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古民家に住んでいる話 6

今回はお面の話をしよう。特に能面。

能面と聞いて何種の面が思いつくだろうか。全250種に及ぶ様々な能面の内、多くの人間が最初に思い浮かべるのは小面(こおもて)であろう。

買った。と言ってもメルカリで6000円、陶器製のもの。

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本当は代表格である為それなりに拘りたかった。本物を買う事も考えた。即ち能面師による木彫りを買おうかと悩んだのだが、既に10面並ぶ俺の部屋に未だに能面らしい能面が無いのは由々しき問題であり、早めに確保しておきたかった。木彫りは数万円になる為今使える額からして陶器製にしたが、その中でも吟味した末これに決定。

ひとえに小面の能面と言っても、それぞれ少しずつ顔つきが異なる。人が最も識別を得意とするものの一つが人の顔であるのも加わってその差は決して小さくない。安物であれば生産上のクオリティが如実に表れる他、実際に能に使われる本物であっても能面師の作風はおろか微妙な手加減によってさえ個体差が出る。試しに「能面 小面」あたりで画像検索してみると良い。少しずつ顔つきが違うのがわかるだろう。ここは拘らねばならぬ。

その上でこのサイトを見てもらいたい。

並べられると辛うじてわかる気がするが、単体で出されて「さあこれは何」等と聞かれるとまず答えられる気がしない。ただでさえ個体差があるのに、素人目には個体差レベルにしか見えない違いで種類が分かれるのである。極めて難易度が高い。


「能面のような」表情ないし顔、という形容がある。無表情、または顔立ちが整ったという意味であるが、能面が無表情であるかのような捉え方には少々物申したい。能面、特に小面は極めて表情豊かである。

まず顔の角度。

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次に光源。

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斯くも見事に変わるものである。これのどこが無表情だというのだろう。ああ、やはり能面は好きだ。彼ら若しくは彼女らは愛おしいまでの存在感を醸し出す。美しい。


今後の俺の部屋の計画としては、小面や若女(わかおんな)といった標準的な若い女性の面から、泣増(なきぞう)、泥眼(でいがん)を経て生成(なまなり)と変じ、遂には般若になり、更に蛇(じゃ)を挟むか挟まぬかして真蛇(しんじゃ)に至るという一列を作りたい。或いは真蛇の後に神楽面の般若、又は石見般若を配するのもよかろう。

部屋の入口に小面、奥に石見般若として部屋の中を進むにつれ強烈な怨霊となってゆくようにしたいのである。石見般若の下には俺のベッドの枕、更に横即ち最奥の押入を覗くと幽霊画や妖怪の置物、曰く付きの品等が並んでいるようにでもすれば完璧である。奥座敷を進むにつれ魔の空間となってゆく、そこには俺の寝床がある、と。本棚に遮られ手前の作業スペースにはまだ人間である頃の面だけが飾られている、と。なんと素晴らしい部屋になる事だろう。

ただ1つだけ、かなり大きな問題がある。小面や般若は人気も知名度もある為陶器製の飾り等が幾らでも売られているが、深井や真蛇といったマイナーな面は商品化されておらず、最早本物の木彫りしか無いのである。本物を5面も買おうとすると安い軽自動車や日本刀が買える額になってくる(買う事自体は可能)。1面ずつならば手が届かない範囲ではないので、金が貯まりやすいというゾ邸の長所を最大限に活かし2ヵ月に1面ずつ程度買っていけばこの計画は1年程度で完了する事になる。何かと金はかかるものであるからそう順調にいくとは思っていないが、2年あれば何とかなるだろう。そうなればいっそ小面や般若も買い直したくなる事は想像に難くないとしても、まあ3年はかかるまい。能面計画の始動をここに宣言しよう。


話は変わるが、光の点においても雰囲気の点においても俺は暗い部屋が好きだ。哀しく、禍々しくさえあれかしとすら思う。天井の証明は少々明る過ぎ、電気ストーブ・PC・行灯だけを点けたこの程度の光量が好ましい。

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薄暗い方が風情があるというものである。引っ越して3ヶ月と少々で中々良い部屋となりつつある。今後の進展に期待されたい。

然らば。

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