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NZ-ETSの衝撃

2008年に導入されたNZ-ETSは、2005年に開始されたEU-ETSには及ばないものの、長い歴史を持ち、常にアップデートを行ってきた「老舗」です。

2017年、37歳で当時世界最年少の女性首相、アーダーン氏を輩出するような革新的なイメージのあるニュージーランドですが、ETSにおいても「先見性」を活かした画期的なシステムとなっています。

特に目を見張るべきは、セクターカバー率の高さです。

国の排出量全体に対するカバー率は49%に留まりますが、農業以外の産業セクターは全て対象となっています。これは、現在世界で稼働しているETSの中でもダントツです。森林まで対象としているETSは唯一。

まぁ、ニュージーランドは、羊肉、牛肉、乳製品、果物、野菜、鶏肉、穀物、豚肉といった農畜産業が主要産業であるため、そこに切り込むのは困難でしょうね。

ETSがカバーしているセクター(ICAP Emissions Trading Worldwide 2023 Status Reportより)

そんなNZ-ETSですが、さらなる改革を行います。
オークション設定の更新です。

現在NZ-ETSは、「Cost Containment Reserve (CCR)」という仕組みで、NZU価格の安定化を行っています。

簡単に言うと、NZU価格の下限を設定すると共に、上がりすぎると(トリガー価格を超えると)、リザーブしていたNZUを市場に放出するというものです。

22年までは、下限が$33.06、トリガーが$82でした。
これが23年から、下限およびトリガーが継続的に引き上げられていきます。

NZU価格チャート(MY NATIVE FORESTより)

例えば、24年は、下限が$64と倍に引き上げられます。
つまり、オークションで購入する価格が倍になるのです。

「もっと排出削減しないとヤバイ」となることは必至。
相当なインセンティブでしょう。

また、トリガーは、Tier1とTier2の2段階に分けられます。
さらに、22年までは、$82を超過すれば800万NZUが市場に放出されたところ、24年からは倍以上のトリガー価格に引き上げられるだけでなく、$184で280万NZU、$230で490万NZUと小出しにされるのです。

加えて、放出量も800万NZUから770万NZUに引き下げられ、こちらも、毎年引き下げられることになっています。

ちなみに、EU-ETSの方はと言うと、2015年から「MSR:Market Stability Reserve」が導入されています。

こちらも同じような仕組みで、流通している前年のEUAの総数(TNAC)に応じて、MSRという「基金」にEUAを移動したり、放出したりします。
TNACがトリガーというわけです。

現在のトリガーは、以下となっています。

・TNAC>8.33億トン:翌年のオークション量から24%をMSRに移動
・TNAC<4億トン:MSRから1億トンの割当を放出する
・4億トン≦TNAC≦8.33億トン:MSRに何も放出にもしない

なお、2021年7月に提案されたEU ETSの改正案では、MSRのトリガーも、以下のように変更される予定だそうです。航空と海運部門もEU-ETSの対象となるので、このセクターに割り当てられる量も、TNACの計算に含めることになります。

・TNAC>6億トン:翌年のオークション量から18%をMSRに移動
・TNAC<4億トン:MSRから1億トンの割当を放出する
・4億トン≦TNAC≦6億トン:MSRに何も放出にもしない

現行及び改訂MSRがNZ-ETSと比較して厳しいか否かは判断できかねますが、NZ-ETSよりも価格低迷などの荒波に揉まれているので、その知見が、微妙なさじ加減につながっているのでしょう。

日本では、「ボランタリー」なGX-ETSが今年第一フェーズが始まりました。
台湾も、今年「台湾炭権交易所」を開設、来年2024年前半にも取引をスタートさせることを発表しています。

先輩達に学びつつ、十全な市場を形成、運営できるでしょうか。
noteでも、ウォッチしていきたいと思います。

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