【アゼルバイジャン暮らしの日記】バザールで、物語のあるお買いものを。
2024年1月9日
今日はジムに行かず(いきなり頓挫)。
朝、出勤して来たお手伝いさんが、ちょっと来てと台所に呼ぶのでゆくと、どうぞと蟹をくれた。そんなめずらしいものを!と驚くと、年始のお祝いにもらったのだけれど、料理の仕方がわからないから、と。蟹は大好きなので、喜んでいただく、ありがとう。渡り蟹の大きいのみたいな蟹。何にしよう?パスタかな、甲羅揚げかな。
午後は、新しく着任した料理人の方に、バザールを案内する約束をしたので、出かける。アゼルバイジャンでは、季節の野菜は、その旬の時期にしか店頭に並ばない。冬は、蕪や大根、菊芋やほうれん草がおいしい。白菜もあるかな。菊芋は日本ではあまり馴染みはないけれど、ごぼうや蓮根のような、根菜の風味と食感があるので貴重。ここの大根は、しっかりとした風味と仄かな苦みがあって、土の香りがする。冬のほうれん草はうんと甘くておいしい。アゼルバイジャン南部の、ランキャラン産のレモンも買おう。バザールに、そんな旬を探しにゆくのは心楽しい。
お料理が好きな人との間には(プロと一般人の私の間には相当な差異があるにせよ)、共通の言語がある。たとえば、コロッケにするじゃがいもは、身の色が白い男爵系で、肉じゃがにはしっとりとした黄色の身のメークイン系のものがいいよね、とか。この黒海産のぴかぴかの鱸は、冷凍ものではなくて、脂が乗っていて美味しそうだね、とか。お互いに通じ合うものがあって楽しい。この4年間で私が知り得た食材の知識を、共有できるのもうれしい。
私は、市場が好き。ハザールの売り子のおじちゃんはおばちゃんは、大抵はソ連時代を生き抜いた精鋭達なので、ロシア語という共通の言語があるから、お互いにちょっとした世間話などもできるのがいい。それぞれの野菜には、自慢の産地と品種があって、そんな蘊蓄を聞くのも楽しい。ギョイチャイの柘榴、アブシェロンのサフランは一級品、ランキャランのキウイに、冬のトマトはズィラ…物語のある品物を、そのお話ごとを拾うみたいにして私は丁寧に買い集める。
通訳をして、お買い物を手伝って、私もほうれん草と菊芋、搾りたての柘榴のジュースと、真っ赤なトマトとぱりっとしたきゅうりを買った。ほくほく。家までの道のりは、徒歩15分。登り坂に、柘榴ジュースを1リットル買ったことを呪いながら、せっせと歩く。帰りがけにのんちゃんの家に寄って、トマトをおすそ分け。そうしたらトルコのお友だちの故郷のお土産だという、人参のお菓子をごちそうになる。人参となつめやしを練った素朴な味の菓子だれと、どこか妙に懐かしい。知っている味…ふたりで記憶を手繰ると、なるほどこれは干し芋の味!ということになり、不意に故郷を懐かしんだ。
夕食は、菊芋をさっそくポタージュにした。メインは、ジョージアに出かけた際に塊で買ったベーコンを、オーヴンでじっくり焼いたの、添えものは、ほうれん草をにんにくと焦がしバター(ブールノワゼット)でソテーしたのと、真っ赤に熟したトマトに塩とオリーヴオイルをひたひたにかけたの。
私のポタージュの秘訣は、ただ単にパワーブレンダーにかけること(もしくはちゃんと漉す)。私はアメリカ製の、何でも滑らかに粉砕してくれる力強いVitamixというブレンダーを持っていて、簡単にとろり舌触りの滑らかなスープに仕立ててくれる(しかし音はすこぶるうるさい)
夜、夏にジョージアに行ったときに訪ねた修道院の写真を見返して、短いビデオ・クリップを作った。音楽に合わせて、映像の色調を変えながら、あの静謐で荘厳な空気を思い出そうとする。自分で作った映像に、短い文章を書くのも好きだ。私の記憶は、いつも映像と繋がっているから。
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