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Verraの「Scope3 Standard Program」に期待(3)

CDPとBCGによる、23年のCDP質問書回答を分析したレポート「Scope3 Upstream: Big Challenges, Simple Remedies」で明らかになった、スコープ3排出量算定の課題について、2回に亘ってお届けしています。

前回はこちら。

今回は、その課題に対し、Verraが「Scope 3 Standard Program」を推進しているのですが、その効果について話をしていきたいと思います。

「Scope 3 Standard Program」は、「Scope 3 Initiative」から発展したもので、企業がScope 3排出量削減のための介入活動を効果的に実行し、信頼性の高い形で認証、報告できるようにするための標準化されたプログラムと謳っています。

これがVerraの主張ではありますが、果たしてどうなのでしょう。

1.「信頼性の高い形で認証・報告できる」のか
2.GHGプロトコルやISOとのダブルスタンダードにならないのか?

気になる点を、突っ込んでみたいと思います。


1.「信頼性の高い形で認証・報告できる」のか

検証人(Verifiers)として「気になる」ところですが、公開されている情報をまとめると次の2点かと。

1-1. 標準化された算定メソドロジーの提供
1-2. レジストリシステムの活用によるトレーサビリティの確保

1-1. 標準化された算定メソドロジーの提供

Scope 3排出量は、サプライチェーン全体をカバーするため、当然の如く、その範囲は広く、各企業の活動によってばらつきがあります。これに対し、Verraは「標準化された算定メソドロジーを提供し、これを第三者が検証できるようにします」というのです。

Verraのメソドロジーは、既存のVCSメソドロジーに基づいており、既に多くの企業やプロジェクトで信頼されているため、Scope 3排出量の算定にも応用可能というのが強みだと主張します。

ですが、Verraのメソドロジーは「プロジェクトベース」であるところ、スコープ3は「組織ベース」です。Verraは「ISO14064-2(プロジェクト排出量)」であり、スコープ3は「ISO14068-1(組織の排出量)」。

*「スコープ」という表現は「GHGプロトコル」で使用されるものであり、ISOでは使用されず、また「ISO14068-1 2018」における 「間接的排出量」がスコープ3と必ずしも一致するものではありませんが、ご容赦を。

「プロジェクトベース」だからプロジェクト毎に「標準化」できたのであって、果たして、様々なビジネス形態のある組織の「バリューチェーン」について「標準化」できるのか疑問です。SBTiのセクター別アプローチ(SDA)と同じになっては、意味がありません。

1-2. レジストリシステムの活用によるトレーサビリティの確保

VCSでは、クレジットを管理するレジストリシステムが存在します。「Scope 3 Standard Program」では、このインフラを利用可能にするようです。これにより、第三者が検証プロセスを行う際に必要なデータの信頼性が向上し、企業が報告する排出削減結果の正当性が保証されます。

そもそもこのプロジェクトは、Scope 3排出量削減活動に関する情報を透明かつ追跡可能な形で提供することに焦点を当てています。そのキモとなるのが、レジストリシステムのオープン化なのでしょう。

確かに、これは有効だと考えます。エビデンスのトラッキングが容易になりますので、第三者検証の際に役立つデータベースとして機能します。審査する側もされる側も、大歓迎です。

とはいえ、今のサス情報プラットフォームのように、顧客の囲い込みは No Thanksなので、Verraが自前で認証を取得した後、各法域へ提供、企業は安価に利用できる環境となることを希望します。


2.GHGプロトコルやISOとのダブルスタンダードにならないのか?

こちらは報告企業(Preparers)として「気になる」ところですね。
Verraの言い分は、次の2点かと思います。

2-1. 既存フレームワークとの補完関係
2-2. 既存フレームの統合化

2-1. 既存フレームワークとの補完関係

もちろん、GHGプロトコルやIFRS S1・S2、CDP、SBTなどがすでにデファクトとなっていることは承知の上で、これら既存フレームとは競合するのではなく、これらを補完する形で機能することを企図しているとのこと。

特に、クレジットのスキームオーナーとしての経験と、既存のVCSプログラムのインフラを活用することで、プロジェクトレベルでの介入活動を組織レベルの排出量削減に結びつけることができる点が特徴だと。

IFRS S1・S2において、「開示基準が無い場合にはSASBを考慮すべき」としていますが、同じような使われ方を想定しているのでしょうか。ただ、「知見」をどのように活用するのか、お手並み拝見したいところです。

2-2. 既存フレームの統合化

「補完」を目指している点は同意しますが、Verraは「企業が複数の基準に従う必要がある複雑さを減らし、一貫性を持った排出量削減の取り組みを可能にする」ことも視野に入れているように思います。

ダブルスタンダード回避という意味では当然ですし、IFRS S1・S2も同じ着地点を目指してはいます。ですが、ISSBも、CSRDやGRIなどとの「Interoperability」を目指しているのに対し、Verraは「Integration」まで考えているのでしょうか。

まぁ「既存のフレームワークと整合性を保ちながら機能することを目指して」いるようですので、2−1と併せて「ダブルスタンダード回避」は「Wait & See」でしょうね。


ということで、Verraの「Scope 3 Standard Program」について3回に亘って見てきましたが、いかがだったでしょうか。

個人的には、バリューチェーン排出量の算定・検証・開示は、もっと容易になっていくと楽観しています。

データが無いのは、当たり前なのです。
だって、今まで不要だったのですから。
無いものを「出せ」、と言っても出てくる訳がありません。

これからは、算定するのが「当たり前」になります。
となれば、データ取りをし始めるでしょう。
ワークフローも構築されて、収集も容易になっていきます。
そうなれば、後はAIが勝手に算定まで行ってくれる。

そんな世界が来ても、驚きではないかと。

技術は進歩しますが、退化することはありません。
期待しながら、日々の検証に励みたいと思います。

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