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IFRS S1 S2が目指すところ

ISSB が、2023年2月16 日にモントリオールで公開会議を開催し、 S1 とS2 の技術的内容について最終決定を下したことは、先日ご案内しました。

広範なパブコメが寄せられたようで、実に20 回の再審議が行われたとか。

その後、理事会は基準の最終的な内容について完全に合意し、満場一致で基準設定の次の段階である、起草および正式な「投票」プロセスに入ることを承認したとのこと。予定通り、基準は 23年Q2の終わりに発行です。

この会議の翌日、17日にオンラインでシンポジウムが開催されました。
このセッションで得られた要点(key takeaways)は次の7つ。

1.ISSB規格の発行が間近に迫っている
2.SASBスタンダードは、S1を実施するための実用的なツールである
3.国際的な比較可能性が最も重要であることに変わりはない
4. 各国は ISSB 基準を積極的に検討している
5.ISSBの成功には、キャパシティビルディングが欠かせない
6.統合報告書を推進するための作業が引き続き行われている
7.多くのステークホルダーのおかげで、ISSBは大きく前進できた

1.についてはご案内済、7.はお決まりの謝辞なので、他の5つをさらっと見ていきます。

2.SASBスタンダードは、S1を実施するための実用的なツールである

各ISSB基準では、業界特有の開示が求められているところ、S1では、特定のISSBスタンダードがない場合、SASBを検討することを求めています。また、S2の付録B「産業別開示要求」は、SASBを踏襲しています。

ですので、すでにSASBを使用している企業は、改めてS1・S2に対応させる必要は殆ど無いと思われます。加えて、SASBは、少なくとも4年間、現実的にはそれ以上の期間、ISSBによって独立した形でサポートされ続けることになっているとのこと。

また、同時に、SASBの前議長であるJeff Hales を議長とするISSBメンバーのグループが設立され、SASBの維持、進化、強化に関する ISSB への推奨事項を作成することを任務としていることから、S1・S2をことさら意識する必要は無いでしょうね。

3.国際的な比較可能性が最も重要であることに変わりはない

ISSBは、投資家のためのサステナビリティ情報開示のグローバルなベースラインを構築するために設立されたこと、グローバルな比較可能性を達成する必要が繰り返し強調されていたのが興味深かったです。

基調講演者のマーク・カーニー氏(国連気候変動・金融特使、ネットゼロのためのグラスゴー金融連合共同議長)はこのように表現していました。

ISSBのベースラインは、比較可能で信頼性が高く、一貫性があるため、クロスボーダーの資本がどのように配分されるかという点で決定的なものになると思います。

ダブルスタンダードが回避された共通のルール(グローバルなベースライン)になっているので、、S1とS2のコア要素を適用しないことは、逆に、自社にとって非常に大きなコストがかかってしまうということですね。

4. 各国は ISSB 基準を積極的に検討している

このグローバルなベースラインを現実的に達成するために、各国はISSBを採用する必要があるとされているところ、日本では、SSBJがS1・S2に準じた開示ルールを策定しています。

現状はこのようなスケジュールだそうです。

ISSB基準には、比例性、救済措置、ガイダンスが組み込まれていますが、これらは、いずれも、開示が容易になされることを意図したもので、例えば次のようなものがあります。

・過度のコストや労力をかけずに入手できる合理的で裏付けのある情報を使用すること
・情報提供のアプローチを決定するために企業の「スキル、能力、リソース」を考慮すること

「S1・S2を適用しない場合に大きなコストがかかる」のであれば、各国は速やかに基準のローカライズを行うのは、当然でしょう。

5.ISSBの成功には、キャパシティビルディングが欠かせない

ISSBに関するコンサルテーションでは、企業からは、基準を利用するための準備に幅があること、特に、中小企業や新興市場の企業が基準を適用するためにはより多くのサポートが必要であるとの回答があったとのこと。

これを受けて、ISSBは、適用ガイダンス、例示ガイダンス、事例を作成し、企業の負担を軽減するための移行救済措置を導入することを決定したそうです。具体的には、段階的導入期間、企業の資源に応じた基本的及び高度な報告要件(規模に比例した要件)など。

情報開示が、最終的に世界的に受け入れられることが目標であるところ、企業によってS1・S2を提供するための準備と能力のレベルが異なることを、ISSBは認識していることの証左でしょう。

2023年2月16 日にモントリオールで開催された会議で、2024年1月から有効になることが決定したようです。また、初めて取り組む企業が多いことを考慮し、ISSB はキャパビルを充実。基準を市場インフラとして適用する企業をサポートするプログラムを導入することも併せて発表しています。

6.統合報告書を推進するための作業が引き続き行われている

統合報告フレームワークの概念はS1に組み込まれており、ISSBとIASBをより密接に統合するための作業が、両者間で進められているとか。つまり、財務情報と非財務情報の融合ですね。報告する側からすると、財務・非財務別々に報告するという2度手間を避けることができる点でウェルカムでしょう。

ISSBは、統合報告フレームワークやIASBのマネジメント・コメンタリーをどのように取り入れ、構築していくかを含め、サステナビリティの開示と財務諸表との関連性について、まもなく協議する予定だそうで、期待して待っていたいですね。

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