バリトンという楽器、ご存知ですか?
いきなりですが、実は目下、日本に滞在しています。
欧州からの入国者に対して課せられている14日間の隔離生活が、もう間もなく終わります。
その後に待っているのが、今回の私の帰国の主な目的である、「バリトン」を使った演奏会です。
「バリトン」と聞くと、大多数の方は「声楽の音域のことでは?」と思われることでしょう。
いいえ、これはれっきとした、弦楽器の名前なのです!
↑ バリトンを演奏中の私。
ちょうど10年前、留学先のバーゼルで「バリトン奏者デビュー」したときのショット。
これまで散々、リュートのことばっかり書いてきたのに、急にこんな摩訶不思議な楽器なんか紹介して、お前は一体何者だ?と言われそうです。
自分がこの楽器に触れるまでの経緯はいささか複雑ですので、今回は省略させて下さい・・
さて、上の写真で私が弾いているのはコピーのバリトンで、実際にヨーロッパの博物館には、17世紀から18世紀に作られたオリジナルの楽器がいくつか現存します。
↑ ウィーンの楽器博物館所蔵のバリトン2台。
同博物館にはさらにもう1台バリトンがあり、私がスイスで弾いている楽器は、そちらのコピーです。
↑ ライプツィヒの楽器博物館所蔵のバリトン。
第一印象はいかがでしょう?
随分と「いかつい」、というか「メカの香りがする」楽器ですね。
その珍しさゆえに、かつてヨーロッパ在住の奏者が来日してバリトンを演奏した際は、「幻の楽器」として紹介されたこともあります。
しかし実際は、日本の楽器博物館にも、オリジナルのバリトンが所蔵されているため、決して「幻の楽器」ではありません!
そこで今回は、このバリトンを改めてご紹介します。
一般にこの楽器が人々の目に触れる機会は極めて稀で、実演の機会となるとさらに少ないのは事実。
理由は、この楽器の特殊な構造と、その奏法によるところが大きいと思います。
↑ バリトンを裏から見ると、こんな風になっています。
指板の裏側部分を拡大すると・・
金属弦がむき出しになっています。
この金属弦は、楽器全体の響きを豊かにする共鳴弦としての役割を果たすほかに、指板を押さえるほうの手の中で、裏側にまわって「余っている」親指を使って、直接はじいて音を出すことができます。
楽器の頭にペグ(糸巻)がやたら沢山刺さっているわけは、これらの弦に対応していたからなのでした。
つまりバリトンとは、弓で擦って音を出すのと、この金属弦を後ろからはじいて音を出すのとの、両方の効果が楽しめる、いわゆる「ハイブリット楽器」というわけです。
バリトンは単独で弾かれることもありますが、とりわけ多く作品が残っているのが、バリトンにヴィオラとバスを加えたトリオの編成による、通称「バリトン・トリオ」です。
バリトン・トリオの曲を、おそらく史上最も多く作曲したのが、クラシック音楽の分野ではとても有名な、こちらの方。
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)です。
ハイドンが長年仕えていた貴族領主、エステルハーズィ候ニコラウス1世(1714~1790)が趣味でバリトンを嗜み、ハイドンは候のために、合わせて120曲を超えるバリトン・トリオを、短期間のうちにせっせと作ったのでした。
ハイドンのバリトン・トリオは、別の楽器編成のために第三者が編曲した形で世に出た一部の作品を除き、ほとんどがごくプライベートなルートを辿って手稿譜として伝わりました。私的な楽しみを第一の目的とするレパートリーだったわけです。
私は留学中にこのトリオによる編成のグループ「トリオ・シュタットルマン」を、同時期に音大で学んでいた日本人の奏者たち2人と共に立ち上げ、去年で設立10週年を迎えました。
コロナ禍により開催が1年延期となった設立10周年の記念ツアーは、10月8日(金)の芦屋公演を皮切りに、岡山と福山、名古屋、そして横浜と回ります。
↑ 芦屋公演のチラシ。残りの公演の詳細は、こちらをどうぞ!
最終公演となる横浜公演は、既に予約で埋まってしまいましたが、残りの4公演については、まだ残席があるとのことです。
それから近日、岡山公演を前に、FM岡山のラジオ番組、Fresh Morning OKAYAMAに出演して、バリトンについて少しお話させていただきます。
私の出演は27日(月)午前8時20分から10分程度。
もしよろしければ、お聞きになってみてください。
以上、バリトンという楽器のご紹介と、近日開始する日本ツアーのご案内でした。
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