5 「Well」──前日譚としての存在、あるいは

ライブではやらないほうが珍しいレベルの超定番曲。
静動揺れ動く楽曲展開は主人公の葛藤やあるいは昂りとリンクしている。

一方、これまでの楽曲を踏まえると非常に違和感のある歌詞となっている。
シンダーエラには①“過去のある出来事”に起因した悔恨や鬱憤が描かれた楽曲が多いものの、この曲に関してはその“出来事”の存在が見受けられない。主人公にとっての“過去”を歌ったものではなく、②“現在”を歌った楽曲であると言える内容だ。これは「Greed」にも共通するポイントである。
また、「暗赤の薔薇」「Pride」など、自己の内面の問題と向き合い前に進もうとする、③“未来”への視点をもった楽曲もいくつかある。

シンダーエラ楽曲はすべて、上述の①②③のいずれか、あるいはその中間(橋渡し)に分類することができると考えている。
過去─現在─未来という一連を強調する書き方をしたが、実際のところ②については抱えている問題に光が見えず苦しむ“夜”、③については自分自身の問題に光が当たり、先に進む道標を得た“夜明け”、と表現するほうが的確であろう。

各楽曲について解釈によって分かれる部分もあるが、一例として下記のように分類することができる。


①Well、Greed、(Envy)
②君のいない世界、NOT FRIEND、死返し、NEVER END、LOVE
③YHWH、暗赤の薔薇、Cage、Pride


※「LOVE」は正確には②と③の間、2.5とも言うべき位置になるのかもしれない。歌詞の前半と後半の変化を転機と見ることができるため。
※「Envy」は「Cage」や「Pride」同様にライブ映像からの聞き取りでしか歌詞を知ることができないが、可能な限り聞き取った上で難解であるため仮としている。おそらく①の後期か②の範疇ではないかと思われる。
一応、「Greed」の歌詞中で自身の内なる“嫉妬”(=Envy)を否定する表現があり、逆説的に強い嫉妬心を持っていると考えられる点から、地続きの物語として描かれている可能性はある。

以前の考察で、シンダーエラが「シンダーエラ」である所以として、贖罪の姿をグリム版のエラ(=灰被り姫)になぞらえたものではないかという話をした。
「Well」については「君のいない世界」(1-2)でも触れているが、主人公が自らを灰被り姫と重ねる以前の物語であり、その発端となる過去編の序曲と捉えることができる。

とても青臭い恋愛感情の行方を描いている歌詞で、最後まで気持ちを言えずにいるのかと思いきや、2サビの途中で「思わず口にした」ところに人間味を感じられて面白い。
秘めていた想いは揺れ動き葛藤となり、不意を衝いて口から零れてしまったのだ。十分な心の準備も整わないままに想いを伝えてしまった赤面の表情を思うと顔がにやけてきてしまう。意図せず動き出す感情を持っているからこそ、人間という生き物はドラマティックかつロマンティックであるのだ。
歌詞を追っていると自分の中の小学生女子(主人公の友達)が「ほらほら言っちゃいなよ~~~」「言わなきゃ伝わらないってば!!」「言った!!言った~~~~!!!」とものすごく他人事な野次馬ムーヴをかましてくる。

終盤のこの展開から高揚感が増していき、希望が滲み出る大サビ、そして拳を突き上げながら歌われるラストで一番の盛り上がりを見せて締め括られる。爽快感のある1曲だ。


しかしながら忘れてはならない。他の楽曲が悔恨にまみれた鬱曲の数々であるということを我々は忘れてはならないのだ。
高揚した気持ちというものは前進するための原動力となる一方、それを抑え切れずに暴発し過ちを犯す原因ともなり得る。
前者のルートでハッピーエンドに向かえたなら良かったのだが、なんせああいう曲たちだ。そしてまさに後者の内容といえる楽曲が次回考察予定の「Greed」に当てはまる。
悪い形で物語が一筋に繋がっていくのが見えるようだ…


しかし、最後にもうひとつの見解を投げかけておきたい。
この楽曲が③自己の問題を認め前に進むことができた、その後を描いた楽曲だと仮定してみたらどうか。
「言いかけた言葉」「思わず口にした」想いの中身が違った色に感じられて表現されるようには思えないだろうか。例えばそれが「愛の告白」ではなく「謝罪」だったとしたら?
物語の原点として“ゼロ”の位置にあるとも、ハッピーエンドへ向かう“終曲”の位置にあるとも、どちらの意味でも捉えられるのではないだろうか。

そもそも「Well」というタイトル自体かなり曖昧で、それゆえに意味深である。
英和辞書を引けば多数の意味が掲載されているが、いずれも「良く」「上手く」といったプラスの意味を持たせるもので、「より良くなっていく」くらいの意味合いで名付けられているのではないかと思われる。やはり捉え方次第でどの位置にも置けそうではあるのだ。

さらに未だ世に出ていないこれから登場する新曲によって補完されていく可能性もあり、その内容やリスナー個々の解釈の在り方によって「Well」という楽曲の持つ意味合いは様々に形を変えていくと言えるだろう。

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