『2024年cocoonからの旅』vol.1
「あれ?なんで、エレベータに乗ってるの?」
総天然色ハウスの方で、『こどもマーチの時間』があった翌日のことである。
散歩がてら出かけた、近所のお稲荷さんへの参拝の帰り、
近所に建ったマンションの後片付けの作業員とすれ違い、
「やっと完成ですね。」
「ええ、お騒がせしました。」
「いえいえ、お疲れ様でした。」
そんな会話をした。
千米に帰ってきて、玄関を開けたら
なんでか? エレベーターがあった。というか、もうEVの箱の中だ。
作業員さんが、何か言い残したことがあるのか、玄関ドアの向こう側をノックしているけれど、そのドア一枚が何かを大きく隔てて、もうそれに応えることができない。
(ここから、このEVに載れる人は、もういないだろう。)
断ち切るように、私は自然に上に上にと、EVのボタンを押していた。
エレベーターのスケルトンのドア越しに見える建物内部は
おおきな繭のような白い未来的な構造になっていた。内部が繭状なのであり、外観はもちろん見えない。
(いままで見たことのない建物だわ。
ここに何があるっていうの?)
EVは私が適当に押した階毎に停止していった。
私は、知り合いどころか、人の氣配さえ感じない、もっとも無機質なフロアーで降りた。そこだという感じがしたから。
そこはワンフロアーのひたすらに大きな空間。進んでいくとEVからは暗くてまったく見えなかった奥の方に、落ち着いた紅色のカーペットが敷かれた、これまた広いロビースペースがあった。
そこを縁取る窓。素材はガラスなのか、やけに大きい一枚のスケルトンの板である。
そしてその向こう、建物の外にあったもの。
それを、何といえばいい?
空飛ぶ大型観光船。(これは木造なの?)
帆船のようでもあり、スクリューはヘリかドローンのように働いて、氣球のように浮かんでいる。
建物とは階段式のギャングウェイ(飛行機のタラップのようなもの)で繋がっている体をしているけれど、これは一つのモチーフにしか過ぎない。それぞれの空間は密閉され守られなければならないから、仮に繋げたら、ひずみが出てギャングウェイが砕けるだけでは済まないかもしれない。
では互い扉を往復するカギの本質は何か?「意識」である。
そして、モチーフであるギャングウェイを渡る本質は「勇氣」である。
比呂乃は随分前にこの船の乗船を申し込み、今日突然、こんな形で招待されたのだ。
観光ではなく、乗船のお客様、停泊先のお客様へのヒーリング業務などの仕事を兼ねてである。
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