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取引先に提供する排出量は?(その2)

前回は、取引先に提供する排出量「はじめの一歩」として、「事業者レベル」会社全体の排出量を算定し、按分により「製品単位」での排出量を求めましょう、と言うお話をしました。

次なるステップは「製品レベル」での排出量です。

実は、GHGプロコトルのプロダクト基準は、「製品レベル」のデータを下流へ提供することを求めています。

The boundary of the product GHG inventory shall include all attributable processes.

An inventory consists of service, material, and energy flows that become the product, make the product, and carry the product through its life cycle. These are defined as attributable processes.

Product Life Cycle Accounting Reporting Standard

「attributable process」を算定のバウンダリーにすることとしています。「attributable process」とは、簡単に言うと、製品を製造するに当たって、直截的に関わる部門ということです。

ですので、「事業者レベル」の排出量だと、カテゴリー2の資本財や、カテゴリー6や7などの社員に関わる「non-attributable process」が入っているので、ルール違反になってしまいます。

しかしながら、CDPの回答においては許容されます。その旨をちゃんと説明しておきましょう。(「事業者レベル」→「製品レベル」になると、排出量は減りますので、削減ネタとも言えますね)

プロセスマップの作成も要求されていますが、CDPには解答する欄がありませんので、気にすることはないです。(カテゴリー1の排出量として、数字だけを記入します)

Companies shall report attributable processes in the form of a process map.

Companies shall include a process map in their inventory report. A process map illustrates the services, materials, and energy needed to move a product through its lifecycle. If specific details are considered confidential, a company may create a simplified version for the report.

Product Life Cycle Accounting Reporting Standard

「non-attributable process」を含めてはならない、ということでもありません。分離できなかったり、間接的ではあるけれど、貢献度が大きいプロセスであれば、もちろん含めてください。

Companies shall report any non-attributable processes included in the boundary.

Some service, material, and energy flows are not directly connected to the studied product during its lifecycle because they do not become the product, make the product, or directly carry the product through its life cycle. These are defined as non-attributable processes.

Companies are not required to include non-attributable processes. However, if non-attributable processes are included in the boundary, companies shall disclose this in the inventory report.

Product Life Cycle Accounting Reporting Standard

これから毎年報告していくことになるのです。
含めているプロセスが多ければ、削減余地が多くなります。
着実に削減できていけば、モチベーションアップにもつながるでしょう。

最後に、取引先へ提出する排出量の算定対象範囲をまとめてみます。
大きく、「組織単位」と「製品単位」とに分かれます。

算定対象範囲

「組織単位」であれば、スコープ1〜3、全て含まれます。
ですので、物理的あるいは経済的に配分する必要があります。

組織単位の排出量

「製品単位」では、間接部門を含むのか、直接部門のみかに分かれます。
スコープ1、2について、ライン毎に使用電力量や使用燃料を計測していたりして、製品に帰属する量が明確な場合でなければ、同様に配分が必要です。

製品単位の排出量(直接部門のみ)

実際着手してみると分かりますが、製品毎に実施するのは到底無理です。
代表製品のみ実施し、あとは配分と逆パターンで、売上なり生産量なりで総量を推定するのが現実的でしょう。

それにしても、大変ですよね。
毎年実施していれば、それなりに仕組みもできて効率化が進むのですが、製品開発で商品数が増えるでしょうし、拠点も増えるかもしれないし、人事異動もある。継続的な教育は必須。何とか自動化できないか?

皆さん思うところは同じです。
ということで、そのような課題解決を目指すガイダンスが発表されました。

それが「Pathfinder Framework

2021年にグラスゴーで開催されたCOP26においてWBCSDにより発表された、バリューチェーン全体で製品レベルでの排出量を算定・交換することを目的としたガイダンスです。

内容的には、GHGプロコトルのプロダクト基準に近いイメージ。

ただ、「サプライヤーが取引先へ提出する排出量データの作成」を主目的としていることから、一次データを使用して「サプライヤーが排出量を算定する」ことが原則となっています。

他方、プロダクト基準では、一次データを使用する点は同じでも、算定するのはサプライヤーでも取引先(自社)のいずれかでもOKという立場。

つまり、Pathfinder Frameworkは、バリューチェーンの中で「自社」がラクする仕組みなんですね。

とはいえ、明確なルールが定まりますので、製品開発の最初の時点で、このフレームワークへ適合させておけば、サプライヤーにとっても算定が容易になるというメリットが生まれます。

いずれ、原価計算と同じように、半自動的に排出量も算定できるようになるかもしれませんね。

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