい言葉があったかもしれません。「炎上したのはMVなのでCMは続ける」「曲を変えて再放映」とかは現実的ではありませんが、たとえば「今回のMVの内容は把握してません。また、MVの内容を確認せずに公式アカウントで投稿してしまいました。今後は広告で使用する楽曲に関連するMVなども確認するルールを設けます」とか、対策について語ることで火に油というか、コーラにメントスいれるような事態を弱められたかもしれません。ミセスやミセスのレーベルやユニバーサルミュージックが「楽曲のタイアップ先にMVを確認してもらうルール」を設けるという発信をするのもアリだと思いました。こういうところを各社と連携し、その後の発信を考え、諦めず足掻(もが)くのも広告会社の仕事です。

これから、企業が広告でミセスの起用を見送り、不幸の矢が抜けない日がつづくのは可哀想なので、「コカ・コーラが再びCMでミセスを起用」「コカ・コーラ監修でMVを制作」というようなニュースが見られることを期待しています。広告のキャスティングは、タレントさんが人気あるときには声をかけますが、問題が起きると腫れ物を扱うようにいっせいに無視。個人的には、調子いいときにだけ声をかけるのではなく、落ち込んでるときにこそ声をかける人でいたいと思います。

ちなみに「コカ・コーラがミセスを切った」という投稿も見かけましたが、ミセスのライブが当たるキャンペーンは継続中でした。

https://www.coca-cola.com/jp/ja/brands/coca-cola/campaign

職業柄、企業や映画のためにつくるアーティストのクライアントワーク的な曲がけっこう好きです。ヒゲダン、King Gnu、スピッツ、Creepy Nutsとか。

ミセスのボーカルの方は、コロンブス(Columbus)とコーラ(Cola)が、Colで音が似ているという発見をしたとき、うれしかったんじゃないかなと想像します。

サビの

いつか僕が眠りにつく日の様な
不安だけど確かなゴールが
意外と好きな日常が
渇いたココロに注がれる様な
ちょっとした奇跡にクローズアップ

https://genius.com/Mrs-green-apple-columbus-lyrics

コーラと同じ「o-a(オーア)」で韻を踏んでるところも好きです。

差別を肯定することなく、失敗した人にチャンスがあたえられる、いつだって大丈夫な社会だといいなと願います。

不倫してないのに不倫したと責められるアーティスト。正しい手続きで商標登録した名前を使ってるのに責められるラーメン屋。「誤解される人の姿は美しい。」というのは岡本太郎の言葉ですが、誤解される人は可哀想だなと思います。「もしかしたら誤解してるかも?」と思いながら生きるのが、自分の中に毒を持って生きることだと思います。

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