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炭素国境調整措置 綱引きの現状把握

これまで、何度となく「CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism:炭素国境調整措置)」については、お届けしてきました。

簡単に言うと、EU域外からEU域内に輸入される対象6セクターの製品については、2023年10月から排出量の報告義務が発生しており、2026年1月から、排出量に応じた「CBAM証書」の購入が義務づけられます。

移行期間:2023年10月1日〜 報告義務
本格導入:2026年〜 CBAM証書購入義務

日本人感覚では、このように速やかに発効するのは不思議に思われるかもしれません。ましてや、EUという主権国家の集合体ですし。条約では、まずこのようなことはありませんよね。

ここで、EUの法律について(専門家ではないので、誤りがあるかもしれませんが)説明したいと思います。

EUの法律には、以下の3つがあります。

1.規則(Regulation)
2.指令(Directive)
3.決定(Decision)

「規則」が最も強力です。

欧州議会とEU理事会で採択されれば、全ての国で効力を持ちます。加盟国内の手続きは不要です。効力を持つと、同様の内容を扱う国内法に優先し、加盟国は、その後の国内法を改定する際にも、尊重しなければなりません。

化学物質規則「REACH規則」がこれに当てはまります。ご存知の方も多いことでしょう。多くの日本企業が対応に苦慮することになりました。

続いては「指令」です。

全ての加盟国が達成しなければならない目標を定めた法律で、各加盟国は、この目標を達成するために、必要に応じて新法を制定したり、既存法を改正したりして、指令内容を定められた期間内に国内法に反映させなければなりません。

CBAM導入の発端となったEU-ETSは「指令」です。
その他で有名なのは、電気・電子機器の有害物質規制「RoHS指令」。
こちらも、日本で話題になりましたね。

最後は「決定」。
これは、ある特定の加盟国や企業に直接適用される法律です。

クロアチアは23年1月にユーロを導入しましたが、これはクロアチアだけが対象のため、決定に基づきます。

この他、法的効力は持たないものとして、「勧告(Recommendation)」と「意見(Opinion)」があります。覚えておくと、EUの政策を理解するのに役立つと思います。

CBAMは、規則(Regulation)ですので、加盟国内の手続きは不要。
したがって、このように、速やかに効力を持つことになるのですね。


EUがこのように、CBAMを強力に推進している一方、USは対抗して「CCA(Clean Competition Act)」を導入します。

2024年から、化石燃料、石油精製品、石油化学製品、肥料、水素、アジピン酸、セメント、鉄鋼、アルミニウム、ガラス、パルプ・紙、エタノールなどエネルギー集約型の産業に対して適用するとしています。

2026年には、対象となるエネルギー集約型一次産品を500ポンド(約227kg)以上含む輸入完成品に拡大されます。 2028年には、対象の閾値が100ポンドに引き下げられるそうです。

ただし、CBAMが「CO2排出に対しEU同等の規制がなされていない国・地域」からの輸入において「製造時における排出量」に応じた課税がなされるのに対し、CCAは、米国製品の「平均排出原単位」をベンチマークとし、それを超える場合に課税するという点で大きな違いがあります。

CCAは「輸入品のグリーン度」に依存するものなのです。

また、CCAは、ベンチマークを超える原単位を持つ、輸入品と米国製品の両方に炭素料金を課すという点に着目。この点でも、CBAMと比較して、中立かつ公平であると言えるのではないでしょうか。

加えて、「平均排出原単位」がベンチマークなので、自社が努力すれば達成できます。CBAMだと、国レベルで制度を有していないと、対象製品をEUへ輸出していれば、問答無用で課税されてしまいますから。

CBAMを巡っては、EUを市場として捉えている各国が、対応を急ぎ始めています。EUから離脱したUKもその一つ。

スイスのETSはCBAM対象外とされているのに対して、現段階ではUK-ETSは対象となっています。

果たして、日本のGX-ETSは、どうなるでしょうか。
その他の国も含めて、ウォッチしていこうと思います。


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