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排出権/クレジット価格の相場観

クレジットの認知度が高まるにつれ、「どんなクレジットがあるのか」「どこで買えるのか」「何に使えるのか」「いくらなのか」と聞かれることも増えました。

ということで、今回は「いくらなのか」についてご案内したいと思います。

なお、カーボンプライシングとしては、その他に炭素税ありますが、あちらは法律によって金額(率)が決められており、市場メカニズムで変動しないので、今回は扱いません。

さて、まず、法的拘束力を持つか否かによって異なります。
ご想像通り、法的拘束力を持つ方が、高い傾向があります。

世界銀行が、排出権取引市場(ETS)が導入されている国・地域において、取引されている排出権の価格を公開しています。
2023年3月31日現在ですと、このようになっています。

世界の排出権価格(THE WORLD BANK Carbon Pricing Dashboard)ドル表示

文字が小さくて恐縮ですが、ダントツなのがEU-ETSの排出権価格です。
(排出枠:EU Allowance なので通称EUAと標記されます)
US$95/tCO2eとなっていますね。
その他は、約半額のUS$50/tCO2e程度といったところ。

どうですか。想定範囲内でしょうか。

続いて、EU-ETSが始まった2005年からの価格推移を見てみましょう。
一時期、EUAがゼロになっていますよね。そう、無価値になったのです。
この時期はまだ無償で排出枠を割り当てていましたが、割当量が多すぎたのです。

世界の排出権価格推移(ICAP Allowance Price Explorer)ドル表示

ところが、その後一気にUS$40/tCO2eを超えてしまいました。

市場メカニズムを利用した措置なので当然なのですが、企業はたまらない。
なので、MSR(Market Stability Reserve:炭素市場での排出枠の余剰を削減し、ETSのレジリエンスを高めることを目的とするメカニズム)を導入することになりました。

2020年からの変動はさらに凄まじいように見えますが、長期チャートであることを考慮すると、それなりの変動と言えます。

直近4カ年のEUAのチャートがこちら。(ユーロ表示なのでご注意下さい)

直近4年のEU-ETS排出権価格推移(EMBER Carbon Price Tracker)ユーロ表示

ちなみに、英国(UK-ETS)のUKAのチャートはこちら。(ポンド表示です)

直近4年のUK-ETS排出権価格推移(EMBER Carbon Price Tracker)ポンド表示

1年の範囲においては、およそ±30%程度の変動といったところでしょうか。
株式市場でもこの程度の変動はありますので、許容範囲かと。
ただ、高値で安定しており、かつ、これから下がることは想定されないことは留意しておくべきでしょう。


他方、ボランタリーに取引されるクレジットについては、相対取引が基本となっているため、明確な価格がないのが難点です。なので、最近は、民間企業がETSを開設する動きが相次いでいます。

その中でも私が注目しているのが、Air Carbon Exchange(ACX)です。
トークン化されたクレジット(AirCarbon Token)をブロックチェーン上で管理する、完全オンラインのETSを運営する、シンガポールを拠点とする企業です。

現在は、シンガポールに加え、アブダビにも設立しています。

そこで取引されているクレジットの価格がこちら。

ACXでのクレジット価格

これまた文字が小さくて恐縮ですが、法的拘束力を持つ場合と比較して、圧倒的に低価格であることはお分かりになるかと思います。完全オンラインのため、コストが抑えられていることもありますが、それでもその差は圧倒的です。

なお、右側は、森林吸収のような自然系のクレジットです。
クレジット創出にコストがかかるため、単価が高くなっています。

ここで思い出してください。

日本のボランタリークレジットの代表例である、J-クレジット。
再エネクレジットは¥3,200/tCO2、省エネクレジットは¥1,600/tCO2程度です。

第29回運営委員会資料より

森林系クレジットの¥10,000/tCO2と比較して「安い」と言われることもありますが、ボランタリークレジットとしては世界的に見ても「安くない」のです。

さらに、何度もご案内している、ブルーカーボンはさらに高値。

何故このような差が生じるかというと、海外では、大量のクレジットが必要とされるからです。ですので、大量のクレジットを調達するためには、単価は抑えなければならない。売る側も、同じ論理です。

他方、日本のグリーン(森林系クレジット)やブルーには、誰がどのようなプレジェクトによって生み出したか、どのようなコベネフィットがあるか、といったストーリーがあります。

買う側は、そのストーリーに共感して購入するから、高値でも売れるのです。

逆に、そのようなストーリーが無い、誰が作ったか分からない、コベネフィットがあるかどうかも分からないクレジットは、安値にならざるを得ません。

私としては、このような、ストーリーのあるクレジットの創出及び販売を支援していくことを座右の銘として、これまで活動してきましたし、これからも活動していきたいと考えています。

繰り返しにはなりますが、このようなクレジット創出にチャレンジしてみたいという事業者の方がいらっしゃいましたら、是非お知らせ下さい。

現在は、ご案内のように、ブルー推進まっただ中です。
一緒に、日本を元気にしていきましょう。


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