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【貴重】M.カンディンスキー、メトネルとラフマニノフを語る!

2021年11月20日(土)、西早稲田のトキョーコンサーツ・ラボにてミハイル・カンディンスキー(Mikhail Kandinsky)さんのピアノのリサイタルが開催されます!ロシアの作曲家メトネルにまつわる様々な話を伺いました。

コロナ禍は音楽業界にも大きな影響を与えました。そのような状況下で新しいコンサートシリーズ”モスクワの風”の3回目を11/20に迎えます。パンデミック以降、カンディンスキーさんの音楽へ向き合い方などに変化がありましたか?

万一これが最後でも、悔いがないようにと思って弾いています。
芸術は無くても生きられると軽視されやすい反面、人や心の存在のためにどれ程大切か、コロナで逆に良く分かったと思います。こんな時こそ、ますます色々な芸術文化が働きかけて人々を治し、心を癒し、美しい世界を維持することを望んでいます。

11/20のコンサートは2部構成で、第1回目はラフマニノフとメトネル。第2回目はメトネルとラフマニノフの前奏曲からリクエストを受けて選曲するとなっています。メトネルの音楽は日本ではまだなじみが薄いですが、カンディンスキーさんが感じるメトネルの魅力を教えてください。

メトネルの魅力は 絵画的なところです。絵の様に、音には色々なニュアンスがあり、楽譜にはドルチェ、カンタービレ、エスプレッシーヴォなどが同時に書いてあり、絵の様に複合的にまざり合って生きている音楽です。メトネルの音は大変多く、ラフマニノフのように内面に全てが生きています。

同時期のロシアの作曲家リャードフのような水彩画のイメージというよりは油彩で、ロシア系の有名な画家の絵でいうとクインジェや私の祖父の大叔父にあたるワシリー・カンディンスキーに近いイメージです。
絵画と音楽の近しさの事例として、あるとき私の親戚にあたるヴォルコフの展覧会のオープニングで私はラフマニノフとメトネルを弾きましたが、それはヴォルコフの芸風を考慮して選びました。彼はそれを聴いて驚き、「絵が響いていた」と喜んでくれ、私も嬉しく思いました。
メトネルの風景は広く、鐘の音も織り込まれ、ラフマニノフと似ていますが、メトネル独特の人間的なあたたかさがあります。複雑な今の時代に似合うと思います。私の演奏を聴いて頂ければと思います。

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ロシアでのメトネルの評価、演奏頻度、人気はどのようなものでしょうか?

ロシアでもラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーの陰になり、それほど有名ではありません。しかし、その深みは時間が経つほどますます湧き出るので、もっと親しまれてほしいです。

ラフマニノフは初めて7歳年下のメトネルの楽譜を見たとき、驚き「この素晴らしい曲を書いた人に会いたい!」と言いました。そして会うと、二人は親友となりました。メトネルの録音にはラフマニノフが出資しました。
当時のピアニスト、ゴフマンもメトネルやメトネルの先生であるタニエフを尊敬して弾きました。メトネルは歌曲も得意で、ゲーテの詩やプーシキンの詩などによる歌曲をシュワルツコップが歌い、メトネル自身が伴奏しています。

父方の祖父A.カンディンスキーは、モスクワ音楽院で50年間ロシア音楽を教えていて、卒業生の大半は祖父の授業を受けています。もちろん祖父はメトネルを評価して教えています。みんな知ってはいるのです。祖父のメトネルの楽譜にはメモが書き込んであります。いい考えが残る楽譜を私は受け継ぎ、日本に大切に持ってきました。今回やっと弾くチャンスが巡りました。

私の母はグネーシンの歌曲伴奏芸術の教授ですが、メトネルの歌曲について内容や魅力を伝え、講義で広めています。歌手もすっかりメトネルに魅了され、そのグネーシンとモスクワ音楽院の学生が歌いたい弾きたいと人気になりました。「ソナタ ヴォカリース」「組曲 ヴォカリース」など、私もぜひ弾きたいものです。2017―2018、母のグネーシン歌曲グループは「メトネルマラソン」で100曲以上のメトネルの歌曲を全曲演奏しました。グネーシンのピアノ教授トロップの弟子たちも弾いています。この様に増えて来ています。

今年(2021年)6月、私はロシアのカリニングラードに呼ばれ、スクリャービンとメトネルを弾いてきました。カリニングラードではワシリー・カンディンスキー展のオープニングのために、スクリャービンとメトネルを私に依頼しました。ロシアではスクリャービンとW.カンディンスキーの繋がりはすでに確立しています。さらにメトネルをプログラムに組まれて嬉しく、私は「ソナタ作品30」や「2つのおとぎ話」を弾き、聴衆も好きで成功しました。
 

カンディンスキーさんのメトネルに対する思い出のエピソードがあれば教えてください。

不思議なことなのですがグネーシンに入る前、10才頃に習ったトラウブ先生の家にメトネルの弾いたベヒシュタインのピアノが有りました(メトネル一番のピアノでは勿論ありませんが)。それを弾いていましたが、あの時私はまだその価値を分かっていませんでした。いま思うとすごいことです。

グネーシンの学校でメトネルを聴いた時は、良い曲と感じましたが、まだ特別なものではありませんでした。メトネルの自作自演を聴いたり、モスクワ音楽院のメトネルフェスティバルに出演することになり自分で曲を触っていくうちに、だんだん深い魅力にはまりました。そのフェスティバルでは立案者のベレゾフスキーのほか、ミルン、リツキーと私が出演したのですが、その時ミルン先生(メトネルプレイヤーと知られる)にあこがれて、私は卒業後ミルン先生の教える英国王立音楽院に留学しました。


カンディンスキーさんと言えば、ラフマニノフの名演が思い起こされます。シリーズ3回目にしてようやく聴けるのを楽しみにしています。ラフマニノフとメトネルともに祖国を離れつつも、それゆえに祖国への想いが強かったようです。この二人の人間的関係と音楽の相関はどのようなものとカンディンスキーさんはお感じでしょうか?

これは大変近いので既に言いましたが、つけ加えると、沢山の作品がとっても近く、全体の響きだけでなくモチーフやテーマの音まで近いです。ラフマニノフの「楽興の時」のホ短調とメトネルの「おとぎ話」のホ短調などです。またソナタ「ナイトウィンド」の楽譜に、祖父が書き遺したメモ「ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番のメインテーマと比較」を見て、本当にモチーフが同じで私もハッとしました。

ある時メトネルがあまり似たような旋律を作ってしまい、ラフマニノフに謝ると、ラフマニノフは全然いいですよ。音楽は作曲家が空からたぐりよせて作るから、と答えたそうです。とても良い友達で音楽関係ですね。
祖国への想いは、ラフマニノフ、メトネルに加え私自身もです。異文化の日本に居るからこそ、ロシアの心、自然、芸術、益々すごく大事に思います。


リクエスト企画はこのシリーズの売りの一つになっています。いつも予め楽曲リストが提示されますが、どの曲がリクエストされるだろうと事前に予想などされていらっしゃるものでしょうか?(笑)

予想はしていないけれど、どれも喜んで心から弾いています。全部ひきたい。


▼ミハイル・カンディンスキー ピアノサロン“モスクワの風” #3 【第1公演】
チケット:https://t.livepocket.jp/e/qh-hd

ラフマニノフ:楽興の時 第1,3,4番
ラフマニノフ:プレリュード 第9番-第13番
メトネル:『忘られた調べ』より 8曲

▼ミハイル・カンディンスキー ピアノサロン“モスクワの風” #3 【第2公演】
チケット:https://t.livepocket.jp/e/x0lct

メトネル:おとぎ噺 ❝魔法のヴァイオリン❞ Op.34-1
メトネル:ソナタ ❝夜の風❞ ホ短調Op.25-2
リクエスト曲
ラフマニノフ:プレリュード Op.32(全曲)第1番 - 第13番


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