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炭素国境調整措置の綱引き

これまでも、EUの炭素国境調整措置(CBAM:Carbon border Adjustment Mechanism)の話は何度かしてきました。

これについては、2方面で綱引きが発生しているようです。

1つめは:欧州議会環境委員会 VS 欧州議会

5月の欧州議会環境委員会では、CBAMの導入時期を26年から25年に前倒しする改正案を可決していたところ、導入とセットとなるEU-ETSの無償枠廃止の前倒し案が否決されたので、CBAM改正案も差戻となっていました。

6月22日の本会議に再度提出された案は、27年から32年までに段階的に廃止するもので、それに併せて、CBAM導入も26年から27年へと後ろ倒しになったわけです。まぁ、2つがシンクロしていないと、EUがCBAMで税収を得ることになりかねず、WTOのルール上まずいですし。

それよりも、そんなことをしていたら、CBAM設計の4つのピラーの1つを蔑ろにすることになりますから、やるはずはないでしょう。

日本企業としては、導入時期よりも、対象となるか否かが問題。

まず、CBAMは輸出国がEUと同等の排出規制をしていない場合に課税されるので、そのような仕組みが日本にあるか?と考えると、NO

Jクレジット及び超過削減枠を取引する「カーボン・クレジット市場実証事業」が今年9月から東証で開始されますが、参加はあくまでも任意。削減目標は自主的に設定しますし、達成できなくても罰則は無し。

他方、EU-ETSは「排出規制」であり、対象事業者は参加が義務。もちろんペナルティもあります。日本の制度が「同等」とはされないでしょう。
「実証事業」がどのように変遷していくのか、させていくのか。
過度な期待をせず、見守りたいです。

なお、対象業種は以下の5つ
・セメント
・鉄鋼
・アルミニウム
・肥料
・電力

これに、27年からは、業務部門と輸送部門が追加。
さらに、第2フェーズでは

・有機化学品
・プラスチック
・水素
・アンモニア
・間接排出

も対象とする旨発表しています。
ますます、目が離せません。

2つめは:欧州 VS 米国

米国の場合は、CCA(Clean Competition Act) という名称です。

はっきり言って、どちらも「調整措置」の導入は明言していますので、何らかの調整が必要という点においては、意見の相違はありません。
問題は、その、課税の方法でしょう。

簡単に説明すると(輸出国の排出規制ががEUに認められており、EUの無料排出枠は完全に廃止されたとして)、このようになります。

CBAM:排出量(トン数)×(@EUETS炭素価格-@輸出国炭素価格)
CCA:[@排出量(トン数)-@ベンチマーク(トン数)]×輸入量(トン)×一定額

ですのでCBAMでは、例えば、
①鉄鋼:100t 排出量:100tCO2e
輸出国炭素価格:€10/t EUETS炭素価格:€100/t
とすると、
CBAM Certificate:100t×(€100-€10)=€9,000

ですが、
②鉄鋼:100t 排出量:200tCO2e
輸出国炭素価格:€100/t EUETS炭素価格:€100/t
とすると、
CBAM Certificate:200t×(€100-€100)=€0

つまり、①よりも②の方が1tの鉄鋼を製造するのに、倍のCO2を排出するのに、タダになってしまう訳です。

他方、CCAだと、①は
ベンチマーク:0.5tCO2e/t(鉄鋼)
一定額:$100/tCO2e
とすると、炭素価格は
[100tCO2e/100t(鉄鋼)-0.5tCO2e/t(鉄鋼)]×100t(鉄鋼)×$100/tCO2e=$5,000

②は
[200tCO2e/100t(鉄鋼)-0.5tCO2e/t(鉄鋼)]×100t(鉄鋼)×$100/tCO2e=$15,000

ちゃんと、クリーンな鉄鋼の方が、課税額は低くなる計算です。
さらに、ベンチマークよりも低排出であれば、ゼロになる。
なので、課税単価やターゲットなど、多分に政策のさじ加減に拠るところが大きくなると思います。

CBAMの方も、この矛盾は分かっていると思うので、CCAもそうですが、これからの設計次第ということです。こちらについても、ウォッチング必須。

今後、CBAMの法案は欧州理事会の審議に移り、早ければ来年春にも導入時期が固まります。課税を回避するには、米国が想定するベンチマークをクリアしつつ、法的拘束力を有するCap-and-Tradeの取引市場を設立する必要があります。随時、情報はお届けしたいと思います。

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