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「リュート=難しい楽器?」について考えてみた

リュートという楽器に対する、ごくごく一般的なイメージとは、どんなものなのでしょうか。
最初の方で「奏楽の天使」という記事を書きました。
しかし果たして、「リュート」と聞いて「奏楽の天使」が即座に結びつく人が、どのくらいいるのでしょうか。

何だか、いろいろ疑わしくなってきました。
この個人的なモヤモヤを解決するべく、リュートと聞いて人々が何をイメージしているかを調べるちょっとした実験を、つい先日敢行。

Googleの検索画面に「リュート」と入力して、その次に何が表示されるかを見てみました。
いわゆるところの「第二検索ワード」と、その頻出度を分析しようというわけです。

公平を期して、自分の検索履歴をリセットした状態で「リュート」とだけ打つと、まずはこうなりました。

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2つ目の「リュート 楽器」は、まあ納得。
3つ目「リュートピア」と、下のほうに出てくる「りゅーとぴあ」は同じものと思われ、調べると「柳都」と称されてきた新潟の大型文化施設のこと。
「リュート サガフロ」は、ゲームのキャラクター(でもリュートを持っている!)、さらにレスピーギによる有名なオーケストラ曲のタイトルと続きます。

次に、英語表記の「lute」で試してみると、意外な結果に。

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「lute instrument」 の上位に、「lute 社内トラブル」があるではありませんか。
不審に思って調べたら、近年に倒産した音楽関係の会社の騒動なんですね。
そちらは「ルーテ」と読むそうです。よりによってそんな紛らわしい表記の会社名があるなんて、そういう顛末ならなおさら、ちょっと複雑な思いです。

どうもこの方法は、日本語モードだとあまりうまくいかないようなので、気を取り直して「リュート」と打った後でスペースを入れると、また違う結果になりました。
こちらの方がより、「第二検索ワード」の頻出度を良く反映しているかもしれません。

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上から「リュート 楽器」「リュート 価格」
と来て、次に
「リュート 難しい」 
とあります。
「リュート 販売」「リュート 演奏」よりも上位に、「リュート 難しい」が来るのは、いったいどうしたことでしょうか?

かつてはその手軽さから、人々がお稽古事としてこぞって習い、現代のピアノにも相当するほどの身近な楽器、それがリュートだったはずなのに・・

別の検索サイトでも試してみました。
今度は純粋に、第二検索ワードの頻出度を、先頭の文字別に出してくれるものです。

そこでは、「リュート+む」なら「リュート 難しい」はすぐさま出て来るのに対して、
「リュート+や」の場合は「リュート 易しい」ではなく「リュート ヤフオク」がトップにくるという結果が。
「リュート+か」で、「リュート 簡単」は出てきませんでした。

そうか、リュートは難しい楽器なのか。

これだけではまだ心もとないので、さらに検証すべく、Twitter上で三択によるアンケートを実施

リュートは、
1.弾くのが易しい楽器だと思う。
弾くのが難しい楽器だと思う。
どちらとも言えない。

解答にご協力いただく方々をあらかじめ、2つのカテゴリーに分けさせていただきました。すなわち、

①リュートを一度でも弾いたり、手に取って少し音を出してみたりした経験がおありという方 
と、
②リュートを弾いたり、手に取って音を出した経験はないけれど、リュートの演奏自体はライヴ/録音問わず、一度でも聞いたことがあるという方
の2つです。

1週間を経て気になる結果は、以下のようになりました!
ご協力いただいた方々に心より感謝いたします。

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①②ともに、解答の状況は似た分布を示しています。
リュートを触ったことのある人は、「難しいと思う」割合がそうでない人よりもわずかに高くなっています。

とは言え、両者とも「難しいと思う」が全体の約7割で、この母数を考えても、この差というのはほとんどないものと考えるべきなのかもしれません。

「易しいと思う」は両者とも約1割、「どちらとも言えない」は両者とも約2割。
こちらはリュートを触ったことのない人の方が「易しい」と思う割合が少ないようで、解答保留という意味合いで「どちらとも言えない」に回ったという分析も可能だと思います。

しかし、ここで純粋に気になることがあります。
リュート経験者でなくても、その演奏を見聞きして、第一印象としてただただ「リュートは弾くのが難しい楽器だなあ」という印象を持つとしたら、リュート奏者を標榜している我々としては、素直に残念だという気がします。

だって当人たちは、普段から「リュートはこんなに難しい楽器ですよ!」と、あからさまに見せつけるために演奏しているのでもないですし、ましてや聞いて下さる方々からお金をいただいて演奏するという立場では、それはある種倒錯したような状態に思えます。
単に我々の努力が足りないのでしょうか、あるいはどんなに努力をしても克服できないほど、リュートは「潜在的に」難しい楽器なのでしょうか? 

先ほどのアンケートに戻ると、実はちょっとしたカラクリがあります。
弾くのが難しい」と、私の方から勝手に演奏技術面に限定して問いを立てていたことです。

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ここである思いがよぎりました。
あの検索ワードの「リュート 難しい」とは、演奏技術的面については当然含んではいるでしょうが、場合によってはもっと漠然とした「難しさ」も指示しているのではないかと。

例えば、リュートは小さくて手軽で、取り組みやすい楽器だと思っていたら
そもそも楽器を手に入れるのが難しい
教師を見つけるのが難しい、自習しようにも教本を見つけるのが難しい
楽譜や資料を見つけるのが難しい

これらは普段から、良く私も耳にすることがらです。

で、上記を一応クリアしたところで、さらに
自分の弾きたい曲が弾けるほどの、技術を得るのが難しい
もっと進むと、
プロ奏者としてこの楽器で生計を立てるのが難しい など、
楽器と関わる段階に応じて、いろいろな「難しさ」のレベルがあります
最後の生計うんぬんは、結局どんな楽器、もっと言うとどんな職種でもそうなので、蛇足の感はぬぐえませんが、とりあえず様々な要素が積み重なった上で、トータルでもやっぱり「リュートは難しい楽器」だと認識されているのかも、と思えてきました。

ですが、純粋な弾き手の立場から言わせていただくと、楽器が難しいかそうでないかは、普段から極力考えないことにして、自分で楽しんで弾ける音楽であればそれだけで熱中できるわけで、本来それで良いはずなのです。易しいと思った曲を、心ゆくまで弾くもよし、逆に難しい曲にばかり取り組む(いわば「ドS」型?)人もいるでしょうが、弾くこと=音楽をしていること自体を楽しみ、そこに価値が見いだせているなら、それで万々歳。これ自体、いたってシンプルな論理です。

そもそも「難しい」とか「易しい」とかいうのは、演奏の技術レベルでも、音楽の解釈レベルでも、個々人が勝手に据えた基準に基づいた評価なのだろうという思いが、私自身では強いです。そうしたことを意識した上で、「リュートが難しいかどうかなんて、この際どうでも良くね?」という意見が、今回双方のアンケートに現れた約2割の「どちらともいえない」の中の一部に込められているような気が、うっすらとしてくるのです。

そういうつもりでなく答えていただいた方、もし私が深読みしすぎだったらすみません!

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最後に、1600年代の始めに英国で出版された、あるリュート指南書からの文章の一部をご紹介して、この記事を終えたいと思います。
リュートに関する一通りの演奏技術を説いた後に、著者はこう言います。

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逐語訳:真の芸術(アート)は、難しいことを易しくし、労力(練習?)は難しいことを完璧にし、または(より正しく言うと)用意ができている状態にする。

やや古めかしい表現や綴りが含まれた文章ながら、使われている英単語は初級レベルではないでしょうか。どうも私の訳はいまいちですので、英語力に自信のある方々は、是非もっと格好良い日本語訳を考えてみて下さい!

特に最初の部分を、現代英語に書き直すと
true art makes hard things easy
この文章に最初に出会ったとき、私は非常に腑に落ちました。
今ではほとんど座右の銘の一つともなっています。

この言葉に触発され、とにかく「難しさ」を越えることに意味があると思い、いわば「難しいことを易しく見せる」べく、日々練習しています。
でも奏者の心の内としては、それを悟られないようにするのがなかなか「難しい」・・

あれ?ということは、めぐりめぐって、リュートはやっぱり難しい?


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