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24年度から非化石証書は全量トラッキング

先般、クレジットと証書の違いについてご案内しました。
算定の初学者はもちろん、中級者にとっても勘違いしやすい内容ですので、3回に亘って説明したところです。

それでは、証書そのものについてはいかがでしょうか?

シリーズの中でも説明しておりますが、再生可能エネルギーから発電された電力は、「kWh」という目に見える(いえ、電気そのものは見えませんが)価値と、「GHGを排出していない」という目に見えない価値からなっており、後者を切り離したものでした。

第84回制度検討作業部会 非化石価値取引について より

日本で入手できる「証書」には、主に「グリーン電力/熱証書」と「FIT/非FIT非化石書書」がありますが、今回は後者についてのお話です。

この証書を取り引きできる市場が、日本卸電力取引所(JEPX)に設けられた「非化石価値取引市場」です。

この市場は、次のような変遷を経て誕生した経緯があります。

「再生可能エネルギーの利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法・高度化法」という再エネ電力の供給を促進する法律があり、電力会社が再生可能エネルギー由来の電力を一定の割合で購入することを義務づけていますが、これが改正されたことが発端です。

「自己電源を持たない小売電気事業者は達成困難」との見地から、「再エネ電力を供給したと見なされる手段」=「証書」を調達できる市場が必要というものでした。

皆さんもご承知の通り、「証書」は高度化法の義務達成のみならず、小売電気事業者にとっては、「調整後排出係数」の算定にも使用できます。自社が、水力やメガソーラーなどを有していなくても「再エネ100%メニュー」などを提供できることになります。

つまり、証書の利用範囲が拡大したこと、及び、再エネ電力の需要が高まったことから、証書の需要も高まったところ、需要家が直接証書を購入して、自社の電力の使用による排出量を控除したいという需要も高まりました。

第84回制度検討作業部会 非化石価値取引について より

しかしながら、この段階では、購入できるのは小売電気事業者に限られていたことから、非化石価値取引市場を、小売電気事業者のみが参加できる「高度化法義務達成市場」と需要家及び仲介事業者も参加できる「再エネ価値取引市場」に分割しました。

第84回制度検討作業部会 非化石価値取引について より

ですが、需要家が証書を購入する主な理由は、温対法における報告もありますが、CDPで報告したり、RE100のようなイニシアチブに参加するためでもありました。そのためには、どのような電源によるものかということを証明する「トラッキング」が必要です。

そこで、「再エネ価値取引市場」では初回から、全量トラッキングとなっています。「高度化法義務達成市場」はどうかというと、順次行われているものの、市場取引分では、わずか7%に留まっているそうです。(第84回制度検討作業部会報告より)

FIT非化石証書のように全量がデフォルトで無く、事前に発電事業者が希望しない限り付与されず、義務達成に不要なことから当然ではありますが。

非化石証書のトラッキングに関する事業者向け説明資料(需要家対象) V1.1 より

しかしながら、高度化法達成のために調達したものであっても、最終的には需要家へ供給される電力に利用されます。その需要家は、トラッキング付を希望しています。「再エネ価値取引市場」の買い札を裁けなくなると、「高度化法義務達成市場」での需要が高まるでしょう。

FIT電力は税金で国が買い取っていることから、トラッキングに必要な情報の開示を要請するのは容易です。他方、非FITは事業者が任意で行っており、強制はできないことから、トラッキングを進めることが難しかったという面があります。

どんな事業者が、どこに、どのような規模の発電所を有しているかなどは、営業の秘密や企業戦略に関わる場合もありますからね。

第86回制度検討作業部会 非化石価値取引について より
第86回制度検討作業部会 非化石価値取引について より

とはいえ、アンケート結果から、非FIT非化石証書でも、小売電気事業者のニーズは存在し、発電事業者は付与に当たってさほど問題視していないことが確認されたことを受けて、2024年度から、FIT/非FIT関係なく、全量トラッキングと相成った訳です。

240304 非化石価値取引の改定(JEPX)より

入札の申請をする際の属性情報の割当方法には、「通常割当申請」と「設備特定申請」の2種類がありますが、「通常割当申請」にて「発電種別」と「運転開始後15年未満」の指定ができますので、RE100の利用であっても、こちらでOK。

非化石証書のトラッキングに関する事業者向け説明資料(需要家対象) V1.1 より

JEPXも先読みして、しっかり説明資料に明記しています。

240304 非化石価値取引の改定(JEPX)より

また、今回の全量トラッキング開始に伴い、費用負担方法も見直されていますので、ご注意下さい。

240304 非化石価値取引の改定(JEPX)より

ちなみに、証書は過去に発電された電力について発行されますので、当然ながら「期ずれ」が発生します。

2024年度から全量トラッキングですが、2023年度内に発電された電力については対象外です。具体的には、2024年4月〜6月に発電された電力の証書がかけられるオークションは、2024年11月に開催されます。

温対法に使用したい場合も注意が必要。対象となる年度をしっかり確認した上で、調達したいですね。

非化石証書のトラッキングに関する事業者向け説明資料(需要家対象) V1.1 より

ということで、関係がある方は殆どいらっしゃらないかなぁと思いつつ、そんなことも、深く突っ込んで説明するのがこのnote。

ご参考になれば幸いです。
疑問・質問お待ちしています。







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