トラフ

最初に習うけどトラフって何?という話

無事訓練生としての試験に受かり、飛行学校への入校が許可されても、訓練生には飛行機に乗る前は座学が待ち構えています。その中には航空気象もあり、まず天気図の読み方から始まります。

よく言われるのが天気図に色を塗りましょう。まずは上層の天気図にトラフを書きましょう。というもの。

トラフを描く

FXFE502やAUPQ35などの500hPa面の天気図を見て上空の気圧の谷に線を引っ張るわけです。もちろん意味が分からないので最初は先輩の見よう見まねです。

500hPaと言うとざっくり18000ft位。なぜその高度が重要かと言うと対流圏の丁度真ん中あたりだからです。(と、勝手に僕は思っていますがあってますか?)対流圏の真ん中が重要な理由は後述。

その他の高度と等圧面の参考値を書いておくとざっくりこんな感じです。
調べなくてもFXJPの右端とか見ると参照高度は書いてありますので蛇足ですが。

200hPa : FL400
250hPa : FL350
300hPa : FL300
500hPa : FL180
700hPa : 10,000ft
850hPa : 5,000ft

さて、なぜトラフを描くかと言うと、地上天気図と合わせて見ると今後の低気圧の発達具合がわかるからです。

参考になったサイトを共有しておきます。

色と形で気象予報士
トラフの描き方

要するにトラフの東に地上低気圧があるとその低気圧は発達していくと言うことです。ネット上にある図が僕には分かりづらいので、自分で書いてみたイメージを貼ります。

トラフ

フリーハンドなので線の乱れはご愛嬌です。

昔の人はラジオ放送で聞いて、それをフリーハンドで書いて地上天気図を書いていたそうな。凄くて驚きです。

現代だと地球気のサイトで大体全部見れますから。
訓練生の頃、先輩がサイトからリンクをエクセルのマクロで全部引っ張ってきて勝手に印刷までしておいてくれるようにされてました。

実際にトラフの情報をどう使う?訓練中

初期訓練の頃は高高度を飛ばないので、正直、局所的な観天望気と地上天気図で事足りていました。湿域が〜渦度が〜と色々こねくり回して言ってましたが、VMCを維持できるかどうかを基地空港から半径30NMくらいの範囲で予想することにメソスケース(2000km位)の幅で考えても合理的な結論は得られなさそうな気が今ならするのですが、当時は必死でした。

でも、この頃から

・上層の変化の結果が地上に現れること
・上層の天気は地球の日射の影響の差を平準化する熱輸送の結果であること

を意識できたのは意味があったなと思います。

それでも出せる結論は低気圧の軸が西に傾いていますのでこの低気圧は発達します。。位でしたが。

参考書籍は僕の過去ブログから航空書籍の所を見てみてください。


特に『世界で一番わかりやすい航空気象-今までに無かった天気のはなし

は本当に分かりやすいです。

実際にトラフの情報をどう使う?エアライン

では、大陸横断的に飛ぶエアラインの場合はどの様に使っているのか。
勿論、「西傾しているので今後低気圧が発達して前線性の雲の揺れに注意ですね」みたいなこともサラッと言うこともあります。

僕が重要だと思っているのは上空での揺れへの対応に使うことです。

先ほどの手書きの図の収束発散が重要になってきます。

例えば、福岡から東京に向かって飛んでいて、追い風100ktを受けていているとします。その途中で段々追い風が増えてきて180ktに増速したとします。

この増えた80ktは一体どこからエネルギーが供給されたのでしょうか。
それは先ほどの発散領域。つまり上昇流によってエネルギーが供給されたことになります。

と、言うことは今自分たちがトラフを通過しているということがわかるのです。その上昇流のエネルギーの源泉は南からの暖気移流に他なりません。

そして風力が変化すると言うことは渦が出来ます。前回の記事でも書きましたが渦だけでなく、その渦が保存される事で揺れはおきます。

ですのでトラフと前線が被っている高度を飛ぶ時には要注意と考えた方がいいです。風の変化で生じた渦が保存されますから。でも、前線面を表した図ってAXJP位しかないですよね。

そこで

前線面の推定

です。寒冷前線の勾配は、ざっくり100:1と確か気象予報士のテキストにも書いていたかと思います。僕は計算が苦手なのでこのサイトを使って考えてみました。

スクリーンショット 2019-11-29 0.47.43

手始めに東経140度で緯度だけ5度ずらしてみます。
北緯35°から北緯40°までは560km位の様です。ざっくり300NMくらいですね。

前線面の勾配は100:1ですから、地上天気図から300NM北に平行線を引くとそこでの前線の高さは3NM. 3(NM)×6076(ft/NM)=約18000ft

先ほどの
300hPa : FL300
500hPa : FL180
を考えると、FL180の図で引いたトラフの場所と一致します。

寒冷前線の前線面は上寒気が暖気の下に潜り込んでる形になっているので

上:暖かい
下:寒い

の逆転層になっています。ということは渦が保存されますよね。
もし、圏界面と同じく前線面上は逆転層になっているのです。

なお、300hPa面のトラフに対応する前線面高度を探るには30000ftになればいいので地上の前線から500NM位北に並行線を引けば5NM×6076ft/NMでFL300になるのでちょうど良いですね。

この辺りの高度帯を回避すると揺れが少ない様な気がします。おそらくGPVなどの数値予報のTurbulence予想のロジックはそんな感じなのだろうと考えています。

今日の天気図はあまり良いのが無かったのでまた都合いい天気図の日に買いいたらこのnoteを更新したいと思います。

結論

上空のトラフの位置と前線面が重なる高度は避ける。

終わりに

結論はシンプルに書いていますが、実際は前線面の勾配や色々省いている前提があるのは承知しておりますことを念のため併記しておきます。
パイロットの仕事は時間との勝負なので精密な解析は向いていません。その時々の最低限安全であろう解が最適解です。

また、アカデミックな内容は、時には「気象予報なんて関係ない。航空法上、エンルートの天気状態は規定されていないからだ」という上司の方もいたりはするのですが、それは経験上大丈夫だと考えてらっしゃるからだと理解しています。僕はまだ経験が浅いのでこういった知識ベースでやるしかありませんが機長になる頃には経験も合わせて両方できる人になりたいと考えています。

その頃には、フライトに関してFOからは、サラッと天気図見てブリーフィング短くて無駄が無いよなぁと言われる人になっていたいなと。

以前私がブログで書いていた気象に関することのリンクも貼っておきます。
気象はフライト前にまず確認することなので重要です。

さて、この文は地球の裏側NYで書いているのですが、雨で外に出るのが億劫なのでそんな日は徒然なるままに頭を整理するためにこうやって知識の言語化をすることにしています。Cafe Del Marのラジオを聴きながら。

皆様も良い師走をお迎えください。


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