6 「Greed」──最初に描かれた罪

※配信リリース時は「GREED」だったが、初CD化にあたり表記変更が実施されたそう。

シンダーエラにいくつかある、七つの大罪の名を冠した楽曲のひとつ目。
そしてヘヴィーなサウンドが多いシンダーエラにおいてはかなり珍しい、明るく軽快な曲となっている。ライブでも盛り上がる1曲だ。(沸き現場に限ってやらないのはなぜですか)

歌詞は簡単に言うと、「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛してねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」という感じ。清竜人25ばりに全フレーズの後ろに♡がついていてもおかしくない愛の猛攻である。

多くの楽曲で描かれている悲劇に見舞われた鬱屈とした少女の姿はどこへ行ったのか……
少なくとも前回考察した「Well」にみられたような恥じらいはない。明け透けに愛を垂れ流しそして求めるその姿には恥じらいも遠慮もその一切が感じられず、仕舞いにはストーカーじみた領域にまで踏み込んでいる。

細かく刻まれた単音のギターリフ、それと同様に細切れに譜割りされたメロディーライン、倒置を絡めつつもわりかし支離滅裂な愛の言葉の数々、もっと言えばアレンジの妙味で上手く誤魔化されているが、間奏はマスロックじみた変拍子となっており、主人公の心の源泉を汚染する脳内麻薬を表現しているかのようである。

何回言葉にしたら
どれくらい返ってくるのだろう

https://linkco.re/H1qyS21G/songs/1236090/lyrics

最初のサビのフレーズだが、これは最後のサビにもそのままま使われている。

「言葉にしたぶんだけ返ってくる」という期待が込められたように思えるフレーズで、「あなたの隣にいるの私しか許さないから」露骨な独占欲の表明へと続く。

2サビでは「何回言葉にしても 少しも見てくれないの」とあるにもかかわらず、ラストサビでも上記フレーズを繰り返すことから、多少見てくれない程度ではまったく引かない、ある意味無敵状態となっていることがわかる。

しかしながら、変わらない主人公の熱量とは裏腹に、「君」の目線が「わたし」に向いていないことが随所から汲み取れ、曲が進むにつれ「君」が「わたし」から離れていっているのがお分かりになるだろうか。
そして「君の行動全部、把握してるよ」「来世も一緒だよ」と、離れれば離れるほど言葉も重くなっていく。さらに距離を空けてしまうことになるとも知らずに。

そうして付されたタイトルが「Greed」、すなわち「強欲」だ。目の色が違っている主人公の愛情表現そのものを「強欲」の罪として額縁に収めているのである。

ちなみに七つの大罪のそれぞれには対義語があり、「強欲」の場合は「慈善・寛容」であるという。確かにこの楽曲の主人公は慈善とも寛容とも、その真逆を行っていると言えるだろう。

次に、楽曲を物語のどこに位置付けるか、ということを考えてみる。
グリム版のストーリーと重なるところはおよそ見受けられない。強いて言えば継母の性格を強欲と言えるが、楽曲の趣旨からは外れるだろう。
やはり自らを灰被り姫と重ねる以前の話と見るのが自然。

現在発表されている楽曲で構成を見出すならば、やはり「Well」で想いが成就した後と見るべきだろう。舞い上がって想いだけがひたすらに募り暴走していると見れば上手くピースがハマるし、シンダーエラの主人公は基本的に悔い改めガールなので、現在進行形で罪を犯しているこの楽曲は悔い改めの対象となる過去として解釈できる点からも妥当と思われる。

また、シンダーエラ楽曲の歌詞にたびたび登場する「世界」がこの曲では「せかい」と表記されている点にも注目したい。既に壊れている「世界」の実態が見えていないことを暗示しているとは言えないだろうか。

さらに、その先の展開を占うフレーズも登場する。

心の奥燻ってる
嫉妬なんて私だけは

https://linkco.re/H1qyS21G/songs/1236090/lyrics

ここでは自らの嫉妬心を否定しているが、口に出して否定していることが逆説的に嫉妬心を抱えていることを暗に示しており、「強欲」ゆえに「嫉妬」を招き、さらなる罪を重ねていく未来の暗雲を仄かに描いているのである。

後に発表される楽曲「Envy」(=嫉妬、羨望)と「Greed」で描かれた内容は決して無関係とは言えないだろう。

「Well」で想いを結んだ「君」を「Greed」ゆえに失い、「君のいない世界」に生き、悔恨に苛まれながら自らの問題と向き合っていく──そんな物語が見えてくる。

純粋な気持ちで手に入れた愛情を自らの過ちで壊してしまい、後悔と反省を繰り返しながら、癒えない傷を密かに抱えたまま、それでも少しずつ前に進むように生きる──そんな経験、意外と誰しもがしているものではないだろうか。

「sins」(=罪)と題されたアルバムに収められる楽曲たちを紐解き、それらを星座を描くように一つに繋いで物語を紡ぎ上げたとき、そこに浮かび上がるのは、ドラマチックな人生を歩んだおとぎ話の主人公(プリンセス)などではなく、我々となんら変わらない1人の人間の生々しい人生模様なのかもしれない。


それはそれとして、ライブでこの曲を観ていると、主人公の感情に呼応するように脳内麻薬が沸き出し、跳ね回るリズミカルなサウンドが生む独特の高揚感に自然と体が動き出す。

そんな興奮の中でこの歌詞を語る歌声を聴いていて、こう思うことはないだろうか。


そういう意味でもライブ向けの曲かもしれない。



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