ケモ界隈でバンダイナムコ社員を騙る男と出会った話

 こんにちは、coniと申します。
 同人界隈の中でもとりわけ獣人を題材としたいわゆる「ケモノ」ジャンルで活動しています。このnoteでは、私がケモノ界隈で詐欺まがい(というかほぼ詐欺)のプロジェクトに引っかかってしまった件についてお話します。
 長い文章読むのダルいな…という方は以下の概要の部分だけお目を通していただければ幸いです。

話の概要

■起
 ①友人経由で「アニメ監督」を名乗る「CEO」の男と知り合う
 ②その男から合同誌に誘われた。原稿料は出ないが請け負う

■承
 ③そこからさらに「ケモノアニメプロジェクト」なるものに誘わる
 ④「コロナ渦で資金繰りが悪化している」と借金を申し込まれ、同情して金を貸す

■転
 ⑤説明が二転三転し、会社についての説明がおかしいと確信する
 ⑥登記を探すも該当する会社はなし
 ⑦バンダイナムコHDに実際に問い合わせし、肩書が嘘であることが発覚する

■結
 ⑧本人に聞くもシラを切るのでTLで情報公開
 ⑨なぜかしばらくして全額返金される
 ⑩だが結局本人は嘘を認めなかった

★話のポイント

  • ネットで金銭の貸し借りをしてはいけない(鉄則)

  • やたら立派な肩書の人物は事実確認をする

  • まともな連絡先の無い名刺は基本詐欺だと思え

  • 原稿料が出ない合同誌の安請け合いはしない

  • 金銭系の話は録音する、内容証明郵便等の公で使える記録を取る

★バンダイナムコ関連会社のCEOを騙っていた人の情報

 当該人物は、バンダイナムコ様の連結子会社「バンダイナムコACTC」の「chief executive」を名乗る名刺を配布していました。また、ここ1年程はスタジオぬえ様の採用予定者等を名乗っていました。
 会社名「バンダイナムコACTC」(サンライズACTC等の表記もあり)
 →バンダイナムコアーツテックと読むとのこと。関連子会社を名乗る。
  これについては以下のようにバンダイナムコHD様から注意喚起が出ています。

 バンダイナムコグループの架空の子会社を騙った勧誘等にご注意ください
 https://www.bandainamco.co.jp/files/about/20220901.pdf

 「スタジオぬえ」の採用予定者を名乗る
 →これについてもスタジオぬえ様から注意喚起が出ています。
 
https://twitter.com/siglic/status/1696037375900872933

 バンダイナムコHD様、スタジオぬえ様におかれましては貴重なお時間を頂戴してしまい申し訳ありませんでした。寛大なご対応にこの場を借りてお礼申し上げます。

 なお、個人の特定につながる情報は控えさせていただきます。またコメント等で個人名を示す等の行為はおやめください。
 糾弾ではなく、あくまでも自分の身を守る為の「他人の経験の追体験」として当記事をご理解ください。


名刺その1
名刺その2

ここから先は結構長いので、気が向いたらお読みください。


■起 自分が男の輪の中に入るまで

 私が同人活動を始めたのは2020年頃の話です。
 当時からイベントに参加する等していましたが、なかなか思ったように活動が進まず若干焦っていました。そんな中、ある友人を介して合同誌の企画に誘われます。それが今回の偽バンナム名刺マンです。
「原稿料は出ないけど、販売数は個人よりもはるかに多い」
 そのようなことを言われた気がします。実際合同誌には私よりも有名で上手な絵師さんが複数参加されていました。そもそも合同誌に招いてもらったことの無かった私にとっては一歩前進したようなうれしい出来事です。しかも仲介した友人によると有名企業でアニメ監督をしているという話です。
 こんな幸運あるのか!とウッキウキです。当然そんな幸運はありませんでした。

 誘ってもらった感謝や肩書もあってその人物と積極的に交流を取るようになりました。いろいろ話を聞くうちに華々しい経歴を耳にします。
「元々才能があり、系列のゲーセンから引き抜きでクリエーターになった」
「有名アニメ作品の権利者の弟子をやっている」
「雇われ監督であり、CGクリエーターとしてバンダイナムコIP作品に参加している」
「コンテンツ関連でシド・ミード氏(レジェンド級海外工業デザイナー)と個人的に連絡が取れる」
 そのほかにも学歴や前職等いろいろな話をあっけらかんと話す不用心な人だなとは思いました。

 ただこの手の情報のソースは一切ありませんでした。何故か関わったと言う作品のクレジットに名前が載っていません。彼の言い分はこうでした。
「僕はバンダイナムコの秘匿部署にいるから名前が公表されない」
 今思うとこの時点で手を切るべきでした。そもそも秘匿部署にいるのに経歴もやってることも大っぴらにしてる時点で360000%おかしいです。
 しかし舞い上がっていた自分は「へぇーすごい人だな」位にしか思っていませんでした。恥ずかしいことに「ワンチャンからの逆転」を狙っていたのです。その可能性が微塵でもあれば、という射幸心を見事にくすぐられてしまいました。
 こうして自分は見事に釣り上げられ、嘘に踊らされてしまいます。

■承 「ケ〇〇〇アニメプロジェクト」

 当該人物と会話するようになって1,2か月経ったころです。ある日突然なぜ同人誌を発行しているのか等の理由を説明されました。
 曰く「ケモノとロボットをテーマにしたアニメを作る、その為の実績作り」とのことです。彼によると私をそのアニメプロジェクトに参加させてくれると言います。最初はモブキャラデザインぐらいだけどゆくゆくはCV付きのキャラのデザインをさせてくれるそうです。
「マジかよやります」
 私は二つ返事で参加を表明しました。それが嘘であることより本当だった時の報酬の大きさに目がくらんでいたからです。
 冷静に考えてアニメプロジェクトを進めるためにすることが「同人界隈でエロ合同誌の販売」ということは多分ないでしょう。今考えると恥ずかしい限りですが、当時の自分にはそれほど魅力的に映ってしまいました。
 しかし、ここから突如雲行きが怪しくなります。まあ怪しいも何も最初から曇天ですね。

「コロナウィルス蔓延の関係で企業オーナーの海外在住者が日本に来られない。金庫が開かないから金策がつきそうだ」
 前述のお誘いから間もなく、そんなことを言われ借金を申し入れられたのです。
「X万円貸してくれないか、これは信頼できるConiさんにだからお願いできることです」
 これが回避できなければその誘われたアニメプロジェクトの版権を売り払い、その上で会社をやめ退職金で補填すると言い出しました。
 本人は退職を周囲から止められていると言い、証拠としてDiscordのキャプチャーを提示しました。有名監督に「才能」を褒められるも責任感強めの問答をしている書き込みのキャプチャーが1枚。
 うーんそれは大変と私はお金を貸してしまいます。しかしその金額は企業運営費としてははっきり言ってはした金でした。
 そもそもバンダイナムコ社の連結子会社を名乗っているのになぜ海外オーナー?既に言い訳が矛盾し始めていることには気づいていました。ただこの頃は周囲の人と仲が良かったこともあり「うーんそういうところがある人らしい」と丸め込まれていました。
 返金については「金庫には数百億ドルあるから大丈夫、アニメは何兆円も動くんだよ」と言います。これちょっと大丈夫か?と疑いが強まった一番の原因はこの発言でした。さすがに嘘でしょ、と。

 その後も返金予定日を無言でブッチしては借金を持ちかけてを繰り返します。そしてその度に彼は私に「報酬」を持ち掛けます。
「アニメプロジェクトでの地位上昇(CV付きキャラのデザイン権等…?)」
バンダイナムコ社への就職の融通
 前者はまだしも後者はどうするつもりだったんでしょうか。
 結局そういったものを提示されるも返金されることはなく、そのまま1年以上が経過してしまいます。

証拠として送られてきた有名監督との会話キャプチャー。凄いですね。
他の作家さんの名前と採用の話が出てきました。


■転 証拠集め

 ここまでくると流石にアホの私でも「これはおかしい」と確信し、相手の言っている事を可能な限り調べようと考えました。
 当然ですが直接問いただそうにも「守秘義務」という便利な言葉を盾にした浮ついた答えしか返ってきません。秘匿部署だからバンダイナムコ社に問い合わせてもはぐらかされるだけだよ、と釘を刺されたりもしました。
 仕方がないのでステップを踏み、足る証拠があれば実際にバンダイナムコ様に問い合わせるしかないな……ということになり、以下の通りの3ステップを踏みました。

・登記を確認する

 私は過去にこういった存在するかどうか怪しい会社について、どう調べを付けるべきかを記事で読んだことがありました。
 「アリエナイ理科ノ教科書」等の執筆で知られる薬理凶室様の記事の中で、怪しいサプリを売っている会社を確認する方法として紹介されていた「相手の会社の登記を確認する」というものです。
 さっそく一般財団法人民事法務協会様が提供している「登記情報提供サービス」を利用して片っ端からそれっぽい法人名を調べてみました。登記簿請求にはお金がかかりますが、なんと検索するまでは無償で使用できます。
 名刺の社名、関係ありそうな住所をぶつけてみますが当然ながらそのような法人は見つかりませんでした。連結子会社を名乗っているのに登記がないなんてことはあるんですかね?
 ちなみに閉鎖登記もありませんでした。

・本物を知ってる人に確認する

 確定を取るためにバンダイナムコ社と取引のある知り合いにお願いしてグループ会社の方に名刺を見てもらいました。
 「こんな書き方の名刺はない」との証言を頂いた為確実に名刺は偽物と踏み、最終的にバンダイナムコHD様へ問い合わせを行いました。このステップに関しては自分は運がよかったなと思わずにはいられません。

・実際に所属先に確認をする

 バンダイナムコHD様に金銭のやり取りがあることと名刺の画像をお送りさせていだきました。「当該人物の活動は御社グループのもので間違いないか?」との確認に対し「恐らく不当に弊社グループを語っているものではないかと思われ」る旨のご返信をいただきました。その後詳しい経緯を説明し、最終的には注意喚起文を掲載していただけることとなります。
 バンダイナムコHDの担当者様にはかなり丁寧かつ速やかにご対応をしていただきました。もう足を向けて眠れません。

 いよいよバンダイナムコ様から「バンダイナムコACTC」という会社は無関係である旨の声明が出されました。本人もさすがに認めるかと思いましたが、身内向けに以下のような驚きの説明をしました(要約)。

私の名刺を悪用してケモノ界隈で不貞を働いている奴がいる。
その妨害者の工作を受けてバンダイナムコACTCスタジオは閉鎖した。
この注意喚起文は対外向けの収束を目的にした、自分と会社で仕掛けた方便である。
内容を見て食って掛かってきた相手を洗い出し、妨害者を見つける。
そして法人を変更して活動は継続し、自分は別のスタジオへ移籍する」

 残念ながら認めるどころか事態は完全に自分の手中だということにして身内への鎮静化を図ろうとしていました。結局本人に問いただしても上記の通りシラを切るばかりで結局返金にも至りませんでした。送られてくるのはまた「有名監督」とのメッセージやり取りのキャプチャーのみです。
 また新しく「スタジオぬえへ移籍する予定」という肩書が登場しました。
もう目も当てられません。
 警察に相談もしてみましたが、同人誌の発行が「アニメ化計画実現に向けた行為」とみなされ場合詐欺としての立件は難しいと言われてしまい、こんな奴に労力を割く意味の無さに自分が辟易してしまいました。
 結局その時は「とりあえず1年待ってみて返金されたらこの件について忘れよう」、そう思うことにしました。

流石に草を生やす場面ではないと思います。
結局関連会社等に移籍したという対外発表はありませんでした。

■結 とりあえずの決着

 1年程経ちましたが結局お金は返ってきません。
 最終的には「少額訴訟で決着をつけます」と相手に伝え、まずは内容証明郵便で借金の全容を明らかにします。相手に支払期限と分割額を決めさせて内容証明郵便を送りました。なおすべて相手からではなく私から相手へ送っています。

 返済が始まったと思えば「会社に提出するから印紙を付けて領収書を送ってくれ」と言い出します。調べてみると個人間の返済の場合は印紙は不要とのことですが、相手は然るべきところに提出するから必要と言い張ります。
 何処に提出するのかを聞くと頑なに明言を拒否しますが、結局あとあと何を言われるかわからないので印紙付きの受領証を送ったりしました。なおその後は支払い予定等の連絡は話しかけない限り、支払いました以外の報告は一切ありませんでした。
 「支払いが遅滞したら即少額訴訟」と伝えたところ「じゃあ訴えてください」と開き直り、その上であくまでも私の協力者であり善人であることを強調してくる言動が目立っていたこともあり、再び段々と怒りの火力が大きくなりました。

手間も費用もかかるのにこの物言いです。

 スタジオぬえ様にもバンダイナムコHD様同様に問い合わせをさせていただき、そういった人物がいない旨をご公表いただきました。重ね重ねご迷惑をおかけいたしました。
 注意喚起文から1年間待ちましたが嘘を貫き通すどころか新しい人を誘う始末で、支払いも滞りそうだったのでこれ以上何かが起きる前に結局X(Twitter)上で「偽名刺を配る人がいる」旨を公表しました。しつこくRTさせていただいたりして目に障った方もいらっしゃるかもしれません。その節は申し訳ありませんでした。

 結局公表後にすぐ全額が支払われ、受領証を内容証明郵便で再び送った後は彼とのやり取りは今日まで一切ありません。なお、その人物はまだ活動を続けているようです。

〇反省すべき点

正直言って、今回の件に関しては私側にも相当な反省点があります。

  • 相手の素性を事前調査せずに信用した

  • 集団の中で意見に偏りがあることを失念していた

  • 一発逆転の成果を狙いすぎた

  • 比較的長時間問題を放置してしまった

 特に一発逆転については本当に愚かと言わざるを得ないと思っています。
功名心に駆られてまったく意味のない「奉仕」を繰り返してしまいました。
そんなうまい話があるわけがなかったです。
 仕事として絵を描きたい、プロジェクトにかかわりたいと思うのであればそれ相応の努力が必要でした。プロジェクト等に事実か疑わしい点が出てきたらそれを「事実だった場合の成果」と天秤にかけてしまうのは間違いです。事実であるか否かは独立したものとしてそれ一つで判断すべきでした。

〇怪しいと感じた点

 最上部でも書きましたが、彼には明らかに怪しい点がありました。

  • 名刺にドメイン付きのメールアドレスの記載がない

  • 住所の記載もない

  • 氏名を調べても経歴が出てこない

  • 管理しているはずの法人についての知識が乏しい(おかしい)

  • 経営状況等についての説明が不十分

  • 秘匿部署を名乗る割にやたらと機密情報らしきものが口から出てくる

  • 出される「証拠」がチャットログのような拘束力に乏しいものばかり

  • 称する経歴や役職にしては何故かネットに長時間張り付いている

  • 言い訳の内容は大抵裏が取れない、事実だったら追求しにくいものがほとんど

 なおその言い訳は以下のようなものでした。

  • コロナ渦で渡航禁止に伴って外資系企業故に金庫が開かない(明けても開きませんでした)

  • 給与の支払いをしている会社が倒産した(バンダイナムコさんが倒産したの?)

  • 給付金が支給されない、減額された

  • 交通事故にあった

  • 手術の日程を勝手にスキップされた

  • 会社の経費を立て替えしすぎている

  • 家族の金銭トラブルを肩代わりしている

  • 結婚に関するトラブル

  • 敵対する「妨害者」による嫌がらせ(妨害者というワードが頻発していました)

  • その「妨害者」が参加予定のイベント運営に携わっていてイベント参加ができなくなった

  • 「妨害者」が名刺を悪用し危害を加えている

 なお、一度返金を強く求めたところ「会社を辞める、今回のプロジェクトはなかったことになる」と言い、「私の責任だから仕方がない」と言いつつも他の人たちのバンダイナムコ様への採用等が無碍になることをにおわせ、支払いを待つと伝えると「私の良心が収まらないから辞職する」とほのめかしを続け、何度も自発的に待つことを伝えることを余儀なくさせられ、何故か「いいんですか?やさしすぎますよ」的なことを言われる等かなり悪質だと感じました。良心があるなら本当のことをちゃんと伝えてほしかったです。

〇おわりに

 最後は閻魔帳のようになってしまいましたが、改めてこれ以上の被害者が出ないことを祈ります。
 先述の通り、これは私の経験談であり告発状ではありません。私が通過してしまった愚かな出来事について、同じ轍を踏む方が少しでも減るように書き留めたものです。残念ながら相手の人物は活動を継続しているようですので、皆様におかれましては十分ご注意ください。特に駆け出しの方に声をかけることもままある様です。
 またこういった事例に巻き込まれているんじゃないか?という方に身に覚えがある場合には、その方を気にかけていただければ幸いです。

 最後になりますが、こういった事例に対する対処法等については今回の経験に基づき可能な限りお答えしたいと思います。尚、個人情報等の理由により相手の人物の氏名やサークル名等はお問い合わせいただいてもお答え致しかねます。
 また、バンダイナムコ様及びスタジオぬえ様へのお問い合わせもお控えください。

coni

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