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削減貢献量について考えて見る(1)

WBCSDが2023年3月22日、削減貢献量(Avoided Emissions) の算定・報告に関するガイダンスを発行したことを受けて、一斉に報道がなされていることは、皆さんもご案内の通りかと思います。

削減貢献量という概念は、LCA学会や経産省、産業界の産学官が連携して、普及に務めてきたという経緯があります。

検討の中心であるLCA学会の環境負荷削減貢献量評価手法研究会からは、2015年3月に初版、2022年3月に第2版の「温室効果ガス排出削減貢献量算定ガイドライン」が発行されています。

畑違いではありましたが、クレジットは隣の畑ですので、横目でよく見ておりました。というのも、当時は(というか今もですが)クレジットの創生支援と並行して、排出量の検証業務も行っていましたが、削減が増加に追い付かないという事業者がいらっしゃったのです。

2012年7月から、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(全量買取制度)が始まったことを受けて受注が増大、そのため、削減努力をしても、組織としてはせいぜい横ばいという状態でした。

今から10年も前に組織の排出量を算定しようという事業者は、そもそも、相当の「環境先進企業」です。なので、削減に寄与する商品やサービスの開発に邁進していて当然。だからこそのジレンマでした。

検証機関としてはコンサルはNGなのですが、「削減貢献量」というスキームが検討されているので、何がしらの形で活用できたらよいですね、などとお茶を濁したりしていました。

このような状態は、環境経営を掲げるグローバル企業にとっては喫緊の課題となっていたところ、TCFDなどの非財務情報開示ルールの整備が進んだこともあり、日本として率先して基準作りを推進、ここにきて、ようやく大御所、大本営のWBCSDからガイダンスが発行されたというところですね。

既に、独自にルールを定めて算定を行っている企業や業界もありますが、これから着手するのであれば、業界横断的に利用できる国際ルールであるWBCSDのガイダンスに準拠することが得策でしょう。

さて、前置きはこれくらいにして、中身を見る前に、「削減貢献量とは何ぞや」ということを、押さえておきましょう。

よく聞かれるのが「スコープ3の削減と同じでしょ?」というもの。

削減貢献量は、スコープ3カテゴリー11に現れるのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、算定における視点が異なります。

スコープ3排出量:自社視点
削減貢献量(Avoided Emissions):他者(社会)視点

確かに、カテゴリー11(販売した製品の使用)では、シナリオを設定し、それに基づいて算定を行います。

ここにおいて、一般に普及している製品を使用されていれば排出されていたであろう排出量(BAU:Businss as Usual)から差し引いたものが、「削減貢献量」ではないかと。

ですが、BAUは必ずも自社製品とは限りません。さらには、同じセクターではない可能性もあります。自家用車からの代替であれば、バイクや自転車かもしれませんし、公共交通機関かもしれませんよね。

このように、自社だけでなく、社会全体での排出量を削減しようという取組、その取組に貢献しようとする概念が、削減貢献(量)といえます。


ネットゼロとの相違についても、混同されることが多いと思います。
つまり、削減貢献量は削減クレジットのことなのでは?という疑問です。

ですが、これについては、バウンダリーが異なります。

削減貢献量(Avoided Emissions):バリューチェーン内
削減クレジット:バリューチェーン外

バリューチェーン内で発生した「削減量」はクレジットにはなりません。
バリューチェーン全体での排出量の削減、という形で現れます。

もし「削減クレジット」として販売すれば、オンセットしなければなりませんので、「バリューチェーン全体での排出量」は増えてしまいます。

他方、クレジットは、製品を購入した人に帰属する環境価値です。
事業者は、自社製品の客先使用による「削減貢献」だけでなく、クレジットの購入を通しても、世界全体における排出削減に寄与することができます。

BVCM(Beyond Value Chain Mitigation:バリューチェーン外の削減)という概念で、CDP、SBTi、UN推しです。

なお、クレジットには、排出量の削減だけでなく、除去・吸収量の増加も含まれるといった違いもあります。

Climate Avoided Emissions guidanceより

加えて、もう1つ、大きな相違点があります。

削減貢献量:仮想の削減量
削減クレジット:実際の削減量

「削減貢献量」は、出荷された製品が全て実際に使用されたと仮定して、BAUと比較して削減できた量を、期間を定めて、作成したシナリオに基づき算定します。

他方、削減クレジットは、高効率な設備で既存設備をリプレースする、あるいは、新規導入する際に、既存設備、もしくは、BAUと比較して削減できた量をクレジット化するもので、実際に実施されたプロジェクトベースです。

基本的に、クレジットが認証されるのは、実施後となります。

少し外れますが、LCA、CFPのような排出量の絶対値の算定と、削減貢献量のようなベースラインを想定しての仮想的な量を混同することは、絶対あってはなりません。環境及びサステナビリティの担当者としては、最低限押さえておくべき事項です。

ということで、「削減貢献量」の概念を掴んで頂いたかと思うので、次回は、ガイダンスの中身を見ていきましょう。

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