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開胸術後疼痛に対する薬物治療について

肺がんの手術から1年が経過しました。ちょっと遡って、術後の痛みの推移について書いていきます。

梅雨から夏にかけて痛みが悪化

手術で切開した創(きず)そのものの痛みは比較的早期に消失しています。脇に何か挟んだりした時に硬いものが押し付けられたりしない限り、痛みを感じることはありません。

問題は切開創とは離れている左胸部の部分的な痛みです。これが梅雨を過ぎ、夏の暑さとともに悪化していきました。
雨が降る前に痛み始める、という話は以前書きましたが、冷房による「冷え」も実は痛みを悪化させるということがわかってきたのです。

特に厄介なのは寝るときです。7月ごろにはもう冷房なしで寝ることができないような熱帯夜が多くなり、布団をかけて眠ることができず、せいぜい薄手のタオルケット1枚をお腹にかける程度。着るものも半袖のTシャツなどでになってしまうわけです。なるべく体を冷やさないようにエアコンの温度を高めに設定したり、長袖のシャツを着ようとか思ってはみても、結局暑さで寝苦しくて眠れないということになってしまいます。

また、夏は朝明るくなる時間も早いので、あまり朝寝坊もできません。普段から5時半に起きる習慣なのですが、それよりも早い時間に目が覚めてしまうことも多くなりました。

中途覚醒による慢性的な睡眠不足からQOLが低下

年齢的な要因もあって以前から中途覚醒は悩みの種でしたが、術後初めての夏はそれまでよりも深刻な状態に陥っていました。毎晩午前2〜3時ごろに目が覚めて、明け方近くまで眠れずそのまま朝を迎えてしまうということが頻繁にあり、休日はその穴埋めに朝遅くまで寝ていたり、日中に仮眠をとったりして何とかしのぐという生活になってしまいました。

あるとき、寝返りを打つ際に痛みを覚えることが中途覚醒のきっかけになっているのではないかということに気づきました。
通常は、眠りに入った後、まずノンレム睡眠と呼ばれる深い眠りの時間が続きます。この時間帯は身体も弛緩していて、あまり寝返りは多くありませんから、痛みを感じて目が醒めることがないのでしょう。
ところが、そのあとに続くレム睡眠では、脳が半ば覚醒している浅い眠りなので、寝返りを打って痛みを感じたりするとすぐに目が覚めてしまう・・・ということなのではないかと推測しています。

術後にはなかった「左乳首の痛み」の問題

もうひとつの問題は、術後には存在しなかった痛みが後から現れ始めたということです。具体的には、左乳首を圧迫すると、まるで傷口を刺激したかのような鋭く強い痛みを感じるようになったということです。これはいつ頃から感じるようになったのか、正確には覚えていませんが、おそらく暑くなってからのことだったと思います。

術後からあった痛みに関しては、その現れ方はさまざまですが、いずれも共通しているのは、痛いときは何もしなくても痛いし、物理的な刺激とはあまり関連しないということです。

一方、左乳首のほうは、単に冷えたとか寒いからとか、あるいは天気が悪いからといったことで痛むわけではありません。そのかわり、押すと痛い。環境要因とは一切関係なく、物理的刺激に対していつでも痛みがあるというのが特徴です。もちろん、さすがにお風呂で湯船に浸かって温めたりすれば痛みの程度は軽減しますが、術後からある他の胸部の痛みのように、温めたからといって大幅に軽減されるわけではありません。

というわけで、睡眠不足による体力の消耗や日中の眠気によって、QOLが大幅に低下してしまったわけです。

神経障害性疼痛の薬やペインクリニックという選択肢

そんな中、まだ残暑厳しい9月の12日、定期的なフォローアップのためにエックス線撮影と採血の検査を受けた際、主治医である呼吸器外科診療部長のY本先生に痛みの状況を伝えました。
そして、検査結果の説明を受けるため一週間後に再度受診したのですが、たまたまY本先生が不在で、別の若い先生(お名前は失念)から説明を受けることになりました。
その際、電子カルテに記載された前回受診時の私の訴えを見て、その若い先生がこう言ったのです。

「神経の痛みに作用するお薬を出したり、ペインクリニックを受診するという手もありますよ」

主治医でもない初対面の医師から急にそんなことを言われても、その場ではすぐに決められるわけもなく、じゃあ薬を出してほしいですとも、ペインクリニックを受診したいですとも答えられなかったわけですが、後になって考えてみると、やはり何かしら手を打たないと身体がもたないという結論に至ったのです。

何もしなければ次の受診は3ヶ月後、つまり術後1年のタイミングになります。それまで待つことはできないと判断したので、病院の予約窓口に電話をして、最終的には本来の受診科である呼吸器外科でまず一度主治医と話をすることになりました。

こうして11月12日に予約を入れ、主治医のY先生と話をした結果、まずペインクリニックを受診する前に、神経障害性疼痛に効果があるとされる「リリカ(一般名:プレガバリン)」を二週間服用してみようということになりました。

「リリカ」の服用開始

一日150mgを朝夕2回に分けて服用するため、「リリカOD錠75mg」が二週間分、28錠処方されました。

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服用を始めたその日の夜から、劇的な変化がありました。と言っても、痛みを軽減する効果ではありません。副作用のほうです。

本来の効果、つまり神経障害による痛みを抑える働きについては、効果が現れるまで一定の血中濃度を維持した状態で数日を要すると言われています。
結論から言えば、服用を開始して現在まで、痛みが軽減されたと感じたことはありません。少なくとも自分のケースでは、リリカは「期待される効果」が認められなかったと言わざるを得ません。

一方、副作用についてはすぐに現れました。

リリカの副作用その1「傾眠」

「傾眠」とは、要するに「眠くなる」ということです。服用を開始したその夜、これまでにないくらいぐっすり眠れたことにまず驚きました。就寝中、身につけているApple Watchで計測されたデータを「AutoSleep」というアプリで解析した結果でも、「深い睡眠」の時間の長さがこれまでにないレベルになっていました。
これは本当に嬉しい誤算というか、痛みそのものは変わらなくても、これだけよく眠れるようになるのであれば、最大の問題は解決したも同然、と思いました。

しかし、残念ながらこの副作用は、日中起きて活動している時間帯にもみられます。その結果、以下のような状況になります。

・よく眠ったはずなのに、朝起きるとき眠くて仕方がない
・通勤電車で運良く座れると寝過ごしてしまうのが心配
・仕事中もとにかく眠くてフリスクが手放せない
・トイレで座ると瞬時にマイクロスリープに陥る
・帰宅してご飯を食べた後も眠くて動けない
・入浴中も浴槽で寝落ちする

これでは夜眠れなくて生活に支障を来すというこれまでの状況と基本的には何も変わっていません。ただ、幸いなことに睡眠自体は十分に確保できているので、体力の消耗は確実に回復できるようになりました。

リリカの副作用その2「浮動性めまい」

これは大したことはありません。が、やはり服用開始直後はなんとなく足元がふわふわするような気もしました。なので、通勤時はいくら混雑していてもなるべくホームの端ギリギリを歩かないように注意はしていました。

リリカの副作用その3「食欲亢進」

たしかに食欲は以前よりも増したという気がします。しかし、睡眠不足で朝あまり食べられなくなっていたのが、朝からモリモリ食べられるようになったのは本来の状態に戻っただけ、とも言えます。

明らかにこれはおかしい、と思ったのは、それほど空腹感がなくても延々と食べ続けられるという状態がみられたことです。これは食欲が亢進しているというよりも、満腹中枢が機能していないという感じでしょうか。最初は自分でその状態を面白がる余裕もあったのですが、2、3日も過食が続くと消化器系にダメージが来てしまい、胃もたれや腹痛など食べ過ぎによる悪影響が現れたので、それ以来、過食については意識的にセーブするように心がけています。

リリカの副作用その4「神経性障害」

症状が多岐にわたるため「神経性障害」と、ざっくりまとめてしまいましたが、自覚したものとしては以下のような感じです。

・物忘れや言い間違いが増える
・思考力、集中力の低下
・狭いところを通ろうとするとぶつかってしまう
・細かい作業で手元が狂う

結局のところ、リリカを服用して何かいいことがあったかというと、夜よく眠れるようになっただけ、ということになるでしょう。最初に書いてしまいましたが、痛みに対する効果は二週間服用を続けてもまったく感じられませんでした。

服用を開始して二週間後の11月26日、再度呼吸器外科を受診した際に、これらの状況を主治医に報告しました。

ペインクリニック(麻酔科)の併診開始

リリカは1日150mgから開始して効果が出るまで徐々に用量を増やしていき、上限の1日600mgまではOKだと聞いていたので、この次は倍ぐらいに用量を増やすのかと思っていたのですが、そうではありませんでした。

そもそも、呼吸器「外科」というくらいですから、薬物でコントロールするのは得意分野ではないわけです。餅は餅屋、あとは専門家(つまり、麻酔科)に任せましょう、ということになりました。

呼吸器外科ではこれまでの予定通り、次回は術後1年の画像診断など定期的なフォローアップをするものとして、新たにペインクリニックの受診を予約することになりました。
すぐに診てもらっても良かったのですが、12月12日に呼吸器外科の受診予定があったので、同じ日のその後の時間帯に予約を入れてもらいました。

ちなみに、ペインクリニックにかかったからといって、開胸術後疼痛が改善するという期待は最初からしていません。そんな症例があれば当然、自分で調べても出てくるはずだし、医療側も最初から選択肢に挙げるはずだからです。
おそらく何をやっても効果はなく、やるだけやってそのことを確認できれば気が済むだろう、というつもりで治療に臨んでいました。

ですので、体力的にも(精神的にも)これまでのようなフルタイム(プラス時間外労働)の勤務に年間通して従事するのは困難と考え、2019年1月から働き始めたばかりの職場ではありますが、同年内いっぱいで退職することにしました。

新たな治療で効果があろうがなかろうが、また、どんな副作用があるにせよ、一旦フリーランスに戻って自分のペースでできる範囲で仕事をするような生活であれば、まあなんとか立て直せるであろう、ということです。
2020年からはあくまでも療養生活を中心に、一に睡眠、二に食事、三に運動、それができた上での仕事、という心づもりで年末を迎えていました。

肋間神経ブロック注射とオピオイド系鎮痛剤の投与

12月12日に呼吸器外科を受診し、定番コースの胸部エックス線と採血を終えたあと、昼頃に麻酔科のペインクリニックを受診しました。

この日のペインクリニック外来の担当は、少しお年を召した男性医師でした。開胸手術で肋間神経が障害されるメカニズムと、それに対して麻酔科でできることの説明があり、リリカに加えてトラマール(一般名:トラマドール)というオピオイド系鎮痛剤の追加と、肋間神経ブロックの注射がいきなり決定しました。

肋間神経ブロック注射

「今から少し時間ありますか?」ということで、隣の処置室ですぐに注射を打つことに。なんでも、神経ブロック注射は効いてもせいぜい数時間とのこと。じゃあ、なぜ打つのかというと、副次的に血行が良くなるという効果が期待できるらしく、そのことにより痛みの軽減につながるのだそうです。ちなみにこれは数日間程度持続するとのこと。

しかし、注射を打つポイントを探るために、手術跡をぐりぐり押されて痛いこと。もちろん注射も、神経に麻酔を効かせるわけだから、特有のイヤーンな感じの痛みです。で、痛みがどうなったかっていう話なんですが、残念ながら以下の通り。

・麻酔による皮膚表面の感覚の変化はあるものの、痛みについては軽減したという感覚はない。
・数時間後、上記の感覚が消失するにつれて注射を打った部位の痛みが強くなり、体感的には通常の痛みにその分が上乗せされた感じ。
・注射部位の痛みは翌日にはほぼ消失。

つまり「効果なし」。注射で痛い思いをした分だけ損した感じ、です。

トラマールの服用開始とその副作用による服用の中止

さて、その日の夜から服用を開始することになったトラマールですが、1日に4回も服用しなければなりません。

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タイミングは朝、昼、夜の食後と就寝前となっていますが、本来なら6時間毎の服用が望ましいのでしょうが、自分の生活パターンでは夕食後はお風呂に入ったらすぐに寝てしまうので、夕食後と就寝前の服用間隔があまりに短すぎるという問題があります。さて、どうしたものか。

一方、あらかじめ知らされていた副作用についてですが、まず必ずと言っていいほど便秘になるとのこと。これは自分の親ががんになった時もオピオイド系の鎮痛剤が腸の動きを止めてしまうため、下剤を併用していたことを覚えています。最初から下剤は出しませんが、食事の際に水分を多めに摂ってくださいとのこと。自分でも普段からお通じは良いほう(1日に2、3回はデフォルト)なので、少々甘くみていましたが、これが後々大問題になるとは・・・

もうひとつの副作用として伝えられたのは、胃のむかつきや吐き気、食欲不振が起こる可能性があるということ。これは服用を続けていれば数日で必ずおさまるので我慢してくださいとのこと。こっちの方がむしろ重要というようなニュアンスだったので、なおのこと便秘の件は印象が薄まってしまったような。

で、実際に服用を開始してからの経過は以下の通りとなりました。

12/12(木曜日)
・夕食後(18:00頃)より服用開始
・同日20:00過ぎには就寝。就寝前の服用では間隔が短すぎるため、21:30頃に一旦起きて服用。

12/13(金曜日)
・朝食後(6:00頃)、昼食後(13:00頃)、夕食後(19;30頃)に服用。
・便通は朝食後1回のみ(通常は2、3回/日)。
・入浴後すぐ就寝のため、就寝前には服用せず、深夜2:00頃にトイレに起きた際に服用。

12/14(土曜日)
・朝食後(8:00頃)、昼食後(13:00頃)に服用。
・この日もまったく便通がなく、夕食前に胃腸の不快感を覚え、服用を中止。

12/15(日曜日)
・朝食後、少量の排便の後、通常量の排便あり。

普段は丸一日お通じがないなんてありえない、という体質なので、二日出ないともうこれはアウトでしょう、ということで速攻中止です。
緩下剤である酸化マグネシウムなどはドラッグストアでも買えますが、この薬が原因で便秘になってるのがわかっているのに、自己判断で下剤を併用してまで続けるのは本末転倒というもの。これがもし、がん性疼痛でもう鎮痛剤がなければ痛くてどうしようもない、という状況であれば話は別ですが、服用しても痛みに対する効果がまったく感じられないのに、便秘を我慢してまで続ける理由はありません。

痛みに対する効果がまったくない、と書きましたが、副作用も含めたトラマール服用中の変化についてまとめると以下のようになります。

・胃のむかつきや吐き気を覚えることは一切なく、食欲も通常どおりかそれ以上にあった。
・便秘は服薬と明確に連動して起こった。
・痛みの軽減はほぼ感じられない。左乳首圧迫時の鋭い痛みが若干鈍くなったと感じた瞬間もあったが、ほとんど「気のせい」のレベルであり、時間をおいて試してみるといつも通りの感覚だった。
・眠気はリリカのみ服用時と大差ない。夜間は数回の中途覚醒はあるものの、再入眠が困難な時間はそれほど長くないため、就寝時間を早くすればトータルである程度眠れているという感覚は得られている。とはいえ日によって3時台に目が覚めた後、ほとんど眠れない日もある。
・一時的なもの忘れや間違いなど認知機能の低下はリリカ服用開始後からしばしばみられたが、トラマール追加後に増悪した印象あり。

「リリカ、止めてもいいですか?」

12月27日、本来ならばトラマールを追加してどうなったか様子をみるための再診の予定だったのですが、まずは前述のような状況であることを説明することとなりました。この日は初診の日と曜日が異なるため、最初に見てくださった先生とは別の若い女医さんが担当でした。

神経障害性疼痛に対して使える薬はもう一種類あるとのことでしたが、とりあえずトラマールは使いたくないということを伝えました。

で、今後どうするかという話になったわけですが、結局トラマールの件があってから、やっぱり安易に薬に頼るのはまずいな、という気持ちが大きくなっていたので、リリカもやめられるものなら一旦服用を止めてみてはどうだろうか?という考えを率直に話してみました。

結論としては本人の判断を尊重する、ということで、リリカの服用を一旦止めて様子をみて、年明けにどうだったか報告するということでOKが出ました。
ただし、止めてみて痛みが増すようだったら服用を再開してくださいとのこと。用量については調整して構わないということでした。

ちなみに、最初に二週間分処方されたリリカは75mg錠でしたが、実は妻が椎間板ヘルニアで入院した際に使い残したリリカ25mg錠が結構たくさん残っていたので、以降はそれを朝夕3錠ずつ服用していました。もちろん、あらかじめ了解を得た上で使っていたので、麻酔科の医師も承知しています。なので、1回2錠に減らして使ってもいいし、そのあたりは適宜調整OKという話が出たのでした。

しかし、とりあえずその日の夜から、リリカを服用するのは完全に止めてみました。眠れなければ眠れないで、どうなるかやってみよう、というところです。

リリカの服用中止による離脱症状、再開について

リリカの服用中止と同時に、見事に睡眠時の中途覚醒が再発しました。同時に、日によって(というか時間帯によって)気分の落ち込みなど、どうも精神的によろしくない感じが続き、当初は睡眠不足のせいかと思っていたのですが、もしかして、リリカって抗不安薬としての効果はあるのかな?と思って調べてみました。

ビンゴ!

実際、帯状疱疹後の神経痛に処方されてた50代女性がリリカを中断したところ、やはり抑うつ症状や精神不安を訴えて、自己判断で服用を再開したら消失したという症例が報告されていました。もちろん個人差はあるんでしょうが、自分にもそれに近いことが起こっていたと考えると納得できます。

しかも、なんとリリカの服用を中止する際には「少なくとも1週間以上かけて徐々に減量すること」と、添付文書にも書いてあることを発見しました。

いきなり止めちゃいけなかったんだ・・・知らなかった。ていうか、先生何も言ってなかったよね?

というわけで、1月2日の夜から以前の通り25mg3錠でリリカの服用を再開したところ、毎日よく眠れるし精神的にも落ち着いています。ああよかったよかった。
とはいえ、昨夜は低血糖っぽい感じで急に空腹を覚えたり、満腹中枢どこ行った?的な感覚を久々に覚えたりもしたので少し気をつけていかねば、というところです。実際に体重もじわじわ増えてきています。

さて、今週は1月9日に骨シンチと造影CT、翌10日には麻酔科の受診なので、そこでまたリリカのみ当分継続するのかどうか、今後の治療方針を相談することになることになると思います。

それでは、この続きはまた次回。

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