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オフセットから始めよう 〜その歴史を紐解いて

「カーボン・オフセット」
もう皆さんには馴染みがある言葉でしょう。

ですが、2008年から2012年まで、環境省及び経産省がカーボン・オフセット試行事業を行っていた際は、「知っている人は知っている」「知らない人は全く知らない」という、「環境あるある」という状態でした。

この試行事業は、2008年11月に、環境省が「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方(指針)」を策定してカーボン・オフセットの普及促進を開始、この指針に基づき、環境省と経産省が共同で、カーボン・オフセットの制度設計や普及啓発に関する試行事業を実施したものでした。

カーボン・オフセットに用いる温室効果ガスの排出削減量・吸収量を供給する仕組みとして、環境省によって同時期に創設されたのが「J-VER」です。

時を同じくして経産省も「国内クレジット」も創設しましたが、こちらは、カーボン・オフセットよりも、中小企業のGHG排出削減を目的としていました。

当時でも、大企業は「乾いた雑巾」と言われるまで省エネを進めていた一方、中小企業は対策が進んでおらず、京都議定書目標達成計画(目達計画)推進に当たっての懸案事項となっていたのです。

そこで、中小企業が、より排出係数の小さな燃料に転換したり、高効率の機器へリプレースしたりして実現する「削減量」を、大企業が購入することによって、資金が還流する仕組みを構築した、というのが「国内クレジット」なのでした。

何故大企業が削減量(クレジット)を買う必要があったか?

経団連は1997年から、「経団連環境自主行動計画」というものを策定しており、計画に基づいた削減量を参加している業界団体へ割り振っていました。業界団体は、さらに参加企業へ削減量を割り振るという、ピラミッド構造。

この仕組みを利用、経団連に対して「自分で作った計画を守れ」とやったのです。
自主的な計画ながら、お上から「やれ」といわれたら、やるしかない。こんな訳で、企業も、自分たちで決めた削減量を遵守しなければならなくなりした。

なので、守れそうにない企業は、クレジットを購入しなければならない、買う必要が発生したということになります。

が、実際は守れない企業はそうそう無く、自社ブランティングや自社製品を買ってもらうための営業費用と割り切って、購入していたというのが実情でした。(弊社製品を購入頂くと、クレジットが作れますので、販売収益が得られますよ。計画作成もお手伝いします)

ですので、創設当初は、売り手である「中小企業」と買い手である「大企業」が一緒に計画を立てて、登録申請を行うという「バイラテラル」な設計でした。

計画書作成や登録申請、プロジェクト実施後の実績確認という一連のコストは、条件付きながら、ほとんど補助金で賄われるということもあり、手を挙げる中小企業は多かった一方、買いたい大企業は少ない状態が、常態化。

仕方なく、中小企業が単独で作成して登録申請ができるような、「ユニラテラル」な制度へと変更され、今に至っています。

J-VERは当初からユニラテラルですが、両者とも、供給過多の状態に陥り、在庫が積み上がり、寄付をするプロジェクト実施者も現れるほどになりました。

J-VERについては、作り手は自治体が多かったところ、税金が投入されていますので、安値で売ることは許されず、塩漬け状態。売れなければ次回の創出費用が捻出できないので、1回作って終わり、という自治体が続出しました。

ですので、そんな自治体に対して、クレジットの利活用のコンサルティングを行っていたのが、私だったりします。

なお、J-VERと国内クレジットは、京都議定書第壱約束期間に紐付いたスキーム。
日本は第2約束期間に参加しなかったので議論がありましたが、パリ協定に基づいた削減はプレッジしましたので、「J-クレジット」という一つ屋根の下に収まることになり、現在に至る、です。

閑話休題、このように、クレジットを購入することにより、購入分を自身の排出量から控除することが、カーボン・オフセットでした。

排出量の算定に携わっている人なら「ダブルカウンティング」という言葉はご存知かと思います。一方で「オフセット(控除)」されるとしたら、他方で加算しなければ、「ダブルカウンティング」となることはご理解頂けますよね。

本来であれば、クレジット販売側は、自身の排出量に販売分を加算「オンセット」しなければなりません。が、SHK制度に基づいた温対法の報告が義務化されている大企業と異なり、中小企業などは義務がありませんでした。

京都議定書第一約束期間では、先進国(附属書Ⅰ国)しか削減目標を持っていませんでした。なので、CDMにおいて創出されたCERというクレジットでは、「オンセット」しようがしまいが、作り手側に削減義務が課せられていなかったので、問題になりませんでした。

ところが、第二約束期間のパリ協定では、自主的ではあるもののNDCという目標を持っています。ですので、「オンセット」してしまえば、NDC達成に向けてマイナスになるから大変です。とはいえ、その収益は欲しい。贅沢といえば贅沢。

パリ協定第6条4項に基づいたコンプライアンス市場の話ではあるものの、6条2項による半分コンプライアンス、半分ボランタリーのような性格の市場でも課題となっています。さらに、完全なボランタリー市場でも、「オンセット」されたクレジットが「高品質なクレジット」とみなされるようにもなってきています。

カーボン・クレジットの世界では、この「オンセット」を「相当調整(Corresponding adjustment:CA」と呼んでいます。

この、悩ましい問題について、回を改めてご案内したいと思います。
乞うご期待!


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