【番外編】2nd oneman-live “Another”考察(前編)
2nd oneman live “Another”の開催から3週間が経とうとしている。
今回はこのライブについての分析と解説をおこなっていくが、エモーショナルな部分については今回の趣旨では無いので割愛させていただいた。ちなみに筆者はライブのわりと冒頭でエモ泣きしているがそんな様子を見せずに、そしてこのnoteが数ヶ月更新されていないことなど気にも留めずに冷静にこの2ndワンマンを紐解いていいきたい。
シンダーエラとしては初の有観客ワンマンとなったこのライブは、今なお世間を取り巻く既知の情勢下でおこなわれ無観客での開催となった1stワンマンの雪辱を果たす意味合いがあったことは想像に難くない。
「Another」と題されたこの日のワンマンの構造を紐解いてみると、デビューから現在までを総括する前半、これからのシンダーエラを提示する後半の二部構成であったことがわかる。本編は最終盤での曲振りの刹那を除きノンストップで進行したが、中盤で新たなSEが挿入された点に注目するとわかりやすいだろう。
前半をデビュー〜現在(ワンマン時点)、後半をこれからの提示と定義する根拠として、前半はすべて既存曲で構成されていたこと、中盤の新SE以降に新曲が集中していたことが挙げられる。
新曲群に関しては現在配信アーカイブなど繰り返し吟味できる手段がなく、歌詞も公開されていない。即ち後半に関してはおいそれと語っていくことはできず、新曲たちのリリースを待たねばならない。楽曲や構成面での挑戦も多分に見られる衝撃的な後半戦であったが、この一連が意味するところは後々明らかとなっていくことだろう。リリースまでの対バンライブでのセットリストなどもヒントになってくるかもしれない。「Another」の真髄は未だ残るお楽しみのひとつということだ。
今回は既存曲のみで固められた前半戦に関して分析していく。
前半後半に二分されると述べたが、前半もテーマによりパートを分けることができる。
本記事では前半戦を第一部とし、それを第一章・第二章に分割して考察する。
選曲や構成を考慮すると、以下のようになるだろう。
先に解説をしておくと、2022年にシンダーエラは1stフルアルバム「sins」、続いて自主制作盤としてEP盤「HIDE AND SEEK - EP」をリリースした。
「sins」にはデビューからそれまでに発表されたすべての楽曲が定番の登場SEと共に初CD化された当時のコンプリート作品。「HIDE AND SEEK - EP」は「sins」リリース直後から立て続けに披露された4曲を余さず収めた1枚となっている。
【第一章「sins」】
まずはアルバムの曲順をおさらいしておこう。
今回のライブは従来のSE「Door」で幕を開け、途中「Pride」「Never End」というアルバムのフィナーレと同じ流れが組み込まれる。
第二章の3曲がコンセプチュアルに並べられているということもあるが、この2曲が並べられているのには「ここまでが『sins』である」と明示されているように感じられる。
「Door」と「Pride」の間の曲順に関してはアルバム通りではなく、また他のセクションに絡む曲は除外されている。(披露されていない曲もある)
「sins」というアルバムについても3分割してグループ分けをすることができる。
シンダーエラ最初のリリースは配信EP2作品「cinder-ella」「LOVE」の同時リリースで、それぞれ4曲ずつ収録されている。また、それらの楽曲の後に披露された4曲が「sins」で初音源化に至った。
それぞれの楽曲の分類は以下の通り。
これらを基に第一章のセットリストを解剖したものが下図である。
まず注目すべきは1曲目が「LOVE」であったことだ。
②の4曲のうち、最初に披露されたのがこの楽曲である。
各ECサイトの商品紹介にもある通り「sins」というアルバムの特筆すべき点は残響レコード代表のkono氏(té)が楽曲を手掛けていることにある。
①までの楽曲は事務所の先輩グループじゅじゅ(2022年3月に活動終了)に通ずるゴシック・ロック路線であったが、kono氏のテクニカルなポスト・メタル楽曲を立て続けに投入したことで根本的な差別化を図ることに成功した。
件の1stワンマンについても、開催発表当時の最新曲は「LOVE」であった。直前に「Greed」、当日に「Well」「Never End」を初披露し、後にリリースに至るという流れだ。
kono氏の参加は「LOVE」以降であり、①の4曲には関与していない。「LOVE」はシンダーエラにとって製作上の転機となった楽曲なのである。
配信EPについても当時の8曲をkono氏の参加前後で二分し、起点となった「LOVE」は②のEPタイトルに抜擢されたほか、スポット映像用にミュージックビデオも制作された。シンダーエラが映像作品を制作した初の楽曲ということにもなる。
※残響レコードの海外版TwitterアカウントによればフルサイズMVを後日発表するとのことであったが、お蔵入りとなったようで現在もスポット映像しか確認することはできない
ライブで披露されることも非常に多く、またシンプルながらもっとも壮大なテーマを名に冠した楽曲であることからも、初期シンダーエラ楽曲の中でも特別な位置付けにあることが推察される。
1stワンマンのリベンジ戦としての性質も持つ2ndワンマンの1曲目として、あるいは「これまでのシンダーエラ」を総ざらいする第一部の先陣を切る楽曲として、これほど相応しい曲は無いだろう。
そして再度第一章の解剖図をご覧いただきたい。
「LOVE」からはじまり、順不同ながら①②③それぞれから1曲ずつを2回にわたってバラつきが出るように並べ、「sins」収録曲のラインナップを満遍なく味わえる構成となっていた。
1曲目が「LOVE」である点については先に述べた通りだが、デビュー曲というまた異なる意味で大切な曲である「君のいない世界」は①②③の塊同士の間に配置され、構成の上で象徴的な配置となった。
であれば「LOVE」→「君のいない世界」→③曲、でスタートさせればよかったんでは?という思考が脳裏をよぎる方もいるだろう。しかし「いやそれは違うんだ」ということは明確に主張しておきたい。
まずこの構成を成立させる上で、第一章後半の「Pride」→「Never End」というアルバムのラストと同じ流れが必要なものであることは(あくまでこの仮説を前提とするならば)ご理解いただけることと思う。
次に必要不可欠な楽曲について確認しておく必要がある。
上記に説明した「LOVE」、デビュー曲「君のいない世界」、そしてグループのロゴのテーマにもなっている「暗赤の薔薇」である。
「暗赤の薔薇」はデビュー間もない頃にプロデューサーであるだいき氏のツイート上で、楽曲初披露よりも前にロゴについて述べたキーワードがそのまま楽曲タイトルになっているものだ。つまりシンダーエラ自体の裏テーマ、あるいは心臓、根底、などそのようなものであると捉えて差し支えないと思われる楽曲である。
事実、「sins」ではおそらくすべての楽曲に至る指針とも思われる最重要曲「YHWH」に続く曲として収録されている。
「sins」の楽曲を満遍なく配していく上で、まず③「Pride」→②「Never End」の〆の流れがあったものと思われる。
そしてオープニングを②「LOVE」とし、フルアルバムの世界を堪能してもらう目的であれば少なくともアルバムの半分以上の楽曲は固める必要がある。
ともすれば①②③の塊を2つ作り、間に印象的な楽曲を入れることで構成上のまとまりも良くなる。
ではその「印象的な楽曲」とは何か?やはりデビュー曲の「君のいない世界」が適任だろう。
加えて「君のいない世界」とデビュー当初からの重要曲である「暗赤の薔薇」を並べることもできたら、第一章の構成の内にグループの原点をも濃厚に内包できるのではないか。
とはいえ「sins」を満遍なく味わわせるための①②③をバラけさせる配置において、この2曲はいずれも①である。
この矛盾を解消するには【①②③(順不同)】⇒【ノーカン枠】⇒【①②③(順不同)】という構成にすればいいわけだ。全7曲、「Door」も含めれば全8曲で「sins」の2/3をここに表現できる。
では「LOVE」からの前半3曲に「暗赤の薔薇」を入れて前半寄りに「君のいない世界」との接続を作らなかったのはいかなる理由か?
その点については「Pride」「Never End」が単なるアルバムと同じ〆の流れのものではなく、それぞれもまた重要な楽曲であるという点、その濃度に注目することで答えが見い出せるだろう。
また構成においても「冒頭はバラエティ豊かに」「フロアが暖まったところで濃いラインの楽曲を投入する」という狙いが読み取れる。
もう少し細かく分析しよう。もうそろそろ文字にするとダルいことも多々あるので図解を多用しようと思う。
これは解剖図を一部書き換えたものである。
つまりはそういうことである。
「Pride」は「sins」収録曲の中で最後に発表された楽曲で、それまで尖りまくった楽曲を連発し、ともすれば人を選ぶ音楽性でもあったシンダーエラのレパートリーに加わった一際キャッチーな楽曲である。
図にもある通りアルバムのプロモーションにおいてこの楽曲は大々的にプッシュされ、シンダーエラの代表曲あるいは転機のひとつであると言っても過言ではないだろう。
「Never End」は1stワンマンや「sins」では最後に配される曲でありながら「終わりではない」と強くメッセージを発する楽曲である。さらに言えば、この楽曲で締めるブロックを最初に作ること自体が、終わりではないその先の世界、その道筋を暗喩しているとも考えられる。
また、前半「LOVE」に続く2曲についても選曲の理由を考察してみると、単なるバラエティ的な意味合いではなく必然であることが察せられる。消去法で考えるとわかりやすい。
まず①の4曲に属する「死返し」だが、「君のいない世界」「暗赤の薔薇」に別途重要な仕事が任されていること、加えて「NOT FRIEND」は第二章の重要曲としての役割を持ったことでこのブロックから外れたため、「君しかいない!」状態となった楽曲である。
①②③(順不同)×2を選曲コンセプトとするのであれば他に選択肢はないのだ。
ちなみに8月に開催された周年記念単独無銭ではオープニングが「死返し」→「LOVE」、つまりひっくり返したものが今回のオープニングということで思いっきり意表を突かれたりもしている。こんなの読めるか!という感じである。1本取られたというやつだ。
そして③からは「Envy」、③は他に「Cage」「YHWH」「Pride」とあるが、「Pride」は第一章を締める役割を「Never End」と共に担うべく出陣、「YHWH」はその重要性ゆえか第二部に抜擢、「Cage」は今回披露されなかったが、第二部に含まれる続編「Dew」と、これら2曲への関連性が振付や歌詞から示唆される「Flower of life」の一連にコンセプトを内包するものと考えられ、この2曲の流れに構成上組み込めなければ他に居場所無しと判断されてもおかしくはない。なのでやはり「Envy」もまた「君しかいない!」なのだ。
消去法的に選択された説を紹介したが、結果として緩急のついた曲順となり、冒頭3曲だけでも楽曲の幅広さを提示しうるものとなっていた。
【第二章「HIDE AND SEEK」】
楽曲には共通して「他者への不信」というテーマが根底に流れており、それによりグルーピングされたと思われる楽曲群である。
ブロック化については第一章「sins」に続くものであること、楽曲テーマが共通していること、この3曲の後に新SEも新曲群が披露されることを理由としている。
そしてコンセプトを「HIDE AND SEEK - EP」と断定している点については、同作収録4曲のうち2曲「ハイド・アンド・シーク」「ブルーバック バウンダリー」が連続して披露されており、また歌詞や振付に共通する点があり関連性が多分に示唆されていることを根拠としたものだ。
これらの楽曲の関連性を紐解くにあたり、まずは「ブルーバック バウンダリー」という楽曲について紹介する必要がある。
多くの方にとってはよく知られた話であるが、この曲は先輩グループじゅじゅのカバー曲だ。じゅじゅは前述の通り惜しまれつつ活動を終了しているため、シンダーエラが楽曲を受け継いだ形になる。
虚偽に溢れた世間や自身を暴き自嘲的に自戒するかのようなこの楽曲の歌詞には「かくれんぼ」というフレーズが登場するが、英訳すれば即ち「ハイド・アンド・シーク」だ。
「ハイド・アンド・シーク」では遊ぶように嘯きながら他者を拒絶する少女の心模様が描かれる。
実はこの楽曲、シンダーエラとしては初めて童唄のような和風のメロディーラインが用いられた楽曲となっている。初披露時には和風ロリータ衣装で歌われ、非常に楽曲とマッチしていた。
シンダーエラはそもそもがグリム童話をモチーフとし、かつ楽曲においてはキリスト教・聖書を元ネタにしたものが多数見られた。音楽性も含め欧州圏の世界観に徹していたのだが、この楽曲ではじめて取り入れられた和のテイスト。これはじゅじゅの楽曲にいくつも見られたものだ。
第二章のブロックに近い「NOT FRIEND」→「ブルーバック バウンダリー」という不信繋がりの繋ぎが単独無銭で披露された際、デビューライブからのレパートリーであった前者と当時の最新レパートリーである後者が繋げられたことに驚いたものだが、同時に曲の中に共通して流れるテーマに気付き、さらにキーワードを基に「ハイド・アンド・シーク」との3曲ぐるみの繋がりを仮説として温めていた。そんな中でまんまとまとまって披露されたのがこのブロックだったということだ。
「ハイド・アンド・シーク」は「ブルーバック バウンダリー」を補完する役割を持っているように感じられる。そしてそれまでにシンダーエラには無かった和メロの要素があることから、実はじゅじゅのアウトテイクだったのではないかと考えている。
じゅじゅのアウトテイクの中からシンダーエラの既存楽曲やまだ公開されていないテーマなどに通ずるものを見出し抜擢されたのが「ハイド・アンド・シーク」、そしてテーマとして連なる楽曲として、あるいはファンサービス的な意味も含め「ブルーバック バウンダリー」がカバーされたのではないだろうか。
いずれにしても最初期の楽曲である「NOT FRIEND」が新たな展開の糸口となったのは(これらの仮説が事実ならば)なかなかにアツい展開といえるだろう。
そしてこの3曲の並びはテーマの一貫性はもちろんのこと、グループや周辺の歴史を辿れば「過去と現在を繋ぐ」という裏テーマが見えてくるのではないだろうか。
そして過去と現在を繋ぐことで次に見えるものとは何か、そう「未来」だ。
ここに続くのは第二部、ワンマンのタイトルでもある「Another」をコンセプトに冠すると思われる後半戦。
過去を総括し(第一章)現在へと紐付け(第二部)、そこから未来を描いていくセットリスト構成……その細部も含めてお見事という他ない。
新曲群がリリースされる日が来たら、続く第二部についても分析と考察を実施したい。
今回のワンマンライブについては時間をかけてゆっくりと理解が深まっていくものだと感じている。
この先描かれる活動の未来と共に、2ndワンマンの全貌を捉えることができた時に何が見えるのか?それは既に発表されている3rdワンマンライブに答えがあるものなのか?
春を待つ楽しみの種は、まだまだ土の中で目覚めの時を待っている。
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