能傍タルツの実話怪談コレクション その二十五「現代筑前奇談考」-12月-『元、ヘルズキッチン ノリさんの話』
もう何年も会ってないが
筆者の知り合いのノリさんは
かつて福岡の上人橋通りで
「ヘルズキッチン」という
ハード・コアマニア専門の
レコード屋をやっていた。
だが、ある時から
家庭の事情等により店を閉め
お祖母さんの介護をしながら
それ以前は
亡くなった曾祖母も起居していた
鞍手町にある実家に戻ることとなる。
築五十年は経とうかという
昔のままの家は
なんでもノリさん曰く
日野日出志「蔵六の奇病」に出てくる
まさにそのボロさだったらしい笑
トイレは汲み取り式に
手を加えた簡易水洗。
壁はあちこちひび割れた
土壁。
背もたれすると
畳が砂だらけになるような
民家だったそうだ。
とは言え
幾らなんでも自分の実家を
怪奇漫画に喩えるとは
またずいぶんな言い種だが笑
しかし
特に夜などは
のべつ鳴り響く
家鳴りがひときわ酷く
その騒音と介護疲れで
ろくに眠れない日々が続いていたのも
また事実だったようだ。
そんなある晩
ノリさんが寝室としていた部屋の
土壁から白い手が出てきたらしい。
びっくりした彼が
それを引き出そうと掴むと
逆にもの凄い力で握り返され
パニック状態になったノリさんが
激しく抵抗すると
カランカランと乾いた音を立てて
砕け散り消えてしまった。
この話をしてくれた人にも
何度も確認したのだが
筆者が知る限りでも
ノリさんはいわゆる統合失調症や
薬物、アルコール中毒などではない。
また、この一件で
結局ノリさんは
手首の靭帯を痛めてしまったのだが
その時に通院した
病院の診断書もあった。
まあ、さすがに
「霊魂による障害」とは
書いてはいないだろうが笑
しかし、ノリさん曰く
数日後のある晩。
こんどは何と
白髪のざんばら髪を
振り乱した老婆その人が
家鳴りと共に壁から現れたらしい。
ここまで行くと
さすがに聴いている方も驚くが
寝室を違う部屋に変えたところ
何故かこれらの怪異は収まったらしい。
その老婆が誰なのか
どんな関係性があるのかなどは
一切不明。
お祖母さん亡き後
ノリさんは実家を処分し
違うアパートで
現在は生活している。
ところでノリさんは別に
いわゆる霊媒体質とかでは
なかったと筆者は記憶する。
だが、これらの件を
ノリさんなりに考えたところが
こうである。
そのくだんの実家から
真っ直ぐ寺に向かって
細い旧道が伸びておるのだが
それが霊道になっておるのではないか。
あの寝室が通り道になっていたのか。
いずれにせよ
道路拡張された後は
いずれの怪奇現象も
姿を消したとのこと。
このノリさんの体験談は
先日、筆者の知り合いで
Nu-Caという
ポストパンクバンドのギター
シュウゴ氏から
聞かされた話である。
つい最近。
この話を
両者を昔から知る
ある人たちに話したところ
こんな証言があった。
ノリさんの実家に行くと
電源を切ったはずの携帯が
勝手に作動したり
音楽が鳴り出したりするのは
しょっちゅう。
壁から老婆の件はともかく
携帯の不思議は
誰もが必ず体験したと
彼らは口を揃えた。
(終わり)
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