映画『トラペジウム』を観ました。

ほぼ勢いだけ。

事前情報

最初にトラペジウムに触れたのは、別の映画の宣伝枠でした。
「はじめてアイドルを見たとき思ったの。 人間って光るんだって。」
この言葉には衝撃を受けました。
私にとってアイドルは、一時期やっていたシャニマスくらいでしか人生で触れてこなかった/興味を持ってこなかったものでした。
しかし、ここまで簡潔かつ直感的に、アイドルの魅力(本質かは別として)をわかりやすく手渡すことのできる文章は初めてで、まあまあな興味を持ちました。
原作者がアイドルという点やPVから受けた印象としては「平凡なサクセスストーリーかなぁ」と判断してしまい、最近まではその存在を忘れていました。

次にトラペジウムと顔を合わせるのはもう少し後です。
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション前章を観に行った後のこと、「後章が出るまで何して待ってりゃあいいんだよ」と、ふと思い出したのでトラペジウムのことをTwitterの検索窓に打ち込みました。
そこに述べられている感想は、私の持った第一印象とは180度異なったものでした。
「主人公が狂っている」
そう書かれるとまあ、興味を持たないというのも無理な話です。
ただこの時も「まあ、描き方が稚拙だったからそういう感想になったのかな」と一人合点してしまい、観ようという気持ちが起こることはありませんでした。

転機があったのはデデデデの後章を見た日の夜。
「面白かったよ~」と呑気に駄弁る私に、ある人間がトラペジウムの魅力をプレゼンしてくれました。
「女の子がギスギスするのが好き」
なかなかいい趣味をしているな、とは思いましたが、どうも話を聞く限り「意図的に狂った主人公にしているのか」
という予感がしたのです。
(注:私は目標に向かって狂ったように突き進む人間を美しいと感じます)
善は急げ、私はその話を聞いている最中に翌日の席を予約しました。
深夜三時のことでした。

鑑賞中

電車の中でノートを開くシーン。
私はこの時点で
「ああこれはやばいな」
と感じました。
この人の頭にははなからアイドルしかないのだ。
この異常性がトリガーとなって破滅が訪れるのだろうなと、震えました。
東ゆうさんは、とても魅力的でした。
とてもアイドルとは思えない表情や、緊張を隠せていない所作。
正直、終わった後はしばらく呆然としていました。

鑑賞後

東ゆうさんについて

彼女にとってはアイドルになれる人間がそうなりたいと願い、努力をするのは当たり前のこと、或いはそうでなければ勿体ないことなのです。
他の三人の感情に注意を向けていなかったのは確かではあるけれども、訊かれたならば
「皆喜んでいるのだ」
そう答えるのではないかと私は考えています。

人一倍アイドルに憧れているからこその緊張感が、彼女にはありました。
首筋を触る仕草や、ぎゅっと握った両拳。
ガチガチに緊張してる表情、いいよね。
手とかも好きです。
割と計画が雑で、失敗したら露骨に落ち込んだりイライラしたりするくせになんとかしてしまうところ。
大食いに挑戦するところ。
私はその妖しい輝きに焼かれてしまったのでしょう。

「トラペジウム」について

あの写真にトラペジウムと名をつけたシンジくんが私は好きです。
星を撮る人間らしい、詩的な表現ですね。
絶対にアイドルになるという目的の下では、東ゆうに見えていたのはたった一つの星だけで、私が目撃したのもそれだけでした。
しかし、彼は違う景色を見た。
各々が違う方向を向き、それぞれの夢を見ている。
彼はそこに四つの星を見出しました。
重星としての輝きも、それぞれの、そしてばらばらな方向を向いた星達としての輝きも肯定する言葉、確かにそこにあった青春の輝き、それがトラペジウムなのだと私は思います。

東西南北(仮)について

東西南北(仮)は誰の人生も壊しませんでした。
かなり危うくはあったけれど、ある種、東ゆうさんは皆に輝きを与える人物でした。
作品としての「トラペジウム」はあくまで東ゆうさんから見た物語。
私達が目撃したのは、東西南北(仮)の人生の、ほんの一部にも満たないのです。
東ゆうさんに出会う前の三人の生活も、感情も、或いは出会わなかった三人の生活も、感情も、推し量るには情報が少なすぎる。
「あの時の私」に向けた感謝も、夢を叶えることの喜びも、一人だけのもの。
そういうところも、そうじゃないところもある、人間とはそんなものなのでしょう。
そこにいたのは決して「東ゆうさんと、その他三人」ではなかった。
そこにあったのは相互作用であり、単なる介入ではなかった。
四人それぞれ、一人の人間として存在していて、多くのことを経験し、感じた。
出会えたことや、共に過ごした時間、それに付随する感情を否定する必要などなかった。
「思い出とか勲章とか言って」
東西南北(仮)の皆がそう思えていて、シンジくんがあの瞬間を「トラペジウム」と名付けたこと、それが何よりの答えであるのだと、私は感じました。

原作を読んで

ほぼ叙述トリックでしょこんなの。
あとナチュラルに性格が悪い。最高。
映画とは保管し合う形で、東ゆうさんの魅力をより鮮烈に焼き付けられたような気持ちです。
各人物の内面により焦点が合っており、より青春冒険譚的な印象が強かったですね。
ただ口が悪い。
好き。
あと最後の台詞ね…。
良い。

ちなみにシャニマスをやってたときはSHHisを推していました。

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