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#アルバムレビュー

最近聴いているアルバム2024.05

今月はオルタナ気分。来月も多分オルタナ気分。 The Jesus Lizard 『Goat』(1991)Steve Albiniの音と聴いて自分が一番に思い出すのは『Surfer Rosa』でもなく『In Utero』でもなく、本作のスネアの鮮烈な響きだ。特に1曲目。何回聴いても脳天を衝かれる感覚がある。天井や壁にマイクを設置して部屋の中で反響する音も録ろうとした結果こういう音になったらしい。ギターも、ジャズギターやクラシックギターをやってきた人間によるものだけあって他のハ

最近聴いているアルバム2024.04

Biffy Clyro 『Blackened Sky』(2002)MineralやSunny Day Real Estateといったオリジナルエモからの影響と、Karate, Braid, The Dillinger Escape Plan, ひいてはJesus Lizardみたいな奇怪なコアバンドからの影響をごちゃ混ぜにしている。しかし何より良いのはアンセミックなメロディ。この界隈ではどのバンドも持ち得なかったビッグなメロディ、彼らの後の大躍進を容易に想像できるようなメロデ

最近聴いているアルバム2024.03

今月も学生時代に聴いていた懐かしいアルバムを再訪。もう完全に懐古オジサンになってしまった。温泉に入りたい。 The Pale Fountains 『...From Across The Kitchen Table』(1985)元から持っていた独特なポップセンスと歌唱力を、より明るく軽快な方向に推し進めた2ndアルバム。「中途半端に成長した結果かつての良さまで消える」というのはインディロックによくあるパターンだけど、これは違う。翳のある文学青年が翳を保ったまま、世間のしがらみ

最近聴いているアルバム2024.02

今月も学生時代によく聴いていたアルバムを再訪していた。思い出が蘇る懐かしいアルバムと、新鮮な驚きがあるアルバムの2タイプに分かれる。 The Pale Fountains 『Pacific Ocean』(1984)青春の音。トランペットが青空の下で切なく響く。モリッシーのアクがどうしても好きになれない私にとっては、「The Smiths的なバンド」の方がThe Smithsより好きだったりする。これはまさにそういうバンド。自分が社会の中でどのくらいの力を持っているのかとか、

最近聴いているアルバム2022.11

Deacon Blue 『Raintown』(1987)都市の生活者としての視点。洗練されきらない荒さ、初々しい希望、グラスゴー特有のソウル、粒揃いの曲たち。吐く息が白い早朝の旅立ち。Prefab Sproutと比較されることも多いけど、私は本作に関してはグラスゴーのThe Replacementsだとみなしている(特に『Let It Be』期)。とても真摯だしチャーミングだし、一定の層の人達にとってはたまらない作風。聴いていた時期が思い出に変わるタイプのアルバム。 Ch

最近聴いているアルバム2022.10

Steve Hiett 『Down On The Road By The Beach』(1983) AOR的なジャケットに騙されてはいけない。かなり趣味的でつかみどころのないアルバム。曲によってはブルースだし、サイケデリックだし、Frank Oceanっぽさもある。Pacific ColiseumやDaniel Agedに通ずるリゾートアンビエント感もある。いろいろな文脈で捉えられる面白いアルバム。サブスクに無いのでCDでどうぞ。 "In The Shade" The C

最近聴いているアルバム2022.09

日本に少し帰国し、実家で懐かしいCDを発掘。新譜をアホみたいに漁るバイタリティは無くなった。旧譜の安心感に浸る。 Curtis Mayfield 『There's No Place Like America Today』(1975) このアルバムを聴いている間だけは、視野狭窄の日常から離れ、自分の人生を俯瞰して見ることができる。私は人生とは思い出づくりだと軽く考えている。どれだけメンタルがキツくても、いつかは思い出に変わる。歳を取って人生を振り返った時、若い頃の苦労が懐か

最近聴いているアルバム2022.08

孤独と暗晦に満ちた作品群。しかし悲嘆に暮れているわけではない。頭の中にはイマジネーションとクリエイティヴィティと狂気が渦巻いている。 Codeine 『Frigid Stars LP』(1990) 言わずと知れたスロウコア黎明期の傑作。文字通り、スロウで、コア。シンバルの、スネアの、ギター1ストロークの一撃一撃がズッシリと脳を打つ。一方で弱々しい情けなさ=エモの要素も随所に感じられ、その方面の傑作として楽しむこともできる。演奏の要素自体は後進バンドにそのまま受け継がれてい

最近聴いているアルバム2022.07

Washed Out 『Within and Without』(2011) チルウェイヴというより、ドリームポップとしての傑作だと思っている。当時はBeach House『Bloom』やWild Nothing『Nocturne』などドリームポップの傑作が出ていてそれらと同列に聴いていたが、群を抜いて好き。なのにそれらより振り返られることが少ないのは、チルウェイヴという短命なムーヴメントの代表作みたいに思われてる弊害だと思う。 ベッドルームの閉じたメランコリーと時間感覚が

最近聴いているアルバム2022.06

The Cure 『Faith』 (1979) 自分にゴシックの美学を叩き込んでくれたアルバム。周りの人間が次々死んでいくが、自分にはなぜか死神はやってこない。ただただ死ぬまで生かされている。自分はどうすればいいのか?その苦悶が反映されている。私の中ではJoy Division『Closer』よりも高い位置に屹立する傑作。 Noah And The Whale 『The First Days Of Spring』 (2009) フロントマンの失恋(Laura Marli

最近聴いているアルバム2022.05

最近は仕事で脳がいっぱいいっぱいのため、未聴作品の発掘はせず、昔聴いてた作品ばっかり聴いている。こうやって懐古おじさんになっていくのかもしれない。 Arctic Monkeys 『Favourite Worst Nightmare』(2007) バンドサウンドの筋力増強と曲展開の可能性を探った作品。タイトでフックに溢れた前半5曲も良いが、"Do Me A Favor", "This House Is A Circus", "If You Were There, Bewar

最近聴いているアルバム2022.04

Self Defense Family 『Heaven Is Earth』 (2015) 見慣れた景色で視界がグワンと歪むような、違和感のある音楽。Pure X風のアリゾナ砂漠サイケな音に、なぜかハードコア風のボーカルが乗るのが違和感の原因だろう。エモの哀愁やスロウコアの行き場の無い絶望感も込められており、隠れた名作。 Death Of Lovers 『The Acrobat』(2018) Nothingのメンバーによる別ユニット。メンバーのルーツである80年代UKニュ

最近聴いているアルバム2022.02

James 『Laid』(1993) 生身の「あなた」への庶幾がアルバムのテーマ。それは特定の人物であると同時に、ロックという底知れぬ音楽への探究心の表れでもあると思う。Brian Enoと組む前から既に音響面のアプローチに意欲的なバンドであったが、ここでは彼の手助けを得て、極限まで微細な技術が散りばめられた丁寧な傑作に仕上がっている。90年代のUKロックがブリットポップではなく本作のような作風を中心としていたなら、どれだけ素晴らしい時代になっただろう。"Say Somet

2021年 ベストアルバム(旧譜) & がっかり新譜

昔から聴いてるけど今年特にたくさん聴いたアルバムを羅列。毎月書いている「最近聴いているアルバム」の年間アワードと言ってもよい。一年分の凝縮なので名盤ばかり。私の2021年はこれらによって彩られた。 普段は余計なことは書かないように努めているが、今回はたまには言いたいことを言ってもいいだろうと思ってそのまま投稿した。 The Cure 『Kiss Me Kiss Me Kiss Me』(1987)このバンドは陰陽を織り混ぜすぎた結果、明るい曲をやってもどうにも絶望が漂うよう