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古民家に住んでいる話 16

何処からか金木犀の香り漂う季節になったかと思いきや、すぐに寒さが後を追い詰めてきた。秋が好きな事も相俟って四季の二極化を恨めしく思う昨今である。

この家に住み始めてすぐに浮上した最も重大な問題、即ち冬季の異様な寒さへの対策を講じる必要がそろそろ生じており、段階的ながら幾つか試してみた。後述するが、10/10〜10/11の来客に向けてある程度整える必要があったという背景もある。


先ずは炬燵を解禁した。

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手っ取り早く食事の快適さを上げられる。

次に、各々の部屋は電気ストーブを点けていれば何とかならん事もないが、広ければ広い程室温を上げるのは難しくなるもので、特に居間は業務用のエアコンでもない限り暖かい空間にはし難い。炬燵を出したとはいえ2月に体験した8℃という室温(今後更に寒くなる事も予想できる)はもう御免蒙りたいところなので、取り敢えず縁側を何とかする事にした。アルミのシートのようなものを敷いた上に厚みのある茣蓙でも並べればよかろう、とホームセンターでそれらを適当に買った。

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茣蓙なら景観保護的にも悪くない。今は売っていた枚数の問題から喫煙スペースに並べるに留まっているが、最終的には縁側を1周するように敷き詰めたい。幅の狭さも何かしらで埋めたいところだ。また、ボロボロの障子を張替えガラス戸の隙間を何とかすれば多少はマシになろう。梱包用の気泡緩衝材(プチプチ)を貼りまくるのはあまりに見た目が悪い(上に外が見えない)ので最終手段としたい。

応接間には、予てから考えていた暖炉風電気ストーブを置いてみた。

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メラメラと揺れる疑似炎は中々悪くないが、温風がイマイチ部屋全体に行き渡りにくく、暖まるのにやや時間がかかる。来客の際は事前に点けておく方がいいかもしれない。

また、この部屋で冷気が入ってくるのは間違いなく窓からなので、ここには気泡緩衝材を貼ってみた。

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多少はマシになったように思う。完璧とは言い難いが、この部屋に居る時は大抵珈琲を飲んでいる時でもあるし、取り敢えず今はこれでよかろう。優先すべきは他にある。

因みに他の住人の部屋は概ね六畳だが、俺の部屋は八畳ある為やや暖まりにくい。今は20℃程度あるものの、寒い日になると行動力がごっそり奪われる為もう電気ストーブ使用を解禁した。北海道出身の人間が寒さに強いというのは極めてよくある誤解というもので、我々は一時的に外出する分には着込んでいく為どうにでもなるが家はかなり暖かい安全圏になっており、その証拠に夏より冬の方がアイスクリームの消費量が多いというのは有名な話だ。道民は本州の家の寒さには最も弱い民なのかもしれないとすら思う。窓が1枚ずつしかない事にすら疑問を抱いているというのに、隙間だらけのガラス戸と障子しかない日本家屋など正直訳がわからない。

などと嘆いたところで現状が改善するわけでもない。丹前を着ながら作業を続ける。

寒さ対策とは無関係だが、煙管を買ってみた。葉が多く入る黒船煙管、それも無骨なメタリック。

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これで4人中3人が煙管持ちになった。


そんなわけで迎えた10/11、フォロワーのマイナス(twitter:sr_mineka)さんという人と原宿に行った。マイナスさんは東方・秘封繋がりで数年前に知り合った絵描きで、何かと人気のあるお嬢さんだ。数少ないドール趣味のある知人である。この日のテーマは人形ツアー的なもので、原宿にある天使の窓というドールショップに行った後我が家に招く流れである。台風が来ていたが、何とか逸れて直撃は免れた為雨ながら決行した。

この天使の窓、何というか極めてお洒落な店である。マイナスさんを誘った理由もこの手の雰囲気に慣れない男1人では心苦しかったからであったりする。実際はそこまで気負う必要はなかったのだが。

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丁度この日はハロウィン展示期間の初日らしく、入るのには少し並ぶ必要があったが、結果的にはこの期間で大正解だった。撮影もSNSへのアップロードも許可されていたのでここに何枚か貼る(普段はダメらしい)。

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最高だ。何が良いってハロウィンのおかげでゴシック調になっているのが大変良い。和風推しな俺だが、ゴシックも非常に好きなテーマの1つなのだ。人形に求めるものも可愛さというよりは美しさに寄る為、特に4枚目の人形なんかが素晴らしい。実に好ましい眼をしている。

この展示は何れも売り物で売約済みと記載されたものも多かった。建物の2階は服や飾りの売店で、こちらもハロウィンに寄った物が色々あった。折角なので応接間用に怪しげな空瓶など買ってみた。

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食用の蜘蛛を漬けておく瓶なのだろうか。よくわからんがそれっぽいのでヨシ!


そうそう、この日俺は着物で出かけていた。袴は無いので着流しスタイルだが、大家さんから頂いた着物は今や俺の一張羅である。

帽子と黒マスク、能面ネックレスを合わせて胡散臭さを醸し出していく。

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・・・・・これで千葉から原宿まで電車乗って行ったってマジ?

履物は、ヒトケン氏所有のブーツが都合よくピッタリ合ったので借りた。こういうブーツは俺も一足ぐらい欲しい。

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天使の窓を出た後は原宿までやって来ていた西君と喫茶店で合流したのだが、その時通った竹下通り側の細い道が大変良かった。ここで西君が1枚撮る。

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うーむ、良い写真だ。生まれる時代を一世紀間違えた事に定評のあるミゾヲチ。


西君とマイナスさん、ミゾヲチは何れも数年来の付き合いがあり、俺が主催した合同誌に参加してくれたり一時期は絵描きオフ会を開きまくったりしていた、謂わば絵描き仲間というやつだ。西君とマイナスさんが会うのは久々だったようである(俺が場を設ける事が多かった、というか今回もそう)。喫茶店では早々に話が大いに盛り上がり、折角なのでと西君もゾ邸に来る事になった。

というわけで到着、雨のミゾヲチ邸。西君はすぐに俺の作務衣に着替えた。軽く案内した後に応接間で珈琲を出すのは最早安定の流れである。


さて、喫茶店・電車内・応接間で盛り上がった話について少しだけ触れよう。当然、人形が主題となる。今書いている小説のテーマが人形になる為ネタは出し惜しむ旨承知されたいが、例えば西君と以前話した彫刻と人形の違いについて話してみたところマイナスさんとは人形の私秘性についての解釈が一致した。人形は店に並んでいる状態は本来あるべき姿ではないのだ。俺はこの見解は今読んでいる『人形論』から受けたものだが、初めからそれと似た意見を持つのは流石ドール趣味の人間と言いたい(天使の窓で売約済みと表示されたドールを見て凄く嬉しい気持ちになった、とも言っていた)。西君はやはり芸術品という点に着眼したが、一般的な人形が持ち主と人形の一対一の関係を部屋で作っているのに対し、芸術志向の創作人形は展示されている場での鑑賞者との一対一の対話を主とする違いがある。また、俺は以前ドールスレで見かけた「男っぽい趣味の人ほどハマりやすい印象」というレスについて自分がまさにその例だがこれは何故だろう、と考えていたのだが、これは男性的であればあるほど自分が求める理想の女性像が出来上がってゆき、それを人形に求めた際にこうなるのだろうと理解するに至った(少なくとも造形においては創作物が現実のものより好ましいのは当然である)。これは男のドール趣味と女のドール趣味がやや趣を異にする点であろう(中間層が多かろう事は想像に難くないが、あまり突っ込むとジェンダー論が絡んでくるので避けておく)。全ての人形愛好家がそうという訳では当然ないが、少なくとも俺が人形を愛玩するよりは鑑賞を好む理由についてはこれである程度納得できる。故に俺が求めるのは美しさだが、マイナスさんは可愛さを主眼において求めていたのだと理解した―――ローゼンメイデンなら、俺が好きなのは水銀燈や薔薇水晶(or雪華綺晶)、マイナスさんが好きなのは金糸雀らしい。

そう話す内に、久々に場が絵描きオフの体を成してきた。テーマはやはり人形だ。まずはマイナスさんの絵。

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次に西君。同クオリティのものを複数描いていたが割愛。

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そしてミゾヲチ。

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まあ落描きらしい落描きだな。


ああそうだ、先日買った『詳注アリス』(5000円ちょい。良い買い物をした)が中々応接間に似合うので、と不思議の国のアリスの話も少ししていた。

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これに関しマイナスさんに応接間でやって欲しい企画があるのだが、やはり後日という事にしよう。まだ計画詰めてないしな。


話に咲かせた花は時間を養分とするもので、あっという間に夕餉の刻となる。

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ザ・和食。それにしても炬燵は6人が限界だな。普段の来客はやはり2人がベターで、それ以上となる際はいっそ4人程呼んで宴会じみた回にするのがいい。その際は予備の座卓も出すとしよう・・・・・・炬燵ではないがね。

食後、住人が煙管を吸い始める。1人暮らしを始めた男らしく睡眠リズムを大いに狂わせている西君はこの辺りからずっと眠そうにしていた。

ま、そんな空間さ。模造鍋島刀はマイナスさんが重い重いと言っていたが、あれは刀としては細い方だったりする。


さて、そんな感じで食後少し遊んだ後、日帰り予定だったマイナスさんが帰っていった。やけに蔵に興味を抱いていたので、次来る時は蔵の再探索が行われるかもしれない。

この後、妙なものが発生した。ヒトケン氏が以前買ったIKEAの犬のぬいぐるみを俺は畜生人形と呼んでいるのだが、これで散々遊び倒した。

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なんだろうねえ。

遊ぶ内に西君が能面を被ったまま微睡む等やはり眠そうにしていたので、枕だけ渡してこちらも寝る事にした。炬燵寝は良いものだ。


翌日。ちょっと早寝するとすぐ早起きになってしまうもので、ゾ邸来客時としては珍しく朝餉の時間に各々動いていた。朝飯は米とかパンとか、まあ適当だ。俺は和食派。

例によって応接間で珈琲を飲み、この日は西君が借りていた映画を観る事にした。先ずは「シャイニング」140分版である。

映画の感想をあまり長々と書くのは記事の趣旨から逸れるので割愛するが、面白い作品だ。少し贅沢を言うと、あの双子はもうちょっと掘り下げて欲しかった。

昼飯として軽くパンケーキを食い、やはり珈琲を飲む等した後にもう1本観たのだが、こちらはこの家で観るにはハズレだった。タルコフスキーの「鏡」である。全然わからん上に気が滅入った。あれは観るにしても1人で観る映画だな。

あとは適当に駄弁って終わりだ。西君が帰り、(第一回?)人形ツアー終了。マイナスさんはこの家に招きたいフォロワー筆頭の1人だったので、それを果たせたのが良し。またどっか行きたいわねー。

然らば。


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