吉村直美ピアノリサイタル #2 プログラムを公開!
2021年4月24日(土)、西早稲田のトーキョーコンサーツ・ラボで開催される吉村直美ピアノリサイタル "音楽と旅" #2 のプログラムノートを事前に公開の許可をいただきました。これを見るとコンサートがさらに楽しめるはずです!
リゲティ:ムジカ・リチェルカータ 第7番
ハンガリー系(ユダヤ系)オーストリア人の現代作曲家であったリゲティは、ドイツとも深い繋がりを持っていて、わたしの出身大学ともなるハンブルク国立音楽大学の教授も務め、ドイツ現地でも大きな影響を及ぼしました。 そのリゲティの人生を映し出すように、国籍やジャンルを超えるような命の鼓動を感じる低音部のモチーフは、最後まで一貫し、宇宙から響いてくようなメッセージの自由なメロディーは、癒しにさえ聴こえる不思議な作品です。
バルトーク:6つのルーマニア民族舞曲
かつては、オーストリア・ハンガリー帝国の領土であったルーマニア北西部トランシルヴァニア地方に伝わる旋律をもとに作られたピアノ曲。ハンガリー出身であるバルトークは、自ら蓄音器を背負い、民謡を記録するため周辺の村へ出かけ、歌を録音したほどに、独特な旋律に魅力を感じていました。 この作品には、バルトークの創作の元となった農民の暮らし、踊りのリズムが、人間の喜びそのものとして刻まれています。
ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番『幻想風に』「月光」作品27-2
ベートーヴェンが30歳のとき、弟子で、恋人でもあったイタリアの伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディに捧げるために作曲されました。ジュリエッタはシントラーの伝記で「不滅の恋人」であるとされ、「不滅の恋人」に宛てられたベートーヴェンの手紙は、情熱と葛藤に満ちており、最後は自身で下した決別とも見られるような告白となっていますが、死に至るほどの心情であったことが、この曲においてそのまま表現されています。 通常ソナタ第一楽章は、軽快なテンポ設定として作曲されますが、あえてゆっくりな演奏を指示しているところから、悲しみに衰弱しきったベートーヴェンの感情が、重々しい葬送行進を連想ような三連符 として始終続きます。 第二楽章は、形式上は緩和楽章であるところから、本来ならば心の休息となるような役割を果たすが、極端に短く作曲されており、ほとんど心が休まらないほどの危ない状態が伺えます。 第三楽章では、極度に速い16部音符の連続により、苦悩が悲劇的に表現され、何度も訴えかける和音が激しい叫びとなり、最後は両声部が同じように凄まじい下降を辿ることにより、破滅として締めくくられます。
音楽家として致命的とも言える難聴にも悩まされていた当時、日記の中では、自身に言い聞かせるようにして、次のように手記しています。 「忍従、お前の運命への心からの忍従、唯これのみがお前に犠牲を~奉仕活動を強いるのだ~お前自身の中、お前の芸術の中以外は、お前にはもはや幸福はないーおお、神よ、私に打ち勝つ力を与え給え、何物も自分をこの世に縛り付けてはならぬーかかる状態ではA(不滅の恋人)のことも全てが破滅だ」
ベートーヴェンのたった1曲を取り上げるだけでも、1人の人間の困難に立ち向かう精神を垣間見るに至り、その姿には心打たれます。そして音楽はもっと直接的に魂に訴えてきます。
ブラームス:3つの間奏曲 作品117
ブラームス自身が、「子守歌の3組」とも呼ぶほど愛着を持っていた晩年の作品で、「私の哀しみが入った揺りかご」と呼んでいたそうです。 純粋に我が子に向けられるはずの子守歌が、なぜ「哀しみ」を帯びているのか。。それは、ブラームスが作曲のもととした詩や、メロディーや和声やリズムの中に、答えの1部を見出すこともできます。 楽譜の冒頭には、この作品が作曲されるもととなったスコットランドの詩「アン・ボスウェル夫人の嘆き」が用いられています。 「ねむれ吾が子よ、安らかにねむれ お前が泣くと私の心が痛む」 ブラームスがこの詩にインスピレーションを受け作られた3組の曲は、ブラームスの晩年の想いをまとめたような、ストーリが奏でられます。 子供への愛情たっぷりな眼差しではじまる子守歌のメロディーから、別れを暗示させるような憂鬱な中間部、そして、天国へと旅立つようなハーモニーで閉じる1曲目は、この作品の終わりとはならず、第2曲目は、抑えられない哀しみとして続きます。ため息を意味する主要なメロディーに続く16分音符には、頬を伝う涙を表すモチーフが用いられ、中間部の愛らしい子守歌は束の間、最後は悲劇への叫びとして発展し、鎮魂歌のような終わりとなります。そして最後となる3曲目では、死を思わせる「4つの厳粛な歌 Op.121」によく似ており、子守歌というより、故人への厳粛な哀歌を思わせます。途中で、昔の夢を思い出させるような甘いパッセージは、イギリスの学者で著者のマルコム・マクドナルドによって「印象派的な微光を放つ黄昏の世界」と表現される形で登場しますが、最後は、その夢美を否定するような形で、厳粛に哀歌を閉じます。 実際に、ブラームスが誰に向けて作曲した子守歌なのかは、現在も様々な憶測がなされていますが、ブラームス自身はあえて聴く者の感性と想像力に任せたかったもかもしれません。
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
ブラームスが20歳の頃に影響を受けたハンガリーのヴァイオリニスト・レメーニと演奏旅行に行ったことで、当時はハンガリーの民族音楽だと思われていたジプシー音楽を教えてもらったことが、創作活動に大きな影響を及ぼしています。若きブラームの感性が迸る熱い民族色の濃いハンガリー舞曲。オリジナルは連弾曲として作られていますが、今回はソロで演奏します。
リスト:コンソレーション第3番 『コンソレーション』S.172
フランツ・リストのピアノ作品集。『慰め(Consolations)』と英語から訳されています。原題はフランス語でConsolations, Six Penseés poétiques(慰め、6つの詩的思考)。ザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ大公妃マリア・パヴロヴナ(ロシア皇帝アレクサンドル1世の妹)。に捧げられた曲で、リストの女性との交際を支援した人物といわれます。
リスト:バラード第2番
オーストリア系ハンガリー人の父と南ドイツ人の母の血を受け継ぐリストは、この曲をドイツ・ワイマールにいた時代に作曲しました。 ニューヨーク・タイムズのJ.ホロヴィッツとピアニスト・アラウによると、ギリシャ神話のヘーローとレアンドロスの物語に基づいて書かれた叙事詩とされています。 ギリシャ神話の中に出てくる女神アフロディーテの女神官ヘーロは、青年レアンドロスと恋に落ち、へレスポント海峡を泳いで渡ってくるレアンドロスのためにランプをともして毎夜レアンドロスを導いていた女性。 ところが、ある夜レアンドロスは嵐に巻き込まれ溺れ死んでしまいます。そして、悲しんだヘーローは後を追って身を投げて死んでしまうという神話。 一説として、冒頭に出てくる低音部の半音階は、2人を襲う海峡の波を表しており、ヘーローの元へ通い泳ぎ続ける往復が困難となり、溺れ死ぬ悲劇が襲いますが、最後は、地上では結ばれなかった2人が天国で再会するクライマックスで終盤を迎えます。 この世での悲劇や死、天国での再会を思わせる作品は、リストの名曲の1つともされていて、表現においてはコントラストが求められる魅力的な曲です。
▼日時
2021年4月24日(土)14時開演
トーキョーコンサーツ・ラボ(西早稲田)
▼プログラム
ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
バルトーク:ルーマニア民族舞曲 Sz.56
リスト:慰め S-172
リスト:バラード第2番 S-171
他
▼チケット
https://t.livepocket.jp/e/z2m9l
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