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ETS界隈の動きをキャッチアップ

23年が早くも半年が過ぎ、日本も間もなく夏に突入しますね。
恐らく、今年もまた「前例のない」猛暑となることでしょう。
皮肉にもこの現状が、「温暖化懐疑論」を下火にしている一因になっていることは否めないのかなと思っています。

また、ありがたいこと(?)に、カーボンプライシングも、同様の理由で現実味を帯びてきていることも事実。5月に採択されたGX推進法において明記され、「初めて知った」という方もいらっしゃるかもしれませんが、世界は一歩以上進んでいるんです。

カーボンプライシングには以下の3種類がありますが、法的拘束力を持つ形で導入されるのは、「炭素税」と「排出量取引」です。(後者は「排出権」取引とすべきですが、政府が「排出量」と称呼するので合わせます)

「排出量取引制度(GX-ETS)」は世界の潮流に反して、あくまでも「自主的」な位置づけであり、排出上限(Cap)の段階な縮小により総排出量の削減を達成するという当該制度の目的が十分担保されるか不安ではありますが、ようやくロードマップを示して歩み始めたことは評価したいですね。

他方、「一歩以上進んでいる」世界のETSはどうなっているのでしょうか。
簡単に紹介したいと思います。

まずは、英国から。

UK-ETSは、ブレグジットの移行期間終了に伴い、EU-ETSから離脱せざるを得なくなり、2021年1月から導入されたものです。

これが、EUの先を行くとばかりに、改革を進めるようです。
主な内容はこちら。

◆◇◆

1.排出枠上限引き下げ:
13億6,500万トン→9億3,600万トン。
ただし、2024〜2027年を移行期間とし、この間、未割り当て分の排出権5,350万UKAをオークション。

2.全体の排出枠に占める無償排出枠上限引き上げ:37%→40%
カーボンリーケージのリスクが高い産業セクターに引き続き排出枠を無償で提供できるようにする。また、将来の無償割り当て配分の手法は2023年末までに協議。

3.対象セクター追加:
・国内海運(26年から)5,000トン以上の大型船舶が対象
・廃棄物燃焼/発電(28年から)

◆◇◆

なお、26年以降、航空セクターの無償割当枠を段階的に廃止すると共に、DACなどのGHG除去(GGR)技術による削減量を取引する方針も提示しています。早期投資を促進し、GGR技術開発の加速を支援するよとしてます。

現在、UK-ETSはCBAMの対象となっていますが、どうなるでしょうか。


そのEU-ETSも、負けてはいません。

EUはEU-ETSの画期的な改革を含む「55年への適合」政策パッケージを実施するための広範な法律一式を正式に採択。5つの立法案の最終文書が4月18日に欧州議会で、そして2023年4月25日に欧州理事会で採択されたところです。

主な内容はこちら。

・2030年までにEU-ETSの62%という野心的な目標
・CBAMの段階的導入に伴う一部セクターでの無償割当の段階的廃止
・市場安定準備金(MSR)の変更
・EU-ETSの海運への拡大
・建物、道路輸送、および追加セクターを対象とするEU-ETS2創設
・社会的影響への対応と技術革新の促進にETS収入を充当


続いては、EU-ETSに参加している、オーストリアの動き。

EU 加盟国であるオーストリアは、EU-ETSの設立以来のメンバーで、電力部門や産業部門、国内航空部門は既に規制対象としていますが、22年10月、さらにEU-ETS対象外の化石燃料を対象とする独自の国内排出量取引制度(NEHG2022)を開始しました。

NEHG2022は、2022年から2025年の間、毎年上昇する固定価格とフレキシブルな上限で運用され、2040年までに気候変動に左右されない国家を達成するという野心的な目標の達成を目指すことになります。

自国のETSを整備したということで、ICAPに34番目のメンバーとして参加しました。(ちなみに、東京都は正式メンバーですが、日本国としてはオブザーバー参加に留まります)

UK-ETS、EU-ETS、NEHG2022というEU内外のETSに加え、CBAMと、全体を俯瞰しながらのウォッチングが必要ですね。


さて、規模ではEU-ETSを凌駕してしまったCN-ETS。

ですが、全国大のETSが開始しても、7つのRegional ETSは今でも並行して運営されており、そのうちの3つ、重慶・深圳・上海が政策を更新しています。

重慶ETSは、23年2月24日に「重慶市排出量取引管理規則」を発表。

新しい管理規則には、以下のような内容が盛りこまれています。

1.重慶市発展改革委員会から重慶市環境生態局への管理権限の移行を明確化
2.重慶ETSからCN-ETSへの長期的移行計画
3.市場安定化メカニズム、排出権オークション、オフセットのための重慶現地クレジットメカニズムの確立義務付け
4.市場参加者、第三者検証機関、対象事業体の監視等、市場監視手段の改善。

公式サイトより

この法律に続き、2022年8月に公開協議が行われた引当金管理、登録簿管理、検証機関の管理に関する追加規則が近く承認される見込みだそうです。

深圳ETSでは、当局が対象リストを更新、対象企業は684社になっています。

22年の対象企業から63社を除外。1社は深圳から移転したが、他の62社は3年連続で排出量が参加基準(3,000tCO2e)を下回ったため、除外されたとのこと。

上海ETSは、ヴィンテージ(クレジットを創生するプロジェクトが実施された期間)の遡及や割当計画の発表があった模様。

まずは、排出上限が、2021年の1億900万トンから2022年には1億トンに引き下げられます。順守義務を負う対象事業者の数が323から357に増えたにもかかわらず引き下げとは、中々やりますな、という感じでしょうか。

加えて、計画変更には、下記3つの重要な内容が含まれています。

1.データセンターセクターの追加
電力消費による間接排出が規制され、ベンチマークである0.588トン/MWhに電力消費量を乗じた量に基づく無償割当を受ける。その遵守義務には、対象施設からの排出と、空調、照明、バックアップ電源プロバイダーなどの支援施設からの排出の両方が含まれる。上海は、北京に次いでデータセンターを対象とする2番目の地域ETSとなる。

2.道路運輸セクター対象会社追加(20事業者)
現在のところ、MRVが義務化されているのみ。いつ無償割当を受け、遵守義務を負うことになるかは不明で。上海は、道路輸送セクターの物流サービス・プロバイダーを対象とする中国初のETS。北京と深圳はすでに道路交通を対象としているが、公共交通事業者のみ。

3.上海市は、個人の低炭素活動を奨励することを目的とした新しい地域クレジット制度(SHCER)を導入。上海でのオフセット利用は、CCERとSHCERのクレジットの合計で、遵守義務の5%に制限。

公式サイトより

これからますます排出量が増えていく、あるいは重要になってくる、データセンター・物流・個人、というセクターにETSの網をかけ始めたという点で、特筆すべきでしょう。

全国レベル及び地域レベル両面におけるETSの深化で排出削減を強力に推進していく中国、謙虚に学んでいくべきでは無いでしょうか。


ということで、23年に入ってからのETS界隈の動きを見てきましたが、いかがだったでしょうか。

「界隈」といいながら、ほとんど欧州ですみません。
その他のETSも別の機会にお届けしたいと思います。

日本だけ見ていると全く見えてこない世界について、これからも、タイムリーに報告していきますので、ご期待下さいませ。

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