見出し画像

『宇宙図書艦ビブリオン』の好きだったエピソードを挙げてく

もしもその『星』に『住民』がいて
『文明』と『空想』があるならば
きっと『物語』があり『本』がある

シャルドネ(『宇宙図書艦ビブリオン』)

宇宙図書艦ビブリオン』の紹介動画を昨日見て全力で懐かしくなったので、小学校時代の記憶を思い起こして書きました。サブスクに無いので、一部、Wikipedia・ツイッター・ニコニコ大百科・ピクシブ百科事典等で記憶を補完した箇所があります。


概要

――銀河系の無数の書物を集める、小惑星型巨大図書艦「ビブリオン」。
今日もビブリオンは銀河を巡り、あらゆる星から集まる奇人と奇書とを引き合わせる――

『宇宙図書艦ビブリオン』アニメ公式サイト「あらすじ」より

2008年4月-2010年3月までテレビ柬京系列で放映されていた『宇宙図書艦ビブリオン』。当時の筆者は、ドラえもん・ポケモン・BLUE DRAGONなどとともにこれを見るのが毎週の楽しみでした。(※ なお2007年公開の映画は見ておらず、以降テレビ放映版のみの記述となります)

「時にワクワク、時にゾッとさせられる、摩訶不思議な星・人々・本の数々」「容赦なくハードボイルドなストーリー展開と、人情味のあるテーマ」「痛快な無双シーン」「個性的で魅力的なキャラクタ」などなど、どれをとっても心惹かれました。個人的に「図書館が舞台のファンタジーは傑作」の法則を提唱してるのですが、『ビブリオン』はまさにご多分に漏れません(ちなみに今一番アツい図書館ファンタジーは『図書館の大魔術師』です)。

主なキャラクタ

短編連作で、ゲストキャラがメインになる性質上、レギュラーキャラは少なめです。

シャルドネ

ここがあなたのエンドページだ

第1話「図書艦内ではお静かに」より

全エピソードに登場する、本作の狂言回し。
艦内守護部副統括の肩書を持つ第一級宇宙司書であり、その過去の正体は、銀河で暗躍する暗殺者一族「モスカート」の中でも最強と謳われた暗殺者。超合金の栞「BOOK END」を自在に操り、図書艦の存在を脅かす者、艦内の本を破壊し奪おうとする者どもを淡々と「禁則処理」し、図書艦の治安を日夜守る。 

シャルドネが本作の魅力の七割を占めると言っても過言ではありません。クールで最強で賢く人情味もあってほんのり厨二臭い、もうめちゃくちゃ憧れてました。
「決め台詞とともに、片手に携えた本の『BOOK END』を巻末に挟み、本を閉じる → 既に斬られていた敵が血を噴き出して倒れ伏す」、あの格好良さに触発され、栞を無意味に巻末に挟んでいた小学生は筆者だけではないでしょう。

(なお、「いや人を斬ったばかりの暗器を本に挟むなよ」という、大勢の視聴者が内心で覚える感情が、終盤のエピソード・第49話「栞を挟んで受け取って」で伏線回収されるのは鳥肌ものでした。いつも携帯してる本にそんなギミックがあると思わないじゃん)

また、小六の頃に市内で一番大きな図書館に行ったとき、扉に警備員さんが物々しく立っていて、不意にシャルドネの「図書艦は誰でも入ることができるけど、誰でも出れるわけではない」台詞(第1話)を思い出し、「無事に出れるのかな」とめちゃくちゃドキドキしたのを覚えてます。「禁則処理」の本来の意味が「禁を破った者を処理する」と全然違うことを知ったのはもう少し先でした。


クシノマヴロ

僕の持つ進化的アルゴリズムと潤沢な計算資源は、自然が数億年かけて計算しつづけた進化を未だ凌駕しきるものではないようだね

第13話「買収」より

ビブリオンの艦長。図書艦という名の巨大な小惑星の舵取りの一切を担う、超性能AI。
作中随一のトリックスターであり、初出の第4話「図書館艦長」ではデウス・エクス・マキナとなって話を締めるのですが、いかんせん艦長が全能なのは自身の庭の中だけ。いかに超性能AIといえど、銀河をうごめく無数の不思議と政治と陰謀と超超高性能AIとを対処しきれるものではなく、図書艦のスタッフ達の助力を仰ぎ、指揮し、ともに立ち向かいます。
「感情がわからない」的な古典的AI表現もなく感情表現バリバリなので、終始クールなシャルドネとの対比がきわだちます。書いてて思ったのですが、トリックスターやデウスエクスマキナというか「ドラえもん」のドラえもんに近いポジションです。便利なお助け役だし、肝心のときに限って役に立たないし。

ちなみにAIなので、気分次第で様々なアバターと人格を使い分けており(声優もすべて異なる)、作中では、少女(表情に乏しい)、青年(忍たまの土井先生を彷彿とさせる優しそうな見た目でなれなれしくシャルドネに冷酷な指示を下したりする)、中年女性(厳格)、老爺(温厚柔和)などのアバターが登場しますが、pixivに投稿されているイラストの9割は青年アバターです(2023年12月現在)。


ミュスカデル

読み足りない読み足りない読み足りない読み足りない読み足りない!

第22話「文学少女の一日」

アルシャイン星の文学少女。「この図書艦の本をすべて読んで死ぬ」と豪語する。

見た目こそ儚げな文学少女ですが、アルシャイン星人は「おもしろい情報を摂取することで生命を維持し、寿命は半無限」という性質を持つので、彼女は割と本気で読破するつもりでいます。
ちなみに、図書艦の財産を奪おうとする者は、大抵はシャルドネに淡々と「禁則処理」されますが、不運にも読書中もとい食事中のミュスカデルにエンカウントすると、「物語」とみなされ、情報を読み取ろうと背中から伸びた彼女の無数の手に体をねじ切られるかなり痛々しい死を遂げます(第22話「文学少女の一日」)。
「どこにでも現れる」「行動に予測がつかない」「読書中は無敵」なので盗人目線ではシャルドネ以上のデストラップですし、5ch「ビブリオン強さランキング」でもTier 1に位置します。

ツヴァイゲルト

俺は、ここから無事に出たら妹にシリウスコーラを買ってやるんだ……!
こんなところで死ぬわけにいくか!!

第3話「トレジャーハント」より

闇市で宝を売った金で、病気の妹の治療費を稼ぐ、ブラキウム星出身のトレジャーハンター。図書艦の禁書を持ち出しシャルドネに捕まったところを、まだ幼いことと、隠密スキルを高く見込まれたことから見逃され、以降シャルドネの手下として図書艦で働くことになる(第3話)。

かなり人気が高いキャラだと思います。健気に頑張る子どもはみんな好き。第3話は終始ツヴァイゲルトの主観で物語が進むので、淡々と少年を追い詰めるシャルドネが非常に怖いんですよね。なんとか逃げ延びて自分の宇宙艇にたどり着いたときの、操縦席に座って栞を磨くシャルドネは、割とトラウマでした。
その後の「妹を治し救うための情報なら、ここからいくらでも持ち出して良い」「図書艦は情報を探す手助けもできる。そのために司書がいる」も名シーンです。ちなみに、筆者はこれを見なかったら図書館のレファレンスカウンターの存在を大学生の卒論の時期になっても知らなかったと思います。

タナ

本のために命を賭けてるから

第6話「虫の本」より

本には宇宙中のおもしろい情報が書かれてるって、 
つまりもうほぼ「宇宙」そのものってことでしょ?

第32話「一級宇宙司書資格試験第零次試験」より

シャルドネの同期で、案内部統括・一級宇宙司書。銀河の無数の書物に詳しい。重度の奇書マニアで、ときに死にかけることも厭わず、まだ見ぬ書物を集めたいと願っている。口が悪いが、シャルドネの手助けをすることが多い。

物語によくいる、「自身を周囲の中で常識人と位置付けているが、周囲からは奇人とみなされている」タイプのキャラクタ。基本的に本好きしかいない図書艦で「本のために命賭けてる」と淀みなく言えるくらい、マジで本のために命を賭けてる人物です。バスケ部内で「趣味・バスケ」と言える奴、軽音部内で「特技・ギター」と言える奴は「猛者」だけ。


他にもキャラクタは語り足りないですが、キリが無いので以下では、全51話中で特に印象的だったエピソードをピックアップして書きます。


エピソード


「一級宇宙司書資格最終試験」(第33話)

宇宙はあまりに広く、「書物」の概念の範疇は、諸君の故郷の文化における「書物」の概念よりはるかに広大である。つまり宇宙には、諸君の身体および精神を恒久的に破壊しうる危険な「書物」、星や文明すら破壊しうる「書物」で満ちている。
それゆえに宇宙司書には等級を設け、等級に見合う能力無き者が危険な「書物」を取り扱うことのないように定めることに、多くの星間図書館が合意している。
この制限は諸君および諸君の周囲を守るためのものであって、諸君の思想および良心の自由、検閲されない自由、図書館の自由を侵害し毀損するものではなく、むしろ長期的にそれらの自由を維持しうると、試験監督の私、銀河図書館協会会長カベルネ・ソーヴィニヨンは確信している。

外れの無いシャルドネ過去回の一つ。「宇宙司書には等級があり、等級によって扱える書物が異なる」の初期設定が薄れつつあった頃に投入された、一級司書試験編。

銀河系で指折りの超難関資格といえど、超優秀なシャルドネや同期入艦のタナにとっては、課題自体はやすやす突破できるはずのものでした――「協力プレイが必須」という一点を除けば。暗殺稼業と異なり「図書艦の仕事は一人ではできない」現実に初めて直面するシャルドネ。

「死者も出るらしいけど、あんたは本のために命賭けられる?」
「たかが本のために、命賭けたくはないな。別に、本はそこまで好きじゃない」
「……こっちは本のために命賭けてんの!そんなんで一級司書目指そうなんて、ふざけるな!」

第31話「一級宇宙司書資格第零次試験」より

シャルドネとグループを組むことになったタナが盛大に啖呵を切って険悪な雰囲気から試験が始まりますが、ともに正反対の二人の性格の長所と短所がうまく噛みあい、試練を攻略してゆきます。最後に「没頭本」の群れに頭から喰われかけるところを間一髪で救出したシャルドネが、

「私は本のために命かけたくはないけど、本のために命かけられる人のためなら、命かけても良いと思えるんだ」

第33話「一級宇宙司書資格最終試験」より

って言うここ、本当に好きです。タナが惚れるのは当然だと思う。
なお、シャルドネがなぜ、図書艦に流れ着き司書を志すに至ったかは、第49話「栞を挟んで受け取って」まで明かされません。


「巨峰屋本店へいらっしゃい」(第25話)

「まあそう急がず、腰を下ろして、『巨峰』の名にたがわぬこの雄大な惑星を目に焼き付けたまえ。最後の一頁を飾るには相応しい眺めだろう」
「折角のお誘いだけど、あいにく続刊が図書艦に入荷したと聞いたもので」 

作中でたびたび登場する、銀河系一の書店・「巨峰屋書店(きょほうやしょてん)」。「情報は力なり(バイト・イズ・マイト)」を社是に、あまねく銀河の情報・通信網を支配する超巨大企業にして、宇宙図書艦ビブリオン最大の敵対勢力です。

これまでのシリーズはビブリオンに潜入した書店の工作員をシャルドネが「禁則処理」するのみでしたが、今回は同僚のタナが巨峰屋書店の「本店」に囚われたことで、シャルドネは決死の潜入を試みます。
地球の直径二倍の大惑星まるごとそのものが店舗という、あまりに広大な敷地を駆け抜け、本の火山や本の海原を越えるアクショーンシーンが見もの。地下1205階までタナが受け続けていた拷問、「物語のネタばらしをして一番良いところでやめて続きを聞かせない」は一見するとシュールギャグ以外の何物でもないですが、タナのヘルベティオス星人としての体質を踏まえるとあまりに残虐きわまりなく、シャルドネが初めて見せる憤激の表情もむべなるかなというもの。

ところで、シャルドネの出自の暗殺者一族「モスカート」は長年、巨峰屋書店の仕事を請け負ってきたことから、シャルドネ本人も、書店との因縁が深い事情があります。同じモスカートであり、巨峰屋書店総務部長であり、銀河でたった七人の特級司書資格も持つグルナッシュとの激戦は、シリーズを通してシャルドネが最も劣勢に立たされた一戦です。

ちなみにタナが「囚われのヒロイン」役をやる回はまだもう一つあります(第37話「奇書・奇書・奇書」)。


「本が人」(第38話)

「……あなたの本?それが?あなたがたの?本?あなたは『図書艦』の?司書?」
「悲しいことにこちらも同じ感想なんだ」

「『人類』が本にそっくりで、逆に『本』が視聴者(地球人類)にそっくりの見た目」という、異様な異星文明サダクビアとのコンタクトを描いた、作中屈指のトラウマ回

いつものように本の取引をすべく、サダクビア星人の船に降り立つシャルドネ。ところがシャルドネが片手に携えた「栞に挟んだ本」は彼らにしてみれば「刃物で真っ二つに裂かれた同胞の死体」ですし、彼らが保管し売ろうとしていた「本」の山は、シャルドネをして強い嫌悪を湧かせるものでした。
(彼らがどのように本を「読む」かはカメラに一切映らず、なお身の毛がよだちます)

ビブリオンの存在がサダクビア文明そのものへの冒涜とみなされ、交渉どころではなくたちまち戦闘が勃発。BOOK ENDでサダクビア星人を斬り伏せ続けながら、自らのボートへ戻ろうとするシャルドネ。映像としては白い紙が舞ってるだけなのに、異様にグロテスク。

仮にも図書館を題材にしている作品で子どもに本に対するトラウマを植え付けるな」みたいなことは当時思いましたが、今にしてみれば「本は楽しく心地よく無害なものだけではない」「『表現の自由』の題目ははてしなく重い」ということを教わる意欲作だったと思います。
白い紙屑を払いながら「どんな本や客も受け入れる覚悟はどうやら私にはまだ無い」とシャルドネが重々しく呟いて、EDとなります。

「司書の弟子」(第40話)

「僕とシャルドネさんって似てますよね!」
「……私もそう思うかもしれない」

シャルドネに弟子ができた、という場面から物語がスタート。星間戦争で故郷を失い、図書艦に流れ着いた見習い司書の「アイレン」です。最初は嫌々だったシャルドネも、天真爛漫で優しく働き者のアイレンに、次第に心を許してゆきますが、しかしその正体は、家を出奔したシャルドネを始末しにきた、モスカート一族の暗殺者でした。
自身の休憩の場に同席させるほど、すっかり気が緩んだシャルドネ。読書中のシャルドネに近づき、お茶に毒を盛るアイレン。シャルドネはごく自然にカップをかき混ぜ、栞を本に挟み、立ち上がります。

「……読みかけの本を、そのままにしておくことがある。おもしろすぎて、最後まで読んでしまうのがもったいなくなってしまうから」
「…………アイレンも、図書艦の司書になるんだ。過去は忘れて、今度こそ一から――」

シャルドネは最初からアイレンの正体に気づきながら、泳がせていたのです。シャルドネが明確に「甘さ」を見せるのは初めてでした。あるいは、自身の境遇とアイレンの境遇を重ねたためでもあるかもしれません。

「…………ああこれもう駄目だつまんないわと思った本は、僕は最後までさっさと読み切っちゃいますね、本のためですよ」
「舐めるな、施すな、憐れむな!僕は『モスカート』の暗殺者だ!」

自身の正体と目的を見抜かれたと悟ったアイレンは、しかしシャルドネの誘いに応じることなく、栞型光線銃「BOOK-NEVER-END」を抜いてシャルドネを襲うアイレン。バレたら堂々と正面から殺しに行くのが『ビブリオン』世界の暗殺者です。

戦闘中も自分から攻撃をせず、説得を試みるシャルドネ。その態度がアイレンをますます激昂させ、シャルドネを挑発するために他の人物に標的を変えたことで、ついにシャルドネは説得を諦めるのでした。
アイレンの姿は映さず、栞を挟んだ本を床に打ち棄てるシャルドネの背中のみを映し、物語は幕を引きます。

エピソードもまだまだ語り足りないですが、いかんせん記憶頼りの部分が多くこれ以上はうろ覚えのボロが出そうなので、そろそろ筆をおいて、ちゃんとレンタルしてもう一度見てこようと思います。いつかリメイクされることを祈って。

「 ……結末が読めないなんて、地獄でしょ地獄!」
「続きが無い方が、いつまでも待てて、いつでも空想できて、楽しいと思うけどな」

第51話「はてしない本」より

(了)



・この感想記事は、『宇宙図書艦ビブリオン』は、ピエ郎「この世に存在しない架空の映画をレビューしてみた#4」のレビュー(2:24-)を勝手に基にしています
・冒頭の画像はpixabay投稿の写真を基にしています