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EU-ETSのこれまでとこれから(2)

ETSの草分け的存在、EU-ETSについて振り返りをしております。
前回は「これまで」をお届けしました。

今回は「これから」とその先を考えてみたいと思います。

開始からの20年間で、対象範囲は段階的に広げられてきました。当初は電力とエネルギー産業が主な対象でしたが、2012年からは域内航空、2021年の第4フェーズからはアルミ、セメント、化学品などの産業に範囲が及ぶようになり、現在の制度のカバー率は、EU全体の排出量の約40%に達しています。
 
今後、更なる対象拡大と制度の大幅な見直しが控えています。まず、2024年から海上輸送部門への制度適用が段階的に開始されます。これまで適用が見送られてきた同部門が組み込まれることで、さらなる削減が期待されます。
 
2025年からは、道路輸送や建物の暖房、従来のEU-ETSで対象外とされていた産業部門の燃料消費をカバーするETS2の導入が始まります。EU域内の残り60%近くの排出量が管理下に置かれることとなり、「Fit for 55」の達成を確実にするという、EUの強い意志の表れでしょう。

なお、「ETS2」という切り離した制度にしたのは、主に次の理由からです。
これらのセクターに特化した制度を設けることで、より効果的に排出削減を促進することができると考えているのですね。もちろん、段階的な導入も図れますし。

・対象範囲が広く、影響を受ける主体も多岐にわたる
・対象セクターは、従来の産業部門とは異なる排出特性を持つ

また、排出枠(EUA)の過剰供給による価格下落を経験し、2019年から市場安定化リザーブ(MSR)という新たな仕組みも導入されています。MSRでは一定量の排出枠を調整ベンチマークに基づき市場から回収・供給することで、価格の変動を抑える役割を果たします。
 
さらに、各フェーズを通じて、無償割り当ての規模と基準の見直しも進められてきました。前回ご案内したように、発足時は無償割り当てが中心でしたが、次第にオークションによる有償割り当てへとシフトしています。

こうした政策を通じて企業に対する経済的インセンティブを維持しつつ、排出削減の促進も狙っているわけです。

一方、EU単独の制度では域外の企業に対する公平性が損なわれるとの懸念から、2026年からCBAM導入が決まっています。

CBAMとは、輸入品に含まれるCO2排出の割合に応じて課税する制度です。ただし、規定では「原産国で実効的に支払った炭素価格分」を差し引くことが認められています。

つまり、日本が導入を検討中の「炭素賦課金」のように、実際の排出量に応じた価格を賦課する制度であれば、輸出国で支払った分は輸入時の課税額から控除できる可能性があるのです。
 
加えて、「EU-ETSと同等の排出削減措置」を有する法域については、適用を除外する規定もあります。例えばスイスの排出量取引制度は同等と認定され、CBAM対象外です。

しかし、現在日本で試行されているGX-ETSは、制度自体がボランタリーベースであり、カバー範囲もEU-ETSと異なることから「同等」と評価されず、適用除外とならないのではと危惧しています。

EU-ETSの割り当ては、排出量全体が対象であるのに対し、GX-ETSで負担しなければならない「賦課金」は、NDCレベルを超過した分であり、「実際の排出量に応じた」価格ではないので、論じるまでも無いかもしれませんが。

このように、対EU輸出品については、CBAM賦課金が課される恐れがあることから、政府としても産業界と連携し、適用除外を主張する動きも想定されますが、現状ではEU側の理解を得るのは簡単ではないと思います。


気候変動対策は世界的な課題であり、EU主導の規制に適切に対応することは、日本の産業界にとっての喫緊の課題となりました。排出量取引をめぐる国内制度の抜本的な見直しや、対EU輸出における炭素価格の上乗せなど、企業は新たなコストリスクに備える必要に迫られているのが実情。
 
加えて、「炭素国境調整」は、EUだけではなく、米国などでもキャッチアップする動きがあります。世界の主要排出国が域外からの「安い」炭素価格付け製品の流入を規制する流れが広がれば、日本企業への影響は一層深刻なものとなるでしょう。
 
このように、世界の脱炭素化の潮流は、今や誰もが避けて通れない大きな流れとなっています。今回ご案内したEU-ETS及びCBAM導入による日本企業への余波は、その一つに過ぎません。
 
しかし、この地殻変動に日本が適切に対応できなければ、産業の空洞化など深刻な事態を招きかねません。政府は、WTO整合性など国際ルールを考慮しつつ、世界の排出量削減施策と同等以上で、かつ実効性の高い国内制度を構築する必要があります。
 
企業においても、自らの事業を脱炭素化に留まらず、持続可能な事業へと移行させていくことが何よりも肝要。

気候変動・生物多様性・人権・人的資本など、対処すべき課題は多いものの、「サスティナブルな企業」ひいては、「サスティナブルな社会」の実現に向けて愚直に邁進していきたいですね。

とはいえ「何から始めたら」という企業の皆様も多いことは承知してます。
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