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Vertical wind shearだけでは揺れない話

2023.6.4追記
・単位の修正
引き続きご指摘あれば建設的なコメントお待ちしております。

現役パイロットの気象図の解説ブログなどは殆ど無く、この記事も参照されてる後輩の方々も多いかと思います。実際このnoteの中でも多く読まれている記事のベスト3に入ります。

僕もなるべく正しく書きたいとは思ってますが、至らぬ点も多いかと思います。
気象などの専門家、あるいは先輩パイロットの方々のご指摘がございましたら適宜修正、改善して行きたいと思います。
若輩者ですが、お力添えの程、よろしくお願いします。


航空機が単位時間に受ける風ベクトルの変化量(m/s^2􏰇 kt/1000ft)の事を「Vertical Wind Shear」と呼んでいます。

航空天気図のFXJPなんかに載っている濃い破線がそれに当たります。

Vertical Wind Shear=VWS。定義上は鉛直方向の加速度なんですが、

「VWSが9もあるから揺れるねー」なんて言うと、突っ込まれることは間違いありません。

そもそもシアーとは何か。英語で言うと「せん断」の事で、工学部の人なら材料力学で十分演習した、あの剪断力の事です。(図.1)
辞書的には「物体内部のある面に沿って両側部分を互いにずれさせるような作用」
となります。だからVWSは「鉛直風のずれ」です。

剪断

図.1 剪断力

渦

図.2 風速差によって出来る渦

僕の理解だと風速の差でできた渦の事だと認識しています。(図.2)

ジェット気流から離れれば離れる程、風速は遅くなるので、その速度差で相対的に剪断されている様になり(あくまでイメージで、剛体の剪断ではありません)、VWSの加速度を発生させる渦が出来る。と、理解しています。(専門家の方、あってますか・・・?)

渦の加速度の強さを6とか9とか数字で表現しているわけです。

じゃあ数字が大きければ揺れるのかと言うと、そうではありません。経験則上も9でも揺れないことも多々。

それは、揺れるには渦があるだけでなく、その渦が保存される必要があり、VWSの存在に加えて逆転層や、前線、等の渦を保存する何らかの要素が必要だからです。


では渦を保存する具体的な要素

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図.3 FXJP106

手っ取り早く今日のFXJPを持ってきました。

FXJPの基本的な読み方は、温度線(黄色)と相当温位線(緑)が直交するところが前線が存在します。

図3だと仙台と札幌の間の①高度FL400以上と②FL250以下あたりにその領域が存在しますね。

①高高度前線

僕が今いる沖縄は11月なのに日中は小春日和の暖かさ。カリフォルニアのインディアンサマーかよ。という陽気。

じゃあ上空FL400*の気温はと言うと-55℃です。じゃあ札幌の上空はもっと寒いの?と聞かれると、一般的な方だとそりゃそうだ。と思うかも知れませんが、札幌の上空を見てください。

*FLとはフライトレベルのことで、高度40000Feetのことをパイロットはこう呼んでます。

FL400は-45℃です。つまり、沖縄の上空の方が寒いんですね。これは圏界面の関係で冬場によく見られる形です。

寒い空気と暖かい空気がぶつかると、そう、前線が出来ます。それがこれの正体ですね。


②FL250あたりより下にある前線

やけに黄色の温位線が逆S字に曲がっています。これは前線の傾度が高くなっている証拠として初期訓練で習う図です。典型的なJetの前線でしてこのエリアとVertical Wind Shearが被っているので、渦が保存されて、もし千歳行きを担当するなら揺れるだろうなーと考えるわけです。

出社して考えること

上の状況を考慮して、もし自分が東京から札幌に飛ぶ時のことを考えてみます。

今日の機体の離陸重量から最良効率高度が一義的に出ます。

それをイメージしてFXJPを見ます。上昇中は多分FL170位までベルトつけて、最良効率の高度はFL350くらいでいいな。

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フリーハンドで線が曲がっていて恐縮ですがこんな感じです。

降下中は大体FL250あたりで揺れる可能性があるから最新のPIREP(パイロットレポート:実際飛んでいるパイロットからの通報)を確認しておこう。降下してから温度線で言うなら−35℃くらいまで下がると揺れてくるから外気温をモニターしつつ、必要であればスピードブレーキを使って外気温が−30℃より上回るまで使うか。高度にしてFL200以下くらいまで。赤丸の間です。
また、その下も風の変化はありそうなので要注意だな。

こんな感じでフライトのイメージを組み立てます。

ここまでで数十秒くらいでしょうか。朝は時間がないのでかなり早い解析が求められます。副操縦士に昇格している人達はこれくらいの解析を本当に数秒でルーティーンで見ます。

ここまで考えた上でディスパッチャーが作ったフライトプランを見てみます。

ここで選定高度などが大きく異なると協議です。どちらかがダメと言ったらフライトは成立しません。

実際には他にもいろんな資料を使ってもっと4次元的に考えているのですが、パイロットてどんな仕事をしているのかの一端でもお見せできれば幸いです。

ちなみに、専門用語をほとんど使いっぱなしで注釈をつけてなくてすいません。

自分の勉強にもなるので、ペイウォール無しで毎週こういう記事を書けたらなと思ってます。モチベーションが上がるのでいいねをよろしくお願いいたします。

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