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CDRの真実 マイクロソフトとバイオ炭

IPCC第6次報告書(AR6)において、1.5℃削減経路達成のためには。二酸化炭素除去(CDR)が必要不可欠であることが明らかにされたことは、皆さんもよくご存知のことでしょう。

排出削減目標の達成が困難
現在の排出削減ペースでは、パリ協定で合意された1.5℃目標を達成することは困難であり、2℃目標達成も危ぶまれている
森林吸収能力の限界
 森林による二酸化炭素吸収量には限界があり、今後さらに増加していく温室効果ガス排出量を吸収するには不十分
気候変動の影響の緩和:
排出削減と森林吸収に加えて、CDRを実施することで、大気中の二酸化炭素濃度を直接的に下げ、気候変動の影響を緩和することができる

AR5とAR6の間、2018年10月にリリースされた「1.5℃特別報告書」において、すでにCDRの重要性については明記されていたので、驚くべきことではありませんでしたが。

1.5℃特別報告書の概要(環境省)より著者追記

これを機会に、CDRの創生や利用を検討し始めた企業も多かったものと推測しますが、マイクロソフトもそのような企業の一つでした。

それまで、他のグローバル企業と同様、マイクロソフトは、既に排出した CO2 除去ではなく、主に排出を避けるためのオフセットに投資することでカーボンニュートラルを目指してきたとのこと。

しかし、世界が求めることを実現するにはニュートラルだけでは不足であると認識し、方向性を変更。

2030 年までに、排出した CO2 よりも多くの CO2 を除去し、1975 年の創立以来、直接的に、および、電力消費により間接的に排出してきたすべての CO2 を 2050 年までに除去するという目標達成の道筋を確立することを、明らかにしました。

さらに、誰もが利用できる環境整備が必要という問題意識から、実効性がありかつ効率的な「炭素除去市場」を構築するためのブロックチェーンを活用した標準の確立・システム開発に関する取組みに着手することも併せて公表していたところ。

この2、3年は、大規模購入契約の報道も目にするようになりましたよね。

自分としては「やってるよねぇ」と曖昧な認識でいましたが、CDR.fyiのマンスリーレポートとブログを見て、その規模感に圧倒されました。

ちなみに、CDR.fyiとは、永続性の高い(Durable)CDR(Carbon Dioxide Removal)の情報を提供するオープンデータプラットフォームで、CDRの価格や供給量、種類やサプライヤーなど、様々な情報を提供しています。

早速内容を見てみたいと思います。
まず、購入量の推移です。

マイクロソフトが参入した2023年から飛躍的に伸びていることが明らか。

Where Do We Grow from Here? より

2024年第一四半期の購入量を見ると、もちろん「マイクロソフト」一強。
全体の65%を占めています。

CDR.fyiは「マイクロソフトは地球上のすべての企業のほぼ2倍の耐久性CDRを購入していることになる」と表現しています。

2024 Q1 Durable CDR Market Update - Blossoming Biochar より

このように、「買い手」としてCDR市場を牽引しているのがマイクロソフトなら、ダントツの銘柄は何かというと、「Biochar(バイオ炭)」です。

2024年第一四半期の販売量がこちら。

2024 Q1 Durable CDR Market Update - Blossoming Biochar より

供給量がこちらです。

2024 Q1 Durable CDR Market Update - Blossoming Biochar より

販売量は全体の8割、供給量は全体の9割。
CDRの代名詞と言ってよいでしょう。

つまり、CDRのマーケットは「マイクロソフト」と「バイオ炭」一色。
これが健全かどうかというとクエスチョンですが、当面は、この2大プレーヤーによって、市場が形成されていくことは確実かと。

ですが、バイオ炭は「土壌改質材」としての利用が主だと思いますが、土壌のpHやタイプの関係を考慮する必要があり、無制限に使用できるものではありません。もちろん、 炭素が放出されるような利用方法は論外です。

利活用が難しいのであれば、「炭素固定」という機能だけが残ることとなり、石炭火力とCCSと同じように、あるいは、放射性廃棄物と同じように、地中などに管理された状態で保管せざるを得ないのでしょうか。

まぁ、化石燃料のCCSは、地中から採掘し、燃焼によってCO2という形で放出された炭素を固定するので「ニュートラル」である一方、バイオ炭は、植物によって大気中のCO2が吸収され、炭素という形で固定化されたものなので「ネガティブ」という違いはありますが。

とはいえ、直接除去したCO2を原料としたC1化学の発達と、バイオ炭の活用研究の推進により、炭素除去市場がネットゼロ達成に寄与していくことを期待したいです。


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