それから数日

出会ってから、これまでの記録がここまで残っているのは、自分がなんとなくパソコンにメモをつけていたからだ。

傷ついたこと。苦しいこと。嬉しいことはすぐ忘れてしまうのだけど、負の感情はその数や大きさに比例して、記録していた量も多くなる。誰にも相談できない関係だったこと。それが余計に自分の心を苦しめた。

これまでの2年間で、彼女からは彼女の実家の家族のことなど、いろんな話をされた。

まずこれは勝手な想像であることを前提に書いていく。

両親が離婚して、父親がいない生活だったこと。そして母と祖母の間でいざこざが起きて、逃げるように違う土地へ母や兄弟とともに引っ越してきた生い立ちがあることを聞いていた。

その中でイメージする父親のような包容力に心のどこかで憧れていた。父親の愛情に満たされなかったことが、年上の男性を好きになる大きな要因ではないかと思った。

そして若くして出来ちゃった婚をしたことで、安定した生活を手に入れることができたとホッとしていたに違いないと思った。転校するまでは活発だったと言っていたが、転校後は、自分の思ったことをあまり言わないような、静かな性格にどんどん変化していったそうだ。しかし心の奥底に眠る、広大な承認欲求は安定した生活の中で、新しい刺激を求めた。

ドロドロとした彼女の心に巣食う感情は、一筋縄ではいかないものだと理解している。考えているつもりで、何も考えてないところ。その場しのぎの連続でこれまで生きてきたこと。彼女の口癖は「やりたいことなんてない」だった。

どう考えてもウソなのに、彼女はいつも何かを振り切るかのように、そう言い切った。ドロドロした感情があるのに、それを行動に移せない姿も末っ子そのものだなといつも思っていた。旦那との離婚も本気になればすぐにできる。正直、上司の奥さんに慰謝料を払う覚悟で、上司に離婚を要求することもできる。

今の生活を続けても、彼女に未来がないことは容易に想像できる。その覚悟がないからだ。今だに彼女は「何か変わって欲しい」という見えない誰かに期待を投げながら今の上司との関係を続けてるのだろう。何回も上司とのことで涙を流していたのは想像に難くない。しかし自分の立ち位置は結局、上司に愛されたい、けれど満たされないという部分を補っていたサプリみたいなものに過ぎないのだと感じた。

以前にも書いたが、世の中には何も頑張らなくても、他人が憧れているものを、何なく自分のものにしていく人間が存在する。その上司は以前いた職場でも、そして彼女の前にも、隠れて付き合っている女性がいたそうだ。そのことを知った彼女は涙を流したそうだが、それがどういう意味なのかは自分にはわからない。

結局のところ、誰かにまた新しい女を作られるくらいなら、私が細々と近くにいて、彼の肉体関係への期待に何が何でも応え続ける。そうやって何とか彼の心をつなぎ止めておく。それが今の彼女の心理だ。

心の底から、その上司が羨ましいなと思う。

息子のことが大事というのも、きっと嘘ではないんだろうと思う。しかし大事のレベルがやっぱり違う。「1番」という意味でないというのは、明らかだった。どこまでも彼女の中で一番は上司のことであり、自分が一緒になって作った家族のことは「2番」になる。きっと彼女は、上司が病気になったと知ったら、一目散に病院に行くんだろうな、事故に遭ったら泣くんだろうなと思った。

きっとこれが旦那だったら、そうじゃないんだろう。

ここまで書いてきて思ったのだが、この話の中で最終的に一番残念な立場になっているのは、きっと旦那と息子なんだと思う。不倫している罪滅ぼしに、彼女は愛情の代替えとして、たくさんのものを息子に買い与え、自由にさせている。え、そんな息子のいいなりなの?と思うようなことも何度かあった。

旦那には離婚したいとも言わず、かといって歩み寄ることもなく、仮面夫婦を続けている。それが彼女なりの「保険」なのだと知ったときには、妙なところだけしたたかだなと感心した。

自分が旦那の立場なら、知った時点で探偵を雇い、上司に莫大な慰謝料を請求する。社会生活から抹殺するくらいの勢いだ。それをしていないのは、きっと自分に対しても同じなんだろうと思う。それはさすがに気まずいと思っているのか、彼女と夫婦を続けられるなら、あとはなんでもいいやと思っているのか。それはやっぱりわからない。

彼女との話し合いが頓挫した時点で、これまでのことを正直に、旦那に全部話そうかと思った。結託して「もう全部終わりにしませんか」という提案も考えた。

しかしもう生きることに疲れた。なにもかも。

もう誰かを好きになることはない。ほんとに、ほんとに決めた。

一人で生きていくと。

病気をして、あれだけ誓った「もう人を好きになることはしない」という自分。

しかし残酷にも、すでにダブル不倫中の人妻を好きになってしまい、自分も、その安い昼ドラみたいな脚本の一翼を担ってしまったことに変わりはない。

これから、どうやって人生を修正していこうかなと、ぼんやり考えている。しかしまだ心に残る黒い感情が、それを許してはくれない。

彼女からもらったものや、思い出のものは、全て処分した。連絡先も消し、もう会うことも、話をすることもないと思うと、やはり寂しい気持ちになった。心の整理ができていない証拠だ。

しばらく人間関係を休みたい気持ちでいっぱいだ。自分は病気をして、一回りも二回りも強くなったと思っていた。でも自分は相変わらず弱いままだ。ゴールのないレースを走って、勝手に自滅したランナーに過ぎない。

心が回復するまで、どのくらいかかるだろうか。いい年こいた大人がこんなこと書き綴って、傷を癒しているなんて、甚だおかしい話であることは自覚している。しかし無理だ。

自分には、例えばこの経験を元に曲を作る才能も、情緒的な詩を書くことも、お金になるような小説の題材にするようなこともできない。この経験で一儲けできるのなら、いくらでもやってやるさ、とは思うけど。

書かないと、どこかに吐き出さないと死んでしまう。誰かに慰めて欲しい気持ちでいっぱいだ。でもこれだけ書いても、湧き上がってくる黒い感情をコントロールできない。

前から自分は普通の生活が欲しかった。好きな人と一緒になって、子供がいてという暮らし。世の中の大多数の人が手に入れた幸せを、自分は羨ましそうによだれを垂らしながら眺めている。

もう誰かと手を繋いで街を歩いたり、キスをすることもない。ずっと触れていたいという、抑えきれない感情に身を焦がすこともない。

ということで、バカなアラフォー男の話は一旦おしまいです。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

また何か書きたいことがあったら、追加で書いていきます。でもそれはきっと、負の感情です。

こうしてネットのある時代に生きていて本当に良かったと思います。

一人でも多くの人に読んで欲しいと思うし、どうかそっと、いつまでも残ってくれればいいや、という気持ちもある。

整理できてない証拠ですね(何回言うんだ)

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