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恩送り〜Pay it forward〜

大学生の時から愛用していた日傘が姿を消した、
理由はこうだ。

昼から年休をとって帰る日、
とあるインドカレー店でランチにしようと立ち寄った。

向かうなり雲行きが怪しくなった。

突然の雨が降ってきた。
外は土砂降り、雷まで。

店内に入るなり、近くに座っていたおばあさんが話しかけてきた。
「雨、結構ひどいですか?」

おばあさんは、しきりに外の様子を気にしていた。

私はいつものカレーとナンとマンゴーラッシーを頼み、
食事にすることにした。

一向に止む気配のない雨、
おばあさんは、食べ終えた後も外を気にする。
見ると傘を持っていなかった。
帰るのを躊躇っていたんだろう。

気になったので、おばあさんに声をかけた。
「傘貸しましょうか?」

おばあさんもかなり遠慮していたが、
申し訳なさげに、その傘を受け取った。
車に入れていた、晴雨兼用の傘だった。

もちろん、返さなくていいと言って渡した。

この日の数日前、
ある話を思い出した。
それは『恩送り』の話だ。

『恩返し』という言葉は聞いたことがあるだろう。
鶴の恩返しでも有名な話で、
恩を受け取った人に、直接恩を返すことだ。

『恩送り』は、恩返しとは異なる。
恩を受け取ったとき、受け取った人に返すのではなく、
他の誰かにその恩を送ることだ。

英語では、pay it forwardというらしい。

それを説明するにぴったりな動画がある。

いつか、あの傘が違う誰かからかえってくるかもしれない。

ちなみに、傘を渡したものの、おばあさんを大雨の中バス停まで歩かせるわけにもいけなかったので、車で送った。歳を聞いたら93歳だった。