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ウィーン版戯曲

ウィーン版を検証してみたくて…
ついに戯曲に手を出すことになろうとはw
さすがにドイツ語は敷居が高いので、近いと思われる英語訳で。でもいずれはドイツ語と照らし合わせたい野望。
どうやらこれは2003年ウィーン再演版というやつみたい。(ちょっと視た映像も2005年だからこれと同じバージョン)
因みにAmazon musicにあるのは2012年のコンサート版だ。

92年ウィーン初演→96年宝塚→ハンガリースウェーデンオランダドイツイタリアフィンランドスイスベルギー韓国で翻訳上演
各地ツアー公演(2007日本)
2003年ウィーン再演(ドイツ・オランダで加わった「私が踊る時」追加)
2012年ウィーン再々演(「愛と死の輪舞」に当たるRondo-Schwarzer Prinz 追加)
↑あぁ…こうして見ると英語での上演は未だ嘗てされてないのか。(イギリスでは王室があるだけに微妙という事情もあるって)うーむ…そうなるとやはり、ここを足掛かりにドイツ語を攻略したい欲が…

ルキーニに登場させられた死者たちが言ってる…
Everyone has danced with Death
But no-one like Elisabeth.
誰もが踊る"死の舞踏"。でもエリザベートみたいに踊った人はいない。
つまり…
みんなは死を恐れるけどエリザベートは違った!って意味だよね。
そう、これがルキーニのいちばん言いたいこと。
これが「誰も知らない真実」なのか。

トートの登場時…
What’s the meaning of this old song of
Those times when my chest was on fire?Angels call it joy, Devils call it pain.
People think: It must be love.
My orders are to destroy
I do so coldly
I take those who belong to me, young or old.
I don’t know how it could have happened
When it doesn’t exist within
But it’s true: I loved her.
「過ち」とは言ってないけど、それまで知らなかった燃えるような気持ちになって、閣下は戸惑われたのね。
天使はそれをjoy(神を讃える感じよね)と呼ぶ。悪魔はそれをpain(人を愛した時の苦しい部分か)と呼ぶ。人呼んで「愛」よね。

シシィが木から落ちた時…
Where are you going, black prince?
Why don’t you stay here?
I felt comfortable in your arms.
I felt a longing to let go and be free
How like a black bird: proud and alone.
Yes, I know, you’re Death and all are afraid of you.
But I think of you, and I always will.
Dreaming and writing poetry
Or riding with the wind
No-one understands me like you.
シシィ、死だと分かってトートに惚れてるやん!がっつり告ってるやん!ずっと想い続けるわ、って!
詩を書いたり馬に乗ったりすることは彼女にとって"メメントモリ"なんだ。人にとって芸術とかってそうだよな。"今を生きる"に繋がるからな。
あなただけが私を分かってくれる、なんて言ってる。

あ、でもさ…考えたらこの内容が「愛と死の輪舞」になったのか。甘くてキラキラしたデュエットだもんね…ふたりはここで確かに愛を交わし合ったという気がする。歌詞わからないけど。

日本版ではこれはデュエットじゃないね!
2019でリーヴァイさんがデュエットに変更する提案をしたけどイケコ先生が絶対ダメ!と言ったらしい。ほぉ〜そこにこだわりがあるんだね。

But I think of you, and I always will. の後に、これをシシィのうわ言だと思ってる親戚の1人が She sounds just like her father. と言ってるのも印象的。シシィのパパ、おそらく親戚一同からは変わり者扱いされてた人で、いつも何かを追い掛けてる人っていう見方をされてたのかな。まぁ女の尻も追い掛けてるっぽかったけど。

皇帝の執務のシーンで
The Emperor of Austria doesn’t ‘have to’ do anything.
He gives everyone what they deserve
と言われているのが目に留まる。
フランツ自身も、
Never too early to decide
Avoid yes or no
See the Habsburgs progress
See the victims escape.
って思わされてる。
時流に取り残されているハプスブルク。
ここでのルキーニの憤りの表情が思い出される。

バートイシュル♪
What good’s a plan even if it’s a clever one?
It’s still just a theory.
The one thing that can be guaranteed:
How you plan it to be
Wont be!

フランツとシシィ。
Under the yoke of duty
Many dreams are lost
とか
We’re not like the others
Who are born to be happy.
とか、フランツかなり強い言葉で警告してるんだよな。シシィは全然大丈夫と思っちゃってるけど。
それより、フランツにちゃんとこういう自覚があったのだと思うといたたまれない。
You will soon see life
Through my eyes
And each day we will understand a little more.
結局2人とも、何とかなるでしょって思ってしまったのよねぇ…愛があればってねぇ…
首飾りの件は象徴的。英語ではHow heavy it is. だけど、お花様「ちょっと重い」って言ってなかったっけ?この台詞の言い方可愛くてとても好きだと思った。

このシーン、トートはまったく顔を覗かせてないんだっけ?トートの感情という感覚で言ったらここはちょっと心配そうに顔を出しても良さそうだけど…
シシィの心に全く隙が無かったんだね。強い時はホントに強いからなぁ、この子。

世紀末の空気に包まれた、黄昏時の結婚式。
シシィの婚礼支度をTDたちがやってるんだもんね。不穏だよね。曲も不穏すぎる。
If that is your will, then say yes.
って、Yes.と言わされるとこが何とも…

ゾフィー様もシシィパパも、誰もこの結婚が上手くいくとは思ってない…

最後のダンス。
トート閣下めっちゃジェラってるやん!
It’s an old topic, but new for me. って言うのが可愛いじゃないか。

鳥籠。動物園。衆人環視。
The bird has flown into the cage. The door has been slammed shut. Can you
blame the people for wanting to see the critter? A rarity, born in the wild
and not yet trained!

フランツも味方になってくれない…
Forget your pride
I’m standing aside
It would be better for us both
If you followed my mother’s advice.

そして決意。
I belong only to me!
この決意を守り抜いた幸せがラストに来るのか。

シシィの、宮廷での結婚生活。
Death is greatly annoyed to see Elisabeth at the Viennese Court.
After all, he was rejected,
One can understand his resentment.
So if she finds her milk and honey life
Is not quite to her taste,
You could be forgiven for thinking
That he’s behind it.
確か日本語では「シシィが自我に目覚めたから、トート閣下はご機嫌斜めだ」とか言ってたね。閣下かわゆい♡と思っちゃう。
シシィはとにかく目の前の闘争に勝利することに一生懸命になった。余計な事を考えず目の前のことだけに打ち込んでる状態って、強いよね。
そして、ここでの生活に向いてないことに気付いていく背後には、やはりトートの存在…つまり彼女の本性がある。

結婚3年目…
Slowly she comes to realise
That she can only get what she wants
When they want something of her
And she dictates the price.
と、ルキーニは説明してる。
Franz Joseph: Even your beauty can be politically useful.
Come with me to Hungary
Cast your magic for me.
Elisabeth: Give me the children that you took from me.
Franz Joseph: Make my enemies weak with your charm.
Elisabeth: I travel only with the children.
Get them back first.
Then I’ll gladly travel in the name of politics.
これさ、フランツの方から「君の美しさを利用したい」って言ってるよね。
鏡を見て自分で気付いたんじゃなくて、"美しい皇后" を演れば私の願いを聞いてもらえるのか!って、シシィはこれで気付かされるんだよ。まるでご褒美欲しさに一生懸命芸をする動物みたいで…なんか可哀想に思える。

そしてルキーニ…
So in the fourth year of marriage
The two children travel with the Imperial couple
To Hungary where someone is waiting for them.
You already know who?
Or?
ゾゾゾ…不穏すぎる…

そしてシシィとの闇広(影長w)…
君は僕を愛してる、そういう属性の人なんだから(民衆からThe worry makes the Empress look even more beautiful. とか言われてる所にもそれは表れてる)、君が関わろうとする相手は死に至ることになる、みたいなこと言ってるよね!
ハプスブルクが死へと向かうのはシシィを迎えてしまったからなのか。
娘の死はこれから始まる破滅の序曲。
シシィがルドルフに関わろうとしなかったのは、もしかして不幸をもたらすことを避けたいという思いもあった⁉︎

闇が広がっていく、この流れでウィーンのカフェのシーン…
「カフェのみんなは知ってる」ってルキーニが言うのは皮肉なのか!
オーストリアが時流に取り残されつつある危機を徐々に感じ取ってきている人も少数いるけど、大半の人々はゴシップに明け暮れ何となく世紀末の退廃的な空気の中で日々がダラダラと過ぎていく…Yawning and expecting the apocalypse…そんなふうに死へと近づいている…
Is she liberal?
Is she radical?
She is a strange woman!
She might as well beckon the apocalypse.
シシィのことはこんなふうに言われてる…
ルドルフを出産した時にシシィが見た幻についてルキーニは言及する。我が息子が革命の先頭に立つ姿を見たと。
成河ルキ…この歌の最後に手でピストルを真似てこめかみ撃ち抜くよね…

ルドへのスパルタ教育に反発し、フランツに最後通牒を突きつけるシシィ。
すかさず忍び寄るトート。楽になれよ、と…
No, I want to live!
I’m too young to give up.
I know I can free myself
Now I use my beauty.
Go! I don’t want you!
I don’t need you!
Go!
突っぱねるシシィ。
あゝここまで来ると、トートはシシィ自身の心の声的なものだって思うよね。
いやいや忘れちゃいけない、これはルキーニが語ってる劇中ですよ。
劇作家ルキーニ、なかなかやるなぁ!

ミルク。
皇后のミルク風呂をきっかけに民衆が目覚める。やっぱりシシィの美が引き金なんだね…
シシィが人に与えようとするものは死への引き金になる…

お風呂で美しく磨き上げたシシィの許にフランツが訪れ譲歩することを告げる。
自由を得たと勝ち誇るシシィ。
I belong only to me.
でもこんなの一時のまやかしだよと重ねて歌うトート。
You belong only to me.
うーん、劇作家ルキーニいいねぇ!

そして劇作家ルキーニの真骨頂、Kitsch!
Take a nice souvenir
Of the Imperial World,
All intimate, loving and thoughtful,
Just like you want it to be.
(なんかそういう洒落の気持ちでインペリアルテアートルのお土産買いたくなっちゃうね)
キッチュって "俗悪美"か…
そっか!"こういうのが好きなんだろ?"ってヤツだ!
幸せそうな皇帝一家の姿とか正にそれ。
途中からルキーニはいきなり目の前の私たちに向かって語り掛ける。
Don’t give me that face.
Don’t pretend you’re interested in the reality.
Reality is out there
But no one wants to know because it just upsets them.
Elisabeth is 'in'.
People will speak about her for over a hundred years
But how she really was?
That, no book or film can tell you.
あんたたち"美しい皇后エリザベート"に見惚れてるけどさ。(ついさっき1幕ラストで神々しいばかりに輝く美しいシシィを見たとこだもんな〜)
ルドを放っといたり自身の自由が第一だったりスイスに口座持ってたり、彼女はとんでもないエゴイストだったという見方もできるだろ。(確かにそうね)
You only hear what you want to hear.
Gone is the time
Of beauty and of shit,
Of dream and reality,
Left is only kitsch.
結局あんたたち自分が聴きたいことしか聴かないんだから。
物事にはいろんな側面があるけど、みんなに語られて残るのは、みんなのお好みに合うキッチュだけなのさ!
って、私たち面と向かってめっちゃ皮肉られてるじゃん!楽しげに手拍子とかしてる場合じゃないじゃん!😨
でもルキーニ!あんただって自分のいいように語ってるじゃん!劇作家だからってさ!

エーヤン。
祝祭ムードの陰で、これでまたハプスブルク帝国や古い時代が終焉に近付いたとニヤつくルキーニ。
何気にトートやTDたちもその場に紛れ込んでたよね。

「私が踊るとき」では、シシィ最強。
トートがどんなに諭しても、今のシシィには入らない。
You were strong so long as you believed yourself weak.
という閣下の言葉が痛いな。確かに、結婚1〜3年目のシシィはトートを近付けなかったんだもんな。

そしてトートはルドルフと友達になる…

シシィは公務に勤しむ。
精神病院で、己の虚しさに気付いてしまう。
The only solution would be madness
なんて言うけど、madnessじゃないよね…deathだよね…
へぇ、ティターニアとか言ってたのか。

シシィは虚しさを抱えていたけど、老害たちからは勝ち誇ってやりたい放題やってるように見えてたでしょうね。→マダム・ヴォルフ

そして体操室。
トートはドクトルの姿で現れたけど、たぶん「私が踊るとき」以降こんなふうにシシィ周辺に忍び込むようになったんじゃないかな。
もうちょいだった!惜しかったねぇ閣下!
シシィは夫の裏切りさえ利用しようと奮い立つ。

フランツはゾフィーママに決別。ママって呼んでたんだね!ゾフィー様失意のうちにお亡くなり。

旅を続けるシシィ。忍び寄る老い。
フランツとルドルフの関係悪化。
フランツもルドルフも孤独。

ルドルフの前に現れる友達トート。
I call for you
When my fears
Eat into me.
ルドにとって理解者はトートだけ。
I come
Because you need me.
闇広。The shadows are getting longer
Time to see the crack in the world.
Could I just turn the wheel!
But I must just stand by it.
They have bound
My hands.
時代の転換期にあって、それを実感していて、でも何もできなくて苦しいルド。
Nothing is worse
Than knowing
That the disaster is developing
And being forced to watch helplessly.
だよねだよねって同調してくれるトート。
The vicious circle is narrowing
But they only believe what they want to believe.
……
Why does everyone stay silent?
もどかしいよね!
What’s holding you back?
This is the moment.
Reach for the power.
Do it in self-defence!
やっちゃえよ!自衛だよ!
煽るトート。破滅へ追いやってやろうとかそういう悪意じゃなくて、友達に同調して励ましてあげてる感じだよね。
そして、皇帝ルドルフは立ち上がる。
ルドルフはハプスブルクを何とか保たなきゃという動機で動いていたのではないように思うんだけどね。でもその枠組の外から考えることができるほど才気や度量のあった人ではなかったと思うから、せいぜいリベラルな皇帝になろうとしていたのかな。

あれ?カフェのシーンは?カフェに紛れ込んでる閣下もかわゆいんだけど。
おー!これも宝塚版から追加だったんだ。

フランツとルドルフの口論。
シシィママのこともちょっと持ち出しながらね。
You want to conserve.
However all you reap is
Hate!

からの、Hass!
The progress, cazzone! The 20th Century. It’s marching in. Unmistakably.
憎しみと暴力の20世紀へ。
ここはまた劇作家ルキーニが社会派な一面を見せてくる渋いとこだよなぁ。
シシィがハイネ像を造ろうとしていること、亡命者に寛大なことにも触れられる。焚きつけてるのはルキーニだよ。

詩を書きながら、シシィは自分の人生を悔いている。
パパみたいになれなかった。自由になれなかった。

ママ鏡って…僕はママの鏡だからママは僕から目を外らしてたんだね、見てくれなかったんだね、っていう歌だったのか!
I feel trapped and surrounded.
Threatened by the danger of
Being disgraced before the world.
Only you alone
Can I trust with my worries.
I see no way out.
Court and marriage torture me.
I’m sick!
My life is empty!
ってルドが言ってるの、これ全部シシィそのものじゃん!(泣)
今、閉塞の中でママに助けを求めるルドからもシシィは目を外らす。直視できないんだ。己の姿を見るようで…。

ルドを喪ってそれに気付いたけど時すでに遅し。トートに縋ったが、
Too late!
I don’t want you!
Not at all!
I don’t need you!
Go!
って…閣下きびしいな。「まだ充分に俺を愛してない」みたいなトーンじゃなくない?

人々が見るのは、死を求めてるシシィではなく"息子の死を悲しむ皇后"。キッチュ 。

夜のボート。哀しいふたり。
-You want everything. But sometimes something small is worth a lot
-Your dream is too small for me
そもそも絶対に分かり合える筈のなかったふたり。
Understand me.
I need you. I love you
Can you not be with me?
とにかくこれしか言えないフランツ…

悪夢。
わぁ、トートとフランツめっちゃ争ってるやん!
-I gave her my life.
-A poor gift.
-I give her support and security.
-I give her freedom!
ってすごい応酬!次回しっかり聞かねば。
そしてルキーニが呼ばれる。

なぜエリザベートを?って尋問されて
Il giornale. I read that she was in the city.
ってルキーニは答えるんだけど、この「新聞に書いてあった」が、ミルクの日本語歌詞にも反映されたのかも?ミルクの英訳には新聞って無かったからね。

シシィはトートの腕の中へ。
Turn the night into morning,
Let me be free and secure,
Erase the memories within me,
Give my soul a home.
って驚くほどサッパリしてるなぁ。
この世で泣いたり笑ったりしたこと全ては無かったことになってしまう…そういう世界観なのかな。
Let the world sink!
よっ!トート閣下!黄泉の帝王らしいね!
But one thing I did manage:
I always stayed true to myself.
色々あったけど、最終的にここに誇りを持ってたんだね。
The world searches in vain for
The meaning of my life
Because I belong to me!
同時に閣下もYou belong to me! って歌ってるんだけどさ…

これこそ、劇作家ルキーニが言いたかったことなんだね。
シシィは死しか求めていなかった。それが真の自由だと知った、トートに初めて出会ったあの日からずっと。
死を恐れる普通の人たちには分からないことでしょうけれど。

黄泉の帝王トートが人間のシシィを愛してしまった、シシィが望まない方法でトートが近付いてくる…って感じで解釈してる人が多い気がするけど、ウィーン版の原文に近いと信じる英語訳を見る限り、10代の時点でシシィからトートへの愛を告白していて、彼女はそういう属性の人なのだということが明らか。
つまり劇作家ルキーニの「エリザベートは死を求めていた」というプロットにブレは生じない。
トートが感情めいたものを見せるところがあるけど、それはルキーニの感情なんだと思う。シシィを愛してしまったり、突っぱねられてシュンとしたり、フランツに嫉妬したり、ルドルフに共感したり。

そしてね、劇作家ルキーニも劇中では語らなかったけど、真の自由=死を求めていたのはルキーニ自身だったんだよ。
だからこそこんな物語を語ってるのよね。

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