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インドネシアETSは前途多難?!

以前のnoteで、インドネシアETSについてご案内しましたが、メディアの報道のみしか情報がなく、詳細は分かっておりませんでした。

そんな中、ICAPが「New Generation of Emissions Trading Systems in Asia」
というタイムリーなウェビナーを開催してくれました。

ICAP(International Carbon Action Partnership)は、地域や国の間で排出取引制度(ETS)の設計と実施に関する知識と経験を共有するための国際的な協力イニシアチブ。ETSについては、ここを参照していれば間違い無いサイトです。毎年リリースされる「Status Report」にはいつもお世話になってます(^_^;)

さて、ウェビナーの冒頭で担当者が開口一番「NDC達成に必要な資金の30%しか手当てできません。なので、最大限クレジットを使います。」
特に「海外からの投資」を見込んでいるようでした。

カーボンプライシングとしては、炭素税/賦課金も計画されているようですが、こちらは経済成長への影響を懸念し、棚上げにされているそうです。

なので、クレジットに期待しているのでしょう。
パリ協定6.2項および6.4項のクレジット活用が明記されていますし。

なお、国内のクレジットは「additionality」を求めないとしています。
クレジットを大量生産したいからだそうですが、これって逆効果でしょう。
ウォッシュ批判風が吹き荒れている今日日、「高品質でないクレジット」の需要が、どれだけあるのでしょうか。

使用を認めるパリ協定のクレジットは、CA(Corresponding Adjustment:相当調整)付きを条件としていながら、国内で創生を奨励するクレジットは「additionality」は不要とするのは、理解に苦しみます。

さて、取引市場を見てみましょう。

先のnoteで紹介したように、今年9月26日に取引が始まっています。
取引されたのは、Verraの地熱発電のクレジットで、取引量は46万トン、価格は約3ドル/トンだったようです。

ボランタリークレジットのプライスレンジは、こんなもんです。
だいたい、1ドル未満から数ドルくらい。
森林吸収系ではビンテージにより、10ドルを超えることもあります。

そうです、J-クレジットの省エネクレジット:約1,600円/トン、再エネクレジット:約3,200円/トン、というのは、世界的に見ると「高い」んです。
海外ディーラーから「何でこんなに高いのか」と訊かれたこともあります。

ACXより

冒頭で、「海外からの投資を見込んでいる」とお伝えしましたが、「open for international market」にその意向が表れています。ただ、海外のボラクレを使うのは諸刃の刃で、国内の削減が進まない危険性を孕んでいます。

「Open for VCM and make sure that the use of  international standard will not jeopardize national interest」とあるので認識しているとは思いますが、ただでさえ難しいETSの舵取り、果たしてそんな都合よくいくものでしょうか。

対象セクターを見てみましょう。

当初は、系統に接続した「Coal-fired power plant」から。
2023年は100MW超、2024年からは25MWまで拡大するとしています。
2025年からは、CCS付き(Captive power plant)も加わるんですね。
キャップは、総量ではなく原単位(emission intensity)となっています。

第1フェーズ:2022年〜2024年
第2フェーズ:2025年〜2027年
第3フェーズ:2028年〜2030年

もう1点気になっているのは、オフセットに制限を設けていないこと。
ネットゼロの定義は、2050年までは最大限の削減を行い、どうしても残ってしまう排出量(Residual emissions)を中和すること。
で、中和する量は10%。

ゼロを目指すのではないにしても、カーボンオフセットの意義自体が、自身の削減がファースト。でなければ「排出してもカネを払えばいいんでしょ」とモラルハザードが起きてしまいます。

インドネシアETSを国際的なマーケットにしたいのであれば、EU-ETSなどと連結したいのであれば、是非とも再考を願いたいポイントです。

担当者が一番気にしていたのは、こちら。

日本のように電気料金を抑制するため、電力部門の石炭価格に補助金が入っているそうです。(上限は1トン当たり70ドル、2022年実績 :41億ドル)

キャップが導入されることにより発電コストが増加した場合、電気料金に転嫁されますが、すると補助金による補填が増加、結果として国の財政出増という形で跳ね返ってきてしまうわけです。

ETSはキャップ&トレードが基本。キャップ(排出可能量)を徐々に下げる(制限を厳しくする)ことにより、確実に総排出量を削減する施策です。

なので、キャップは厳しくするのが前提のスキームなのに、厳しくすると補助金額の増大につながってしまう。なので「国家予算に大きな負担をかけずに上限を設定する方法を見つける必要がある」と繰り返し主張する担当者。

今後、オイル・ガスセクターへ対象を拡げる計画のようですが、カーボンプライシングと補助金は真逆の施策ですから、国の税制をドラスティックに変えるくらいの覚悟で臨む必要がありそうです。

その意味で、EU-ETSの無償割当廃止と、CBAM導入をクロスフェードさせるEUが参考になるかもしれません。

とはいえ、ボランタリーな日本のGX-ETSと異なり「義務的」なETS。
批判するのは容易ですが、やれといわれて、やれるかどうか。

課題を抱えながらも走り出した、インドネシアETS。
しっかりと、ウォッチしていきたいと思います。

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園田隆克@GHG削減サポーター
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