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ぐにゃりの街。
白く透き通るようなサラサラの砂の粉。
楕円形のオーツ麦はいつ見ても愛らしい。
いつもこぶし一握り分だけポッケに入れて僕は旅に出る。
Badshapeと言われるその街は名前の通りどこの家も家というにはあまりにも不恰好な建物ばかり。
細長い家や横に広がっている家。
雑草に覆われた家や屋根が随分沈んでいる家もあった。
どこを見ても真っ直ぐな面を見つけられない。
ぐにゃり。そんな音が聴こえてくる街。
整えようとは思わないのだろうか?
そんなことを思った時ふわっとシナモンの甘い香りがどこからともなく漂ってきた。
その匂いにつられていくと茶色の壁に白い屋根の家が見えてきた。
無造作に空いた壁の穴を囲って無理やりに作った様な窓はよく見ると窓枠しかなかった。
ぽっかり空いた窓枠だけの窓からシナモンの甘い匂いが外に流れ出している。
僕は喉を鳴らしながら気づけばその家の窓枠にたどり着いていた。
視線に気づいた白髪の小さいお婆さんがうっすらと微笑みこちらに手招きをした。
言われるままに中に入るとお婆さんはこれまた見たことのない不思議な形の椅子に向かって手を伸ばした。
僕はそこに腰掛けた。
見た目とは裏腹に随分と触り心地のいい椅子だ。
粘土を練って固めた様なギリギリコーヒーソーサーに見える器に茶色の液体が注がれうすく伸ばした手のひらくらいの少し大きなお菓子が紙ナプキンの上に置かれた。
シナモンと粉糖がたっぷりと上にかかっていた。
一口齧るとジャリジャリガリガリ。
かと思えば少し柔らかい。
シナモンの味
セイロンの味もする
塩気も感じる
チョコレートも入っている。
これは何ですか?と聞いたら
さぁ、名前も形もこの街の人は気にしていないからそんなものはない。
とにかく食べて美味しければそれでめでたしめでたし。
お婆さんは嬉しそうに笑った。
いや、でもクッキーみたいな。
でもなんだろうクッキーにしては固いし。
何が入っているんですか?
不思議そうに問いただす僕を見てお婆さんはやれやれというような顔でこう言った。
どうして名前を付けたがるのかしら。
私たちの街は外では形の悪い街だなんて言われてるみたいだけどその言葉は一体どういう意味を持つのかしら。
あなたとわたしがまったく同じ景色を見たときにその景色を例える言葉は本当にあるのかしら。
まったく同じ言葉が思い浮かぶとは思えないしきっと何を感じるかさえ人が変わればそれは多種多様なものになるのではないかしら。
そんなことより。
わたしがいて人がいてこの街があってただそれだけで楽しい毎日よ。
この街もそのお菓子にも名前なんてものはない。
それにわたしはまだあなたの名前を知らない。
それでもあなたがふらっとここへ来てわたしのお菓子を頬張って嬉しそうだった。
私はそれだけで充分幸福感を味わったわ。
それでいいじゃない。
さぁ、一休み出来たのなら旅の続きへいってらっしゃい。
そして、またこの名もないお菓子を食べたくなったらいつでもあの窓枠を覗くといいわ。
気をつけて。
お婆さんはまたにっこりと笑った。
意味を持たないというのもまた幸せなのかも知れない。
何となくポッケに入れた手に旅のお守り代わりにしているオーツ麦が当たった。
確かにいつの間にかお守りみたいになったこのオーツ麦。
どうしてそうなったかなんてとうの昔に忘れてしまった。
まぁいいか。
意味はないけれどこれを持ってると何だか安心するんだ。
それでいいじゃない。
お婆さんの顔が空に浮かんだ。
また空にお婆さんの顔が浮かんだらまた会いに来よう。
ぐにゃり。あの街へ。
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