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Steven Wilson - The Future Bites (2021)

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総評 : 7/10

賛否両論の6thソロアルバム。彼のこれまでのイメージ(生楽器によるヘヴィで高度なアンサンブルと複雑な曲構成を有するサウンド、つまりプログレ)は排除され、中後期Talk Talk譲りの緻密な空間構成が光る"Man Of The People", "Count Of Unease"や、Prince譲りの硬く艶かしいファンクソング"Eminent Sleaze"などが象徴する、繊細なアートロックに変貌を遂げている。プログレファンが困惑するのも至極当然の内容となっている。

たがここで注意しておきたいのは、もともとプログレは彼のほんの一面に過ぎないという事実だ。別プロジェクトのNo-ManBlackfieldでエレクトロニクスを軸にした自由な音を長年演奏してきていることは今一度思い出されるべきだろう。つまり、彼のキャリアを通して見た時に、本作の方向性は何も特別なものではないのである。加えて、最近のインタビューで「ファンを置き去りにする準備は出来ている」とも語っている通り、"馴染みの古き良きプログレ"をSWに求め続けるファンは、本格的に切り捨てられ始めていると言えよう。

方向性の変化に説得力を持たせられるほどの魅力が曲自体に無いこと("Follower"の単調な8ビートで満足できるリスナーは少ないだろう)や、過去の作風に近い保守的な曲("12 Things I Forgot")が中途半端に残る詰めの甘さも有り、手放しで賞賛できる出来とは言えないかもしれない。しかし、これまでに作り上げた強固な音やファン層を捨ててまで自分のやりたい音を追求する姿勢、その本当の意味でプログレッシヴな姿勢こそ、彼の最大の推進力であり魅力であることが改めてよく分かる佳作。



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