鮨屋にて ③

大将の手を施された平目は
米粒の光輝く白に
優しく受け止められていた。

口の中に入れば音のように
絡み合って消えてなくなった。

余分な感想は左脳が受け付けない。

カウンターの正面から天井までを
ゆっくり見上げた。

カウンターはコの字というよりは、
皿の形をしていた。
カウンターには7名程が座れる。

無言で、順々に手際よく鮨が出されてくる。
7名に順々に。

大将が何十年かで
作り上げた、この仕組みとこの空気と
この鮨は見事に簡潔をつくり、
それを意志として
食すものに無言で伝えた。

二貫目が出ると同時に箸がでる。
他の客も皆そうだった。

二貫目の酢じめされた鮨は
「これを食べに来たのだ」
と舌に快楽を思いださせる。

そして
「今日はあれはでるのかな」
と頭の思考を止めなかった。

はやく欲しいという心拍が
胃をもっとリズミカルにした。

しかしいつも思うが
綺麗な鮨だ。

今の言い方でいうなら
これを
フォトジェニックっていうの?

そうなんじゃないのかしらん
と勘違いする。

もちろん誰も撮るものはいない。

でも、主義を変更し
写真におさめたくなるくらい綺麗だった。


大将の握る鮨の米粒の光り方と
小振りなシャリの隙間も好きだ。

カウンター越しに鮨が出されてから
箸をとり口に入れるまでの一瞬。

時間は均等だが、ゆっくりお願いと
天に願う。

それでも
奥さんがレジスターを開くタイミングと
この鮨の値段はずっとかわらなかった。

どの客もみんな「ここだけは隠しておきたい店」
にしているようにみえる。

本日はその楽しみを存分に味わっている。
っ顔を昼間っからみんなしてる。
贅沢だ。

それぞれの至福が、
掻き乱される事のない
いい店だった。

私は味噌汁を味わい
レジにいる奥さんの方をみた。

奥さんは顔色かえず
至って普通だった。

いつものことだから
安心をした。

この店を内緒にしておくのは
どんな秘密を隠すのと同じなのかなと
ふと考える。

昼の光が
楠の木のしたに咲く
浅葱色の紫陽花に

語りかけてる気がした。


あともう少し。

あともう少し
綺麗に咲いていられるよ、と。

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