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ESRS導入ガイダンスのドラフト公開(3)

EFRAGが作成中の、ESRS導入ガイダンス。
8/23の会合でドラフトが公開されたのを受け、紹介しております。

「Value Chain Implementation Guidance(VC IG)」と「Materiality Assessment Implementation Guidance(MA IG)」の2種類があり、2回目ではVC IGを紹介しましたので、今回はMA IGの方をご案内していきます。

個人的には、ISSBなど、他のサステナビリティ情報開示スキームでも採用されている「重要性評価」の一般的なガイダンスとして利用できる内容だと思いました。

「Disclose or Explain」において、「重要でない」と判断した理由を説明する際にも利用できるのではないでしょうか。

前置きはこれくらいにして、ガイダンスに明示されている定義を確認しましょう。

重要性評価とは、情報開示のために、環境、社会、ガバナンスに関するすべての重要な影響、リスク、機会を特定するプロセスである。

ESRSにおける「重要性」は、ダブルマテリアリティです。

客観的な重要性評価の実施は、持続可能性報告にとって極めて重要であり、 その報告には、影響の重要性の観点財務の重要性の観点、またはその両方から重要であると判断された、環境、社会、ガバナンスに関するすべての影響、リスク、機会に関する適切かつ忠実な情報を含めなければならない。

ESRSでは、「影響の重要性の視点」を「Impact materiality」、「財務の重要性の視点」を「Financial materiality 」と表現しています。

また、開示すべき「影響、リスク、機会」は「Impacts, Risks and Opportunities(IORs)」と省略され、各所に登場するので、覚えておきましょう。

影響の及ぶ範囲については、時間や場所、可能性など広範囲に亘ります。

短期、中期、長期にわたって、事業が人や環境に与える実際の、または潜在的な 、プラスまたはマイナスの重大な影響に関連する場合の影響の視点。影響には、事 業者自身の事業や、製品やサービス、取引関係を含む上流・下流のバリューチェーンに関連するものが含まれる。

2回目の「Value Chain Implementation Guidance」の説明でも言及しましたが、気候変動関連開示ベースの概念は脇に置きましょう。

重要な影響の特定と評価には、利害関係者の参画が必要としています。というのも、「Impact materiality」とは、事業者自身の事業だけでなく、バリューチェーンに関連する人々や環境への影響を意味するからです。対話が無いと、判断できませんよね。

他方、「Finance materiality」は自社事業にとっての重要性です。なぜなら、こちらは、ステークホルダーではなく、自社のキャッシュフロー、財務実績、財政状態、短期・中期 ・長期の資金調達手段、資本コストに環境が及ぼす影響を意味するからです。分かりやすいですよね。

さて、「Impact materiality」には、事業者自身の事業活動やバリューチェーンに関連する影響が含まれますが、どのような活動が「影響と関連している」のでしょうか?

ガイダンスには、以下のような例示がありました。

1.事業、製品、サービスによって人々や環境に直接引き起こされる影響につ いて、単独で責任を負う場合

a. 適切な安全設備がないにもかかわらず、労働者を危険な労働条件にさらすこと
b. 排出される化学物質が、地域社会の飲料水供給の唯一の汚染源とな っている
c. 有能な女性を雇用、支援、昇進させなかった
d. 従業員、契約社員、顧客、その他、個人データの機密性を保護しない。
e. (ポジティブ・インパクトの場合)再エネを安価に提供することで、より多くの顧客が再エネへ切り替えることができ、気候変動の緩和に貢献する。

2.事業者の行為や不作為が単独では影響を引き起こさないが、他者の行為や不作為と相ま って影響を引き起こす場合

a. ある地域にある複数の工場や事業所が、大気中に有害な排気ガスを放出している。 それぞれの排出量は有害規制値以下であるが、それらが一緒になると、地域社会の大気質に影響を与えるほど大気が汚染される。

b. あるアパレル企業は、サプライヤー工場に自社の生産ラインを持っており、標準的な8時間シフト制をとっている。この生産ラインで働いた後、労働者が競合他社でさらに8時間働く。

3.事業が、他の当事者が影響を引き起こしたり、その一因となったりするのを促進したり 、誘因したりする場合

a. 生産期限や価格を調整することなく、サプライヤーに対する購買要件を何度も変更し、その結果、サプライヤーは納品するために労働基準に違反することを余儀 なくされる。

b. 労働条件への影響を考慮することなく、サプライヤーとの価格を引き下げるために交渉チームを派遣する。

いやぁ、こんなところまで「自社の影響」と捉えなければならないのでしょうか?

この影響が「マテリアル」であり、低減するために、基準を作ったり施策を打ったりした場合、開示しなければなりません。「どこまで〜」って感じですが、「ステークホルダーと対話をして、重要性を判断しなさい」なのでしょう。

ということで、MAにおける重要な概念、「Impact materiality」と「Financial materiality」までご案内しました。

次回は、評価について説明していきたいと思います。
よろしく、お付き合いくださいませ。

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